《完結》解任された帝国最強の魔術師。奴隷エルフちゃんを救ってスローライフを送ってます。え? 帝国が滅びかけているから戻ってきてくれ? 条件次第では考えてやらんこともない。

執筆用bot E-021番 

6-2豪魔のウィル

 丘陵イッパイに描かれた白い魔法陣。
 そこから出現した半透明の騎士たち。
 いったい誰の魔法なのか、ウィル・ヘティアにはすぐにわかった。


(魔霊騎士召喚魔法)


 ヤツが出てきたのだ。
 ネロ・テイル。またの名を【マクベスの悪夢】。


 詳細はわからない。しかし、ネロが帝国魔術騎士長を解任されたという情報を、間諜が持ち帰った。最初は罠かと思った。間違いない情報だとわかった時点で、総力をあげて帝国を叩くべきだと進言した。その決断に間違いはなかった。おかげでホウロ王国軍は快進撃をつづけていたのだ。砦を3つも落としたうえに、野戦でボッコボコにしてやった。


 運もあったと思う。何年かけても落とせなかったザミュエン砦を突破したことで、ホウロ王国軍は勢いづいていたのだ。しかしなにより、ネロ・テイルがいないという点が大きかった。


 そしてついに――。
 帝都目前の丘陵に迫った。そんな時だった。帝都を守護するようにして、魔霊騎士の軍勢が現われたのだった。
 その白く揺らめく半透明の騎士の姿を、ホウロ王国軍の騎士ならば知らぬ者はいない。ネロ・テイルの得意魔法だからだ。たった1人の魔術師が、軍勢を召喚するのだから、そりゃ近隣諸国から畏怖されるというものだ。


(ヤツが出て来たか)


 戦慄をおぼえた。
 さまざまな感情が、ウィルに戦慄を与えたのだ。


 ひとつは絶望。あと1歩で帝都に手が届くということで巨大な壁が立ちはだかった。これに絶望を覚えた王国騎士は多いはずだ。


 解任されたのではなかったのかという疑問もあった。


 そして3つ目は喜悦。正直、ネロのいない帝国軍などウィルにとっては赤子の手をひねるようなものだ。手ごたえがなかった。ここに来て、ようやっとウィルを唸らせてくれる好敵手の登場に興奮をおぼえた。


 そんなさまざまな感情がウィルの体内で渦巻いて、戦慄という形で発露したのだった。


 ウィルは大隊を率いて、魔霊騎士の群れに突撃を行った。今日こそネロを討ち取ってやろうと決めていた。


 ここ数日の快進撃。最高に調子が良い。目前に帝都が迫っており、王国軍のテンションは最高状態になっている。今日ならばヤツを討ち取れるかもしれない。正直、ウィルにとっては帝国を陥落させることよりも、ネロという男を討ち取ることのほうが大きいことのように思える。


「豪魔のウィル大隊。私に続けッ」


 そう掛け声をあげて、馬を走らせた。前衛に構えている重装備の魔霊騎士を踏み蹴散らした。
 1層2層と敵陣をえぐってゆく手ごたえがあった。


 ウィルは王国6大魔術師とうたわれるだけあって、優れた魔術師だという自負がある。それと同時に、前衛を駆ける戦士でもある。強化魔法エンハンスでみずからを強化して敵陣に切り込むのだ。


 不意に、ウィルは敵陣を突きぬけた。
 正面。
 視界は開けている。
 あとは突き進むだけだ。


「抜けたァァァ――ッ。狙うは【マクベスの悪夢】の首ひとつ」


 鯨波と言うべき声を、仲間たちがあげていた。まるで巨大な獣の唸り声を聞いているかのようだった。ウィルもいっしょになって雄叫びをあげていた。


 心地良かった。
 戦場にいるときがイチバン心地が良い。


 難しいことや複雑なことを考えるのは、ウィルは得意ではない。貴族たちの事情とか、政治のこととか、税収がどうとか、犯罪率が銅だのと言う話は、聞いているだけで頭が痛くなってくる。


 なにも考えず、敵へ向かっていく。そのときだけは、余計なことを考えずに済む。軍師ならば別だろう。しかしウィルは軍師という立場ではない。ただ、部隊を率いて突っ込むだけだ。


 後ろ――。
 振り返る余裕はない。感覚でなんとなくわかる。この魔霊の軍勢を突破しているのは、ウィルの部隊だけだ。


 ならば。
 自分がネロの首を獲るしかない。
 術者であるヤツさえ討ち取れば、この魔霊騎士も消失するはずだ。


 丘の上。ネロ・テイルの姿を目視した。まだすこし距離が離れている。疾駆した。地面。岩の手ロック・ハンドが生えてくる。ひとつひとつは大きいものではないが、数が多い。無数の岩の手が馬の足をつかんでくる。ウィルはそれをかわすことが出来た。けれど後続の多くは、絡め取られて落馬したようだ。何人残っているのか? 確認する余裕はない。


 ただ、前へ進むだけだ。


 そしてついに、互いの表情がわかるぐらいには接近した。ネロ・テイルと相まみえるのは、これで何度目かわからない。こうして近くで見るたびに思う。この男の魔力のすさまじさに圧倒される。全身から陽炎のように魔力がたちのぼっている。その様は、人という皮をかぶった魔力のカタマリにも見える。いっときでもこの男が帝国魔術師長を解任されたと言うのだから、帝国の連中はよほど見る目がない。


 いや。
 むしろ。
(私の眼が良すぎるってことか)


 ついに間合いに入った。
 この間合いならば、斬れる。通常の魔術師は接近戦に弱い。魔法も剣も扱えるウィルのほうが有利だ。


「よォ」
 と、馬上からロングソードをふるった。


 防がれた。白銀の髪をした女。たしかルスブンとかいう帝国魔術師部隊の副官をつとめている女だ。


「師匠に手はださせんッ」
「すっこでな! ザコッ」


 この副官も優秀な魔術師なのだろう。が、せいぜい凡人が努力したていどのレベルだ。ウィルが見ているのは、ネロだけだった。強化魔法エンハンスによって、ウィルの全身は鉄のように固く、ムチのようにしなやかで、破城鎚のようなチカラがあった。


 剣にチカラを込める。
 ルスブンは大きく後方へと吹き飛ばされた。ウィルはネロに向かって猛進する。剣を振るう。


 獲った。
 そう思った。


 が、ウィルの剣を、ネロの魔防壁シールドが防いだ。2人が衝突したとき、互いの魔力もまた衝突した。竜虎相搏の魔力が突風を巻き起こした。周囲にいた帝国魔術師も、王国騎士たちも吹き飛ばしていた。


(やっぱり、こいつがいなけりゃ、戦ははじまんねぇ)
 と、ウィルはみずからの血が沸騰するような興奮をおぼえた。

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