やしあか動物園の妖しい日常

流川おるたな

河童の妙薬

「あなたって普通の女の子に見えるのに、本当に魔女なのねぇ。ありがとう助かったわぁ」

「いえ、それより急がないと!」

 動物園側の入り口から急いで事務所の中へ入り、コウさんの次にタイムカードを押す。

 七時四十九分の刻印が打たれた。

 ギリギリセーフ!なんとか間に合った~。でもこんなのばかりだな、わたし...

 ロッカールームで作業服に着替えデスクに行くと、久慈さんは既に仕事を始めていた。

「久慈さん、おはようございます!今朝も早かったんですね」

「おはよう紗理っち。いや、実は僕もさっき来たばかりさ。昨夜はモン爺さんとトメさんに随分呑まされて大変だったよ」

 そう言う割にはお酒臭くも無く、二日酔いしているようにも見えない...

「わたしは思いっきり二日酔いで頭がガンガンしてます」

「それなら良い物がある。ちょっと待てて」

 久慈さんが引き出しを開けて何かを取り出した。

「はい、これ」

 直径1cmくらいで茶色の小さな粒を差し出される。

「.............」

 初めて見る怪しそうな茶色の粒。なんだろうこれ?
 わたしが黙って受け取ると。

「これは[河童の妙薬]と云って、二日酔いに抜群な効果を発揮してくれるんだ。これを飲めばすぐに良くなるはず」

「そ、そうなんですね。名称からして飲むのが少し怖いんですけど...」

「大丈夫!人間の僕が飲んで実証済みだ。絶対効くから飲んでみて」

「わかりました。信じて飲んでみます」

 事務室の隣にある給湯室で、コップに水を入れ覚悟を決めてゴクンと飲み込む。

「にがいぃ!」

 粒が舌にほんの僅か触れただけでもの凄い苦味を感じた。良薬口に苦しって聞くしなぁ...

 口の中に苦味が残ったまま事務室に戻ると、園長とリンさんの姿があり、朝礼が始まろうとしていた。

「みなさんおはようございます」

「「「「おはようございます!」」」」

「昨晩は大いに楽しんでいただけたと思います。また次の機会を作るために、本日も頑張っていきましょう」

「「「「はいっ!」」」」

 今朝の朝礼はあっさりと終わり、リンさんは何も話さず園長と園長室に入って行った。

「紗理っち、身体の具合の方はどうだい?あの薬はすぐに効果が出るから」

 久慈さんに言われて、激しい頭痛が無くなった上に身体の怠さも消えたことに気付く。

「驚きです!全く頭痛がしなくなりました。しかも身体が軽いです。[河童の妙薬]って二日酔いの特効薬なんですか?」

「うん、まあね...いや、ごめん。二日酔いに効くという事は知ってるけど、本当は詳しく知らないんだ。でも頭痛が治って良かった良かったハハハ」

「そ、そうなんですね...」

 ガーン!良く知られていない薬を飲んでしまった。副作用と心配ないのだろうか?まぁ体調は回復したから良しとしておこう。

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