闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

異世界への本

何やら意味不明な
謎イベントに遭遇したが、
俺は無事に図書館に辿り着いた。
チラッと時計に目をやれば、
10時を過ぎた頃である。
受け付けのカウンターを過ぎ、
本棚と本棚の間の通路を
スタスタと歩く。
平日のこの時間となれば、
ここにいるのは
お年寄りと大学生ばかり。
固まって認知症予防の絵本を
読んでいたり、
難解そうな参考書を積み上げて
頭を掻きながらレポートに
ペンを走らせていたり。
きっと明日も似た日常を
この人達は送るのだろうな。
なんてことを思いつつ、
俺は比較的いつも空いている
奥の飲食解禁スペースに進み、
陽の当たらない壁際の
一角の席にレジ袋を置く。
その足で俺は
ここから一番近い本棚に近寄る。
その棚には、著者が外国人の
物理学や精神学等の
論文集が並べられている。
小説やスポーツ誌もいいが、
最近の俺はこうした
学のある書物にも
面白さを見出していた。

「何だこれ?」

さて、今日は何についての
論文を読もうかと思っていると、
一冊の本が俺の目に留まる。
タイトルは、『救え』。
様々に〇〇学の本が並ぶ中、
明らかにそれだけが
異彩の雰囲気を纏っている。
厚みもあり、只者ではないと
直感的にそう思ったのか、
引き寄せられるように
その本に手が伸びていた。
血溜りを連想させる
赤黒い革の表紙には、
殴り書いたような字で
『救え』とだけ書かれている。
出版社名もなければ、著作者名もなく、
さらにおかしなことにその本には、
図書館が管理する為の
バーコードシールも
貼られていなかった。
そして、俺はその本を
元の位置には戻さず、
無意識の内に開いてしまった。
そうしてしまったが最後。
突如として眩い光が溢れ、
一瞬の間でその場から
俺の姿と本は消え失せた。
アニメやラノベも
たくさん漁っていた俺には
すぐに分かってしまう。
これは、あれだ。
異世界に勇者として召喚されるも、
攻撃手段を持たない盾の勇者で、
何の活躍も出来ないと思いきや、
異世界で無双して成り上がる――。
っていう奴だ。
あぁ神よ、可能なら俺を
後ろから援撃するだけの
魔法系勇者にしてくれ。
それなら一人でも複数でも戦えるし、
支援系のポジションは
ゲームでも重宝される。
何より最前線とは違い、
死亡する可能性も低いし、
いざとなったら仲間を置き去りに
逃げることだって容易だ。
俺は姿も見えない神に
一縷の望みを託すと、
俺の意識はだんだんと薄れていき、
やがて途切れた。

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