やしあか動物園の妖しい日常

流川おるたな

変な正義感

 朝から重めな久慈さんの失恋話も終わり、程なく担当動物コーナーに到着。

 掃除をしようと馬小屋に入ると、直ぐに旅人馬のシーバさんが近寄って来た。

「おはよう紗理っち、昨日は仕事休みだったんだな?」

「あっ、シーバさんおはようございます!そうなんですよ。入社して初めての休みをいただいてました」

「そうか、それは良かったな。君の代わりにモン爺が来て、給餌や馬小屋の掃除をしてくれたんだが、あの爺さん、悪戯してくるものだから注意したんだよ。そしたら口論になって大変だった」

 今朝の朝礼で副園長が社員のことを褒めていたのに…まぁ、副園長も付きっきりで監視出来る訳ではないから見逃すこともあるだろう。にしても、モン爺さんと来たらいい歳して何をしてるんだか。やれやれ。

「何だか休んでしまって申し訳ないです。すみませんでした」

「いやいや、言い方が悪かったな。モン爺へのムカつきが収まらずつい愚痴を溢してしまった。別に君を責めてる訳じゃないんだよ。ただ単に、新人だけど気が利く君が担当で良かったと伝えたかっただけだ」

「そんな風に言って貰えてとても嬉しいです。ありがとうございます!あと愚痴ならいつでも言ってください。わたしは聞くことしか出来ませんけど」

 シーバさんに言われた言葉が素直に嬉しくて、顔を赤くしながらお辞儀してお礼を言った。でも昨日のことを今日まで引きずっているなんて、シーバさんはよっぽどモン爺さんにムカついているらしい…

 朝の掃除と給餌を一通り済ませ、久慈さんと歩きながら事務所へ向かう。

 シーバさんから聞いたモン爺さんとの一件を、元気の回復したように見える久慈さんに話してみた。

「そんなことが二人の間であったのかぁ。モン爺さんはトラブルメーカー的存在なんだよ。だから揉め事の話は良く耳にするんだ」

 わたしは事務室での自己紹介を思い出し、何の抵抗も無く「そうだろうな」と納得した。

「何とかならないんでしょうか?モン爺さんの悪戯好きは」

「ハハハ、絶対に変わらないとは言い切れないけれど、もう年齢的に変わるの難しいんじゃないかな」

「ん~、なんとかしたいなぁ…」

 新人で若僧のわたしがそう考えるのはおこがましいかも知れない。
 だけど変な正義感というか何というか、そんな感情がわたしの中に湧き出ていた。

「紗理っち、そんな顔して深く考えることは無いよ。妖怪達の関係って人間のそれとは少し違ったりするからね。話を聞くのはいいけど、出来るだけ介入せずに静観しておくのがベストだと僕は思うよ」
 
 なるほど、流石は先輩。そっか、人間と妖怪という存在は根本的なところで違うもんなぁ。
 
「久慈さんの言っていることは何となく分かりました。取り敢えず慣れて行くしかなさそうですね」

 うん、今は良いアイディアも出ないしそういう事にしておこう。
 
 

コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品