やしあか動物園の妖しい日常

流川おるたな

コウさんの片想い

「モン爺さんとトメさんは安定の仲の良さねぇ。ジン、あたし達もあんな風になりたいわぁ」

 コウさんは右隣の席に座る桂男のジンさんに話し掛けた。

「やめてくれないか、コウ。僕達が付き合っていると周りに誤解されてしまうじゃないか」

「あら?あたし達は付き合っていなかったのかしら?」

「無論、断じて付き合ってなどいない」

「そうだったのね。付き合っていないのなら仕方がないわ」

「そう、仕方がないことだ」

 ?、二人の会話はそれっきり途切れてしまった。かと言って空気が重く成る事も無い。二人はいったいどういう関係なのだろう?

 わたしが不思議そうにしていると、久慈さんがそっと耳打ちして来る。

「あの二人のやり取りはいつもあんな感じなんだ。コウさんがジンさんに好意を持って接しているのだけれど、ずっと成就しない切ない恋の形なのさ」

「ふ~ん、コウさんの片想いなんですね」
 であれば、もっと他の攻め方があるような気もするけど…

「あ、ワイン以外の飲み物はあっちの方のテーブルに置いてあるのと、あそこにカクテルバーが設置されてるからね」

 流石は久慈さん、話しが急に飲み物の説明に変わった。まぁ良いけど。

 飲み物はセルフサービスか。でもカクテルバーまであるなんて本格的。カクテルバーにはあとで行ってみよう。

 それよりも、赤ワインを呑みたいんだよなぁ...よし!取りに行くかな。

 おっとそうだ!取りに行く前にロブスターのガーリックバター焼きを一口食べてから…

「はうっ!美味しい!」

 ロブスターの身がしっかりしていて食感が良く、ニンニクとバターの風味もたまらない!
 一口のつもりが次々と口の中に運んでしまい、結局最後まで食べきってしまった。これじゃ誰かさんと一緒だな。

「久慈さん、赤ワインを取って来ますけど何か飲みたい物ありますか?」

「ワインボトルに白ワインがまだたくさん残っているから僕はいいよ」

「そうですか、じゃ…」

 席を立ち、赤ワインを取りに行こうとしたわたしにコウさんが呼びかける。

「紗理っち、あたしに赤ワインをボトルで2、3本お願いできないかしら?何だか今日はとことん呑みたくなって来たわ」

 ジンさんとのやり取りのあと平然としていたコウさんだったけれど、表情に出さないだけで本当は傷ついているのかも知れない。

「わかりました!あったら3本取って来ますね」

 わたしは笑顔で快く引き受けた。

 久慈さんの教えてくれたテーブルの上には、瓶ビール、一升瓶の焼酎、ボトルウイスキー、赤と白のワインボトル、炭酸ジュース各種、100%の果物ジュース各種、コーヒーメーカー、紅茶、ウーロン茶、緑茶、水まで置いてある。

 赤ワインは10本置いてあり、その内4本を取るのは気が引けたけど、テーブルの下に在庫があるのを見つけ、安心してオープナーと一緒に持ち出した。

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