やしあか動物園の妖しい日常

流川おるたな

ラリホーマ・クイーン

 シラユキさんの冷気から解放された頃には、ザエモンさんのシェイカーの音も止まっていた。
 カクテルグラスがカウンターに置かれ、シェイカーからきれいなピンク色のカクテルが注がれる。

「拙者の自信作[ラリホーマ・クイーン]でござる。ご賞味あれ」

 変な名前ぇ。若干テンションが落ちた。まぁ、気を取り直して一口...

「お、美味しい~!」

 フランボワーズの甘酸っぱさが心地よく、後からほんのりとした甘さがやって来て二段構えの美味しいさを味わえる。

「喜んで貰えて良かったでござるよ」

 ...慣れればきっと「ござる」も気にならなくなるかな。

 ラリホーマ・クイーンを飲み干すと赤ワインで蓄積されたアルコールも相まって、だいぶ酔いがまわって来たように感じる。

「ござる、いや、ザエモンさんは普段の仕事は何してるんです?」

 これだけ美味しいカクテルを作れるなら、普段からやってるような気がして訊いてみた。

「やしあか温泉の一室で夜にカクテルバーの仕事をしているでござるよ」

 げっ!?やしあか温泉の一室って...さっきは全然気づかなかった。

「ここにくる前にやしあか温泉に行ったんですけれど、全然気付かなかったです。どこら辺にあるんですか?」

「ああ、初めての女性では気付かないか...男湯の入り口前の部屋にあるでござる。機会があれば是非来てくだされ」

「そのうち必ず行きますでござるよ」

 あっ!?一瞬口癖がうつっちゃった。
 これはかなり酔いがまわってるな...

「えー、みなさん!そろそろ歓迎会の方を終わりにしたいと思います!残って呑みたい方はまだ呑んでいても構いませんが、料理の方はもう出ませんので悪しからず」

 グテンさんがマイクを使って会場全体に歓迎会の終わりを告げた。
 腕時計を見るといつの間にか9時を回っていた。もう、こんな時間だったんだ...

「ザエモンさん、美味しいカクテルご馳走様でした」

「いつでもカクテルバーで待ってるでござるよ」

 隣に居たシラユキさんは、既にどこかへ行ったらしい。
 わたしは取り敢えず元のテーブルへ戻ることにした。

「おお!紗理っちカクテルバーはどうだった?」

 久慈さんも相当呑んでる筈なのに、酔った雰囲気が微塵もしない。

「バーテンダーのザエモンさんがとても美味しいカクテルを作ってくれて大満足でした!」

「そっか、ザエモンさんの作るカクテルは一級品だから紗理っちも喜ぶと確信してはいたけどね」

「久慈さんはまだ残って呑むんですか?」

「僕はまだ残って呑むよ。今夜はやしあか寮のモン爺の部屋に泊めてもらうんだ」

 あ、そういう段取りをつけていたのね。わたしはどうしようかな...

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