やしあか動物園の妖しい日常

流川おるたな

失恋話

 さて、どうしたものだろう...人の失恋話を朝早くから聞くのは初めてだ。

 いやいや、そんな話しを聞くタイミングなどどうでも良い。突っ込んで訊くべきか、受け流して別の話に持っていくべきか、はたまた相手の出方を待つべきか考える。

「あれっ、突っ込んで訊かないんだね。紗理っち」

 訊いて欲しかったんか~い。
 
「じゃ、じゃあ訊いちゃいますけど相手はどんな人なんです?」

「あ、うん...」

 あれあれまた黙っちゃった。ま、まあ、わたしも失恋の経験が無い訳でも無いし、ハートブレイクしていれば情緒不安定になるのも分からないでもない。こんな状態の人を相手に話を聞くならば、きっと急かすのは良くないことだろう。

「....................」

 何とも言えない沈黙が続く。
 それに付き合ってジッと堪えるわたし。

「学生の時に飲食店でバイトをしていたんだ。その時に知り合った年上の女性でさ。世話好きな人で僕が新入りだった頃に優しくてくれて、そこから友達みたいな関係に発展したんだけど、気付いたらいつの間にか好きになってたんだよ」

 おぅ、打って変わって一気に話してくれてありがとうございます。

「それで昨日、遂に告白したって訳ですね」

「そうなんだよ。友達関係が壊れるのを覚悟でぶつかったら見事に玉砕してしまったんだ」

 異性との友情論とか深く考えたことは無いけれど、大抵の場合はどちらも異性として意識しなければ成立して長続きもあり得るというのがわたしの持論。
 どちらか一方が異性として興味を持ってしまった場合は、友達関係の維持は難しいのでは?
 おっと、わたしの頭が異性との友達関係云々というあらぬ方向に行ってしまった。

「因みにどんな場面で告白したんですか?」

 久慈さんが少し吹っ切れて来たみたいなので、興味津々になってしまい訊いてみた。

「えっと、夕方頃に合流して映画を観に行ってから、ラーメン屋で二人してラーメン食べ終わったあとにその場で告白したんだよ」

「へ、へ~ラーメン屋で...」

 別に婚約指輪を渡す訳では無いからそこまで場所にこだわる必要は無いけれど、わたしならラーメン屋で食べ終わったあとに告白されてもなぁ。と思う。ただ色々な意味でドキドキするかも知れない。

「お、紗理っちにぶっちゃけたら少し気分が晴れて来たぞ。やっぱりこういうのって人に話すと気が楽になるのかもね。話を聞いてくれてありがとう」

「あ、いえいえ。わたしはただ聞いてただけですから」

 まだまだ訊きたいことがあったけれど、久慈さんの表情がいつもの感じに戻りつつあったので止めておいた。
 


 

 

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