やしあか動物園の妖しい日常

流川おるたな

子猫のよちよち歩き

 定食屋を出たあとは特に何がしたいという訳でもなかったので家に帰ることにした。

「はぅ~、こんな筈じゃ無かったんだけどなぁ」

 自転車のペダルを漕ぎながら手ぶらの自分を嘆いてボヤく。

 河原を通ると川の水がキラキラと輝いて見えた。小さい頃はこの河原の土手に寝転んで、空をぼボ~っと見て気持ち良かったのを思い出し、久々にやってみることにした。

 自転車を河原の土手に横倒しにして、その横で仰向けになって寝転ぶ。

 空を見上げると午前中と変わらず晴れ晴れとしており、大小の雲がゆっくりと風に流される。

「ん~!今やってもやっぱり気持ちいいじゃない!」

 腕と足を真っ直ぐにおもいっきりピンと張って身体を伸ばした。
 出来るだけ何も考えないようにして青い空と白い雲を眺める。

「空気も美味しい...」

 猫を選べなかったことや、ランチがイマイチで「なんだかなぁ...」と思っていた気持ちがスーッと薄れて行った。

 満腹のお腹と丁度良い気候で眠気がして来たその時...

「...ァー...二ャ...二...ニャー、ニャー」

 子猫の鳴き声だ!遠くからこちらに向かっているのか、徐々に鳴き声が大きくなって聴こえる。

 ムクっと身体を起こし鳴き声の聴こえる方向を見ると、黒い子猫がこちらに向かってよちよちと歩いて来る姿があった。
 
 子猫が「ニャーニャー」と鳴きながら頑張っているので、こちらに辿り着くまで待つことにする。

 草むらをかき分けてのよちよち歩きが可愛くて堪らない。かなりのところまで近付き、子猫の顔がはっきりとして来る。

 正直なところペットショップに居た高額な子猫達と比べるて特徴が無く、そこら辺に居るような野良猫に近い。

 でも、ペットショップの子猫達では決めかねていたわたしのハートをガッチリと鷲掴みにする何かがその子猫にはあった。

 子猫が膝元まで来ると両手で身体を包み込み抱きめ、わたしの頬に子猫の顔をくっつけてウリウリと頬擦りする。

 そして、腕を伸ばして子猫の身体を見るとオスであることがわかった。

「可愛い君はどこから来たのかなぁ?」

 この子が捨て猫なのか、飼い猫なのか、はたまた野良猫の親とはぐれてしまったのか、わたしは気になり出して辺りを見渡す。

 辺りには他の猫は見えない。この子が仮に飼い猫だとして、果たして遠くの家からここまでよちよち歩きで来れるだろうか?

 捨て猫を捨てるならせめて雨よけのあるところに置こうと思うのが、元飼い主の心理じゃないかな...

 とすると橋の下が怪しいのでは!?
 わたしはそう推理して、200メートルほど離れた橋の下まで子猫を抱いたまま歩いて向かった。

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