闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

結果、謙虚

「いやーすまんかったのぉ!
ワシらの国の未来を託す勇者様が
信頼にあたるお人かどうか、
少しばかり試させてもらいました」

酒の入った杯を掲げ、
大きな口を開けながら
ドラゴンロックは豪快に笑う。
やさぐれた表情も、
無常に生やされたひげも、
今日の日の為の作り物で、
どうやらこのドラゴンロックが
素であるようだ。
しかし、中々どうしてか、
ドラゴンロックへの疑惑が
解消したのに、
目の前に俺なんかには
もったいないくらいの
ご馳走が並んでいて、
食べていいと言われているのに、
全くもって食欲が湧かない。
こんがり焼かれた骨付きのチキン、
分厚いステーキ、具沢山のピザ、
生ハムのサラダ、コーンスープ…。
嫌いな食べ物はない。
むしろ好きな物しかない。
ドラゴンロックはもちろんのこと、
舞空も陽向も不動も
美味しそうに料理を頬張っている。
一方で、白波はただリンゴを
色気のある小さな口で
シャリシャリ食べており、
雪乃に至っては、
よほど気に入ったのか、
一心不乱にパスタを啜り、
気がついたら隣りの
白波の分のパスタに手を伸ばし、
向かいの俺のパスタを
じっと見つめていた。
俺は食べる気がないので、
雪乃の前にそっとパスタを置く。

「いやはや、ワシの見立て通り、
千夜様はお優しいお方ですな」

すっかり砕けた喋り方になった
ドラゴンロックは、
骨付きチキンを片手に
俺に話を振った。
口にご飯を詰めたまま
人と喋るなとママに
教わらなかったのかと、
内心で思ったが、俺は大人だ。
いちいちそんな事は言わない。

「美味そうには見えるが、
平民育ちの俺には眩し過ぎる。
それに、今は食欲がなくてな。
どうせなら食いたい奴に
食わせた方がいいだろ」

といいながら、
俺は正面の雪乃に目を向ける。
相変わらずパスタに夢中な雪乃は
俺の視線など気にならないらしく、
ただただパスタを食べている。
すると、ドラゴンロックは
二度豪快に笑い出し、
満足した顔を浮かべる。

「千夜様はどこまでも謙虚ですな。
きっとその謙虚さが、
先程の『素質鑑定』にも
結果として出ていたのでしょうな」

『素質鑑定』の結果というのは、
席に着いた時に、
先程までと同じ若いメイドが
報告してくれた。
しかし、先程までと違うのは、
あの機械のような声ではなく、
感情を取り戻した明るい声色で
喋っていたことだった。
そしてその内容は、
優秀だと判断された順に、
俺、白波、舞空、陽向、雪乃、不動。
布団を整えただの窓を閉めただの
項目に加えて、最後にドラゴンロックに
きちんと不満を口にしたことが、
俺が最も優秀だと
判断された理由らしい。
俺としてはすこぶるどうでもいいのだが、
それを聞いた白波が、
思い切りナイフを
握り締めていたのを、
俺は見逃さなかった。

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