闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

マカロン

「それよりも、
他の勇者様にはきちんと
軽食は用意したのだろうな?」

「もちろんでございます」

「うむ、もうよい。下がれ」

ドラゴンロックがそう言うと、
メイドは頭を下げて
部屋を出ていった。
――のが、分かった。
俺はベッドに
寝転がっているだけ。
カメラも無ければ、
盗聴機を仕掛けている訳でも無い。
だが、俺には分かった。
ドラゴンロックとメイドの会話も、
メイドが頭を下げてから
部屋を出ていく様子も、
実際に見ていないのに
手に取るように分かる。
俺はもう一度目を閉じ、
心を落ち着かせてみた。

「マカロンでございます」

聞こえた。メイドの声だ。
今、テーブルに皿を置いた。

「わぁ!ありがとう」

この声の主は陽向だ。
目の前に置かれたマカロンに
歓喜の声を上げている。
皿に乗せられたマカロンは5個。
そのうちの一つを手に取り、
陽向は口に運ぶ。

「んー!おいしい!」

陽向の幸せそうな表情が
マカロンの味を語る。
もう一つ、また一つと
陽向はマカロンを頬張り、
あっという間に平らげてしまう。
メイドがマカロンをテーブルに置き、
陽向がそれを食べきるまで、
わずかに数分の出来事だ。
その一部始終を、
俺は感じることが出来た。
元より俺は、視力も聴力も
平均より少し高めではあったが、
壁の向こう側まで見えたり、
離れた部屋での会話が聞こえたり
することなど一度もなかった。
もし、これが勇者として召喚された
俺へのプレゼントの一つであるなら、
是非聞かせてもらいたい。
俺は、この世界では強いのか?
よくある主人公がチート並みの
強さでハーレムを作る系くらい
化け物レベルで強いのか。
あるいは、ほぼ無能力だが
一つだけ超特殊なスキルを持って
何だかんだ頑張っていく系くらいの
そこそこレベルで強いのか。
そして、元いた世界より
多少強くはあるが、
この世界では雑魚に等しい強さなのか。

「マカロン食いてぇ…」

気づけば、そんなことが口に出ていた。
正直、俺だけで考えても
何も解は出てこない。
糖分補給ついでに
マカロンでも食べたいところだが、
ここでドラゴンロックとメイドの
先程の会話が脳裏をよぎる。

『他の勇者様には、
軽食を用意したのだろうな?』

『もちろんでございます』

他の勇者というのは、
紛れもなく舞空や陽向達の事だろう。
実際、陽向の部屋には
マカロンが届けられているのだから。
俺は思い出す。
この世界に召喚されてから、
今の今までの事を。

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