やしあか動物園の妖しい日常

流川おるたな

緊急家族会議

 その夜のうちに緊急の家族会議が開かれ、今後のラズの世話をどうやって行くかを話し合った。

 黒川家の家族会議は父では無く、なぜかいつも母が仕切る。性格上、母の方が適役であるのは父を含めた全員の総意。

「じゃあ始めるわよ。まずは...」

「あっ!ちょっと待ってお母さん。これ、今朝預かったお金。封筒の中は全額入ってますのでお返ししておきます」

 ペットショップで猫を買って使うはずだったお金は、ラズが現れてくれたお陰で結局一円も使わなかった。だから返しておかなきゃね。

「まあ、これからラズのために色々必要になるからね。このお金は備品や餌代に使いましょう。お父さんとお母さんの稼ぎから出してあげる」

 おお!太っ腹!だけど社会人となった今、親の厚意をそのまま受けてしまっても良いのだろうか?

「ん~それは余りにも甘え過ぎだと思うから餌代は給料からわたしが出すよ」

 子供の頃には言ったことの無い言葉。わたしも成長したじゃないか!偉い偉い!自分で自分を褒めていた。

「ふ~ん。後悔しても知らないわよ」

 母が微笑を浮かべて嫌なことを言う。

「失敬な!後悔なんてしないわよ。ラズのためなら全然問題無い」

 犬と比べると猫の餌代は比較的安いということは調べてある。わたしの給料でも払って行けるはずだ。

「じゃあ、サリは明日からまた仕事だろうから、必要な備品やミルクはわたしが買って来るわね」

「何だかお母さんに任せっきりで悪い気がするな。僕にできることは無いかい?」

 黙っていた父が率先して負担を請け負う役割を求める。

「あなたは仕事で忙しいだろうから、時間のある時にミルクを飲ませてくれればそれで良いわ」

「分かった。そうさせて貰うよ」

「あっ!それならラズの糞やおしっこは僕が片付けるよ」

 弟も負けじと?名乗りを上げる。

 こんな感じで話合いは進んで行き、それぞれの役割も分担も決まり、1時間ほどで家族会議は終了した。
 うちの家族って意外に協力的なところもあるんだなぁ...

 母がわたしと弟が赤ん坊の頃に使っていたクーファンを物置から引っ張り出し、中にマフラーを入れてラズの簡易な寝床を作ってくれた。

 家族全員に就寝の挨拶を済ませ、そのクーファンを手に取って自分の部屋に入る。

 ベッドの横にクーファンを置き、暫くラズと一緒にベッドの上で過ごした。

「ラズ~、君は何て可愛いのぉ」

 YouTubeで観ていた子猫達よりも、やっぱり実物の方が断然可愛く、食べてしまいたほど愛おしく想える。

 でも今日のラズとの出逢いって、よくよく考えてみれば凄い奇跡なのよねぇ。何もかもがタイミング良くいかなければラズとの出逢いは無かった訳だし...

 わたしは気持ち良さそうに眠るラズをクーファンに入れ、今日一日の出来事を頭の中でリプレイしながら眠りについたのだった。

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