《完結》解任された帝国最強の魔術師。奴隷エルフちゃんを救ってスローライフを送ってます。え? 帝国が滅びかけているから戻ってきてくれ? 条件次第では考えてやらんこともない。

執筆用bot E-021番 

6-3ウィルVSネロ

「久しいな。帝国魔術師長を解任されてたって言うじゃねェーか」


 馬上。
 ウィルはネロ・テイルを見下ろした。


 黒目に黒髪の男。背丈は高いけれど、体格が良いとは言えない。風で吹き飛びそうな痩躯である。その魔力を知っているウィルからしてみれば、不気味なカゲボウシにも見える。


「オレが解任されたタイミングを狙って攻めてきたのか」


「当たり前だ。てめェがいなけりゃ、こんな国は落とせるンだからよ」


 周囲。
 ウィルとネロの周囲だけ、人がひとりもいなかった。まるで決闘上に立っているかのようだ。ウィルとネロの魔力によって、吹き飛ばされたからだろう。そして誰も近寄ろうとしないのは、巻き添えをくらわないためだ。ウィルの引き連れてきた王国騎士と、ネロの連れていた帝国魔術師たちが入り乱れている。


「そうかな? 帝国はそう甘くはないがな」


「なに言ってやがる。現実に帝都目前まで攻められているじゃねェーか」


「各地の国境に、優秀な者たちは派遣されてるからな。しかし、帝都の危機となると優秀な帝国の者たちは戻ってくるさ」


「私には、あんたしか見えないね」


 たしかにネロの言葉には一理あった。こたびのホウロ王国軍の進撃は、あまり長くは続けられない。まっすぐ帝都へ進撃してきたせいで、周囲への気配りが出来ていないのだ。帝国の国境沿いの戦士たちが戻ってくる前に、勝負を決める必要があった。しかしそれを踏まえても、やはり帝国最強の魔術師はこの眼前の男だという思いが、ウィルのなかにはあった。


 そしてこの最強の魔術師の相手をできるのは、自分しかいないという自負もあった。


「オレもずいぶんと好かれたものだ」


(おそらく私は……)
 ネロ・テイルという男に惚れている。異性として好きという意味ではない。この男の強さに惹かれているのだ。だからこそ打ち負かしたいと思う。屈服させたい。蹂躙してやりたい。征服してやりたい。


「いちおう聞いておくが、ホウロ王国に雇われるつもりはないかい? あんたを解任するような国に未来はないぜ」


「セッカクのお誘いだが、お断りさせてもらおう。オレが帝国魔術師長に戻るにあたっては、ふんだんに条件をつけさせてもらったんでな」


「帝国は、あんたほどの魔術師が守る価値のある国かい」


「成し遂げたいことがあるのさ」


 勧誘を断られたのは半分は落胆であり、半分は喜悦だった。この男と背中を合わせて戦えないのは残念ではある。が、敵として立ってくれなくては、物足りなくもある。解任されたり再任されたりするにあたって、いろいろと事情があったようだ。が、それに関してウィルは興味はない。


 ウィルが興味を惹かれるのは、ただ強いか否か。その点のみだ。


「なら、悪いが帝都が目前に迫ってるんだ。今日こそ、その首を獲らせてもらうぜ」


「獲れるものなら」


 対峙。
 にらみ合う。


 周囲は依然として戦がつづいている。雄叫びに悲鳴に、剣や防具のひしめき合う音が響きわたっている。が、どれも耳には入らない。今はネロとウィルの二人だけの空間だった。無音だった。風もない。弧を描くようにネロの周囲を馬で回る。どこから切り込むかタイミングと間合いをはかる。


 ふつうならば――。


 どう考えてもウィルのほうが有利だ。馬上で剣も使える。しかもこの間合いなら、魔法を発動するよりも、剣が届くほうが早い。


 しかし。
 この男は、普通ではない。


 否。
 考えるのは性に合っていない。
 ただ、衝突するのみ。


「参る!」


 馬の腹を強くはさみこんだ。馬が地を蹴る。その振動がウィルのカラダにも伝わってくる。まるで馬と一体になったかのような感覚になる。剣。ネロに斬りかかる。ネロは1歩たりとも動かない。


 魔防壁シールド。半透明の盾がウィルの剣を防ぐ。やはり魔法の発動が速い。この間合いで戦っても、剣と互角の速度でやりあってくる。斬りかかっては防がれる。防がれては斬りかかる。衝突するたびに突風が巻き起こる。


鉄槍アイアン・ランス


 ネロが叩きつけるように地面に手をついた。ウィルの足元に魔法陣が浮かび上がる。目視した瞬間に鉄の槍が、地面から突きあがってきた。どうやらウィルのことを串刺しにしようとしているようだ。ただの鉄槍ではない。まるで城塔のような大きさだ。ウィルは咄嗟に反応して、その場から駆けた。が、逃げた先からも城塔のような太さの槍が突きでてくる。


「面白い!」


 突きでている槍を、ウィルは切り伏せた。根本から切断された槍が、ネロのもとに倒れて行く。
 さすがにネロはその場から避けていた。


 倒れた鉄槍が砂塵を巻き起こした。砂塵にウィルは目をほそめた。ネロの姿を見失う。砂塵のなか。不意の殺気がウィルを襲う。巨大な岩の手だった。殴りかかってきた。


「危ねェ」


 魔防壁シールドで防いだ。ウィルも魔法は得意だ。魔法で風を起こして砂塵を吹きはらった。土砂を寄せ集めてできたような巨大な人形がそこに立っていた。


土人形ゴーレム召喚かッ」


 並の魔術師が召喚する土人形ゴーレムの大きさは、せいぜい人間と同じぐらいの大きさだ。眼前の土人形ゴーレムはどうだ。人の大きさなどとは比べものにならない。土人形ゴーレムの指の大きさだけで人と同じぐらいだ。


「でけぇぇッ」
 と、ウィルは興奮に声をあげる。


 召喚した土人形ゴーレムの大きさは、魔術師の魔力の強さに比例する。すなわちこの大きさは、ネロの魔力の大きさを意味している。


 これでこそ【マクベスの悪夢】である。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く