闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

落ち着いた眠り

驚愕と共に周囲に目を向けると、
同じように彼らも驚いていた。
頻りに自分の右手の甲に
はまっている宝石を見つめ、
中を覗いたり、コンコンと
指で叩いたりしている。

「その宝石の色によって、
受ける守護が決まります。
その守護を上手く使いこなして、
ワシらの国を救って下され」

宝石の色と守護の因果を聞くと、
赤は太陽の守護を受け、
火属性の素質を得る。
青は海の守護で水属性、
黄は大地の守護で地属性、
緑は大空の守護で風属性、
白は雪の守護で氷属性、
黒は影の守護で闇属性、
と言う事らしい。
さらに、受ける守護によって、
2つ名も必然的に決まる。
太陽の守護なら、太陽の勇者、
海の守護なら、海の勇者、
といった具合だ。

「勇者様ご自身でも、
まだ理解するのも難しいでしょう。
出発は明日の朝にして、
今日はもうお休み下さい」

確かに、今は心を整理する為の
時間が必要だと思う。
目の前で起きたこともそうだし、
自分がこの国を救う勇者である事、
そしてこれが夢なんかではなく、
現実であるという事……。
俺達はそれからすぐに
個人別の部屋へ案内され、
各々の過ごし方をした。
部屋に来てすぐに
メイドが持ってきた紅茶で
ホッと息をつく。
紅茶よりコーヒー派の俺には
合わないと思っていたが、
いざ飲んでみると
とてもいい気分になった。
もし俺が陰キャなんかではなく、
コミュニケーションに特化した
明るい性格の持ち主なら、
他の人の部屋に行ったり
するのだろうが、俺には出来ない。
ティーカップの底に僅かに
映る自分の顔に悪態をついてから、
俺はベッドに倒れ、
天井に掌を掲げてみる。
右手にはまっている漆黒の宝石。
夢ではない、現実だ。
頬をつねれば痛いし、
五感もしっかりしている。
窓から吹き込む風は
爽やかな香りがするし、温かみもある。
その時、俺は、不意に眠気に襲われた。
穏やかな空気に、
心が落ち着いているからだろうか。
瞼を閉じると、意識はすぐに薄れ、
俺は久方振りに深い眠りに落ちた。

「国王様、手配通りに致しました」

太陽が傾き、月が顔を出す頃、
他の部屋よりふた周りも大きな
ドラゴンロックの私室で、
ドラゴンロックとメイドが
怪しい会話をしている。

「うむ。苦労を掛ける。
千夜様には悪いが、
これもこの国を守る為。
世の中、犠牲は付き物なのです」

暗闇に浮かぶ三日月を
遠目に眺めながら、
ドラゴンロックはワインを煽る。
ワインの赤色が残る口元に
不気味な笑みを浮かべ、
ドラゴンロックは笑った。


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