やしあか動物園の妖しい日常

流川おるたな

河童のワッパさん

 やしあか農園の看板下にある木製のドアが入り口になっていて、そこから鍵の掛かっていないドアを開けて二人一緒に堂々と入る。

 日中なら目の前には野菜の植えられた畑や、果物のなる木が見えるはずなのだけれど、今は暗くてその影のような形しか確認できない。

「久慈さん、キュウリ畑の場所って分かります?」

「.........................」

 あれ!?返事が無い。もしかして...

「...ごめん。キュウリ畑の場所を忘れちゃったみたいだ。明るければ思い出せるんだけど...随分と久しぶりに来たからなぁ」

 アウチ!でも久慈さんを責める気は毛頭ありません。
 さて、どうしたものか...

「あっ!この入り口で待っていれば、ワッパさんと鉢合わる事が出来るのでは?」

「...ん~、良い考えなんだけど、それだとワッパさんがフェンスを超えて出入りした場合は会えないね」

 そうかぁ、妖怪だもんなぁ。フェンスなんか余裕で超えられるかも知れない。
 ならば...

「試しに呼んでみましょうか?今なら昼間より声が届きそうですよね」

「あ、ああ。それは構わないけど....」

 よし!ありったけの声を張り上げて呼んでみよう!

「河童のワッパさーーーん!もし、近くに居たら出て来てもらえませんかーーーっ!」

 広い農園にわたしの声が響き渡る。
 暫く待つもワッパさんは出て来ない...と思ったその時!

「呼んだ~」

「ひぃえっ!?」

「うぉをっ!?」

 突如として後ろから声が聞こえ二人とも変な悲鳴を上げて驚いた。

 二人同時にゆっくり後ろを振り向くと。

「きゃっ!?」
 
 今度はわたし一人だけが驚く。
 目の前に妖怪そのままの姿をした河童が居たからだ。身体が水でびしょびしょの...

「ワッパさんお久しぶりです」

 面識のあった久慈さんが驚かずに声を掛ける。

「やあ久慈っち。久しぶりだね~。そっちは新人の紗理っちかな?」

「そうです!初めましてワッパさん!」

 よ、よ~し!少し落ち着いて来たぞぉ。
 ワッパさんには失礼かも知れないけれど、薄暗いところでまんまの妖怪の姿はインパクトありありで怖かったのだ。

「今からキュウリを食べたいところなんだが、俺っちを呼んだと言うことは何か用事でもあるのかい?」

 あ、忙しければ別に...いや、滅多に無い機会だろうから訊いておこう。

「あのぉ、突然の質問で申し訳ありません。このあいだ[河童の妙薬]と云うのを飲んだんですけど、あれって二日酔いの薬なんでしょうか?」

「なにっ!?あれを飲んだって言うのかい?」

 なんだなんだそのリアクション!?やっぱり飲んだらまずかったの?

「は、はい。飲みましたけど何か問題でもあったんでしょうか?」

 正直なところ、わたしの心は心配で埋め尽くされていた。

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