やしあか動物園の妖しい日常

流川おるたな

ラゴスさんの部屋

 牛小屋の掃除を手早く終わらせ、羊小屋へ移動する。
 羊小屋の掃除まで済ませたところで羊の居る柵へ向かう。
 昨日は久慈さんに教えて貰っただけで、顔合わせをしていなかった墳羊のラゴスさんに挨拶をするためだ。
 柵の隅を見ると、ラゴスさんの掘った穴があり顔を覗かせている。

「初めましてラゴスさん。黒川紗理亞といいます。昨日から出勤したばかりの新人ですよのでよろしくお願いします」

「へ~、ボクの名前は知ってるんだね。久慈っちにでも聞いたのかな?こちらこそよろしく頼むよ」

「あ、はい!久慈さんに昨日聞きました」

 サトリさんと同じで動物の姿のまま話しをするラゴスさん。でも、サトリさんの時とは違い友好的な印象を受けた。

「折角だから、穴の中にあるボクの家というか部屋を見て行くかい?」

 う、どうしよう。いきなり単独でついて行くのは怖いような…
 でも断ってラゴスさんの機嫌を損ねるのも何だし、どんな部屋か興味はあるしで結局見せてもらうことにした。

「えっと、じゃあ折角なので見せて貰いま~す」

「OK、ボクについておいで」

 ラゴスさんが顔を出していた穴の深さは150cmほどで、中に降りると斜め下方向に穴が続いている。その穴は人がやっと通れるような大きさで、四つん這いになりながら10mほど進むと、急に広がったスペースにラゴスさんの部屋があった。
 部屋の中はわたしがギリギリ立てるほどの高さ。

「どうだい、なかなか良い部屋だろう。掘るのに結構時間が掛かったんだよ」

 通って来た穴は暗かったけれど、この部屋には電気が通っているようで電球で明るくなっていた。どうやって入れたのか、木製のベッドまで置いてある。

「す、凄く良いですね~。ベッドもあるし、電気まで通っているのは予想以上でした」
 
「電気を引くのはボクの力があればそれほど難しく無かったよ。ベッドは材料をここまで運んで、大工仕事の得意な妖怪にこの部屋で作ってもらったんだ」

 大工仕事の得意な妖怪って誰だろう?気になったけど時間も無いし、また今度時間のある時に訊くことにした。

 外に出て部屋のある位置を確認すると不思議な感じがする。
 流石にあんな部屋が羊の柵の真下にあるなんて、動物園に来るお客さんには分からないだろう。

「ラゴスさん、ありがとうございました」

 お礼を言って他の動物小屋へ向かう。
 そこから山羊、ロバ、豚などの掃除を済ませて、給餌の準備に取り掛かった。

 動物の餌である飼料の配合は大きな機械を使う。
 久慈さんも丁度掃除を済ませて機械の側まで来ていた。

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