やしあか動物園の妖しい日常

流川おるたな

天ぷらを食べながら...

 お腹が減っているせいか園長の食べている物が気になり、我慢できずおもむろに手元を見てみると。

 げっ!?わたしの好きな天ぷら定食だ。エビや野菜達が衣を羽織るその姿が食欲をそそりまくる。お、美味しそう…

「紗理っち、よだれ」

「えっ!?」

 久慈さんがそっと教えてくれるまでよだれが出ていることに気付いていなかった。慌ててハンカチを取り出し拭き取る。は、恥ずかしいなぁ…

「黒川さんがここに出勤するのは今日で確か4日目ですよね。どうですか?やしあか動物園での仕事の方は」

 園長が天ぷら定食を食べながら仕事の感想を訊いて来る。
 何だかずるいなぁ。わたし達の日替わり定食も早く来ないかなぁ…っと、園長の問いに答えなければ。

「初日は驚きの連続でしたけど今は少し慣れて来ていると思います」
 エビ天を口にした園長が微笑を浮かべている。

「そうですか。慣れてくれて私も嬉しく思いますよ。普通の人間の女性には大変かも知れませんが、あなたは魔女で特別な人間です。きっとこれからもやっていけることでしょう。仕事を楽しみながら頑張ってくださいね」

「はい!頑張ります!」

 と元気よく返事はしたけれど、お腹が減った状態のまま目の前で美味しそうに天ぷらを食べられると、有難い園長の励ましの言葉を聞いても嬉しさ半減といったところだった。

 おっとそうだ!日替わり定食が来た暁には食べることに集中したい。
 先に例の件を訊いてみよう。

「園長、ちょっと訊いても良いでしょうか?」

「...なんなりと」

「河童のワッパさんに会ってみたいんですけど、どうしたら会うことができるのでしょうか?」

「…ほう、ワッパさんにですか…。一番手っ取り早いのはやしあか農園で待つことでしょうね。彼は閉園後にお客さんの姿が見えなくなると、農園で栽培しているキュウリを食べに行っているようですから」

 この動物園には農園まであるのか。今まで聞いた「やしあかシリーズ」は、これで四つ目だ。ひょっとしたまだ出てくのるかも知れない。

「教えていただきありがとうございます。園長」

 あとでやしあか農園の場所を久慈さんに訊いて今日の夕方にでも行ってみよう。

 そんなことを考えていると、ドアをノックする音が聴こえ、わたしお待ちかねの日替わり定食を持ったワラさんとカヤさんが部屋に入って来た。

「お待ちど~!あっ、園長。本日の天ぷら定食の味はどうですか?」

 わたしの日替わり定食をテーブルに置きつつ質問するワラさん。

「最高に美味しかったよ。ナカさんにもそう伝えてください」

「畏まり~!ちゃんと伝えておきまっす!バタバタなんでこれで失礼させてもらいますね~」

 ワラさんは園長にそう言うと、カヤさんと一緒に早々と部屋を出て行った。

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