やしあか動物園の妖しい日常

流川おるたな

大失態

「久慈さん、流石にそこは心配してません!」

 開園してからも顔がこのままだったら、即マスコミに知られて大ニュース間違い無しだ。

「そ、そうか。それは悪かったな」

 シーバさんにも自己紹介しておこう。

「シーバさん、わたっ...」

「さっき聞いてたから自己紹介は不要だだ。まあ仲良くやって行こうじゃないか」

 自己紹介は入り口でシーバさんに割り込まれて即終了。

「黒川さんこっちに来て!飼料の配合を教えるから」

 それからは飼料の配合をしたり、野菜や草を運んだりとなかなかの重労働が続いた。

 動物園の仕事は、動物が好きなだけではやっていけないとは聞いていたけれど、実際にやってみて改めてその厳しさを知る。

 力仕事などやった事の無いわたしはあっという間にへなへなになり、座り込んでしまったところで気付く、と言うか何故ここまで気付かなかったのだわたし!

 体力が無いのであれば他の力を使えば良いではないか!そう、わたしは魔女であり、普通の人間が使えない魔法を使える!しかも今は見られて困る人もいない!ここで使わずしていつ使うと言うのだ黒川紗理亞ーーーっ!

 一人で盛り上がってしまったけれど、念のため許可は取っておこう。

「久慈さ~ん、仕事を魔法使ってやるのってありですか~?」

 久慈さんが中身の入った大量の飼料袋を肩に担いで真顔で答える。

「...そんなの良いに決まってるじゃないか。僕はてっきり身体を鍛える為に敢えて魔法を封印してるのだと思ったよ」

 ...最初に言ってくれたら良かったのに。

 まあいっか。

 でも、まさか魔法を外で自由に使える日が来ようとは...何だかワクワクして来た。

 魔女は血に混ざっている魔力を引き出して魔法を使う。

 さてと今回はどうしてやろうかな...物体に意思を与えて動いて貰うか?それとも物体を魔法で一気に移動させる?

 後者を選び目を閉じて魔力を引き出した。

 わたしの身体に「ブアッ!」と魔力が溢れ出し、飼料袋の積まれている場所へ手をかざす。

「えいっ!」

 掛け声と共に魔法で20袋ほどの飼料袋をまとめて宙に浮かせた。

「でいっ!」

 2度目の掛け声で久慈さんのいる場所へ移動!?

「やばっ!?ご、ごめんなさーい!避けてーーーっ!」

 叫び声に気付いた久慈さんが振り向いたけど時すでに遅し!?

「ドドドドドドドド!」

 中身の入っている飼料袋で生き埋めになってしまった!

 わたしは慌てて久慈さんのところへ走り寄る。

「久慈さん死なないでーっ!」

 終わった。

 [新入社員が初仕事で先輩社員を殺害]新聞記事の見出しが脳裏に浮かぶ。

 涙が溢れて止まらない。

「ぐじざーんごめんなざーい」

 その時、飼料袋で出来た山が動いた!

「ブォゴッ!」

「これくらいでは死なーーーん!!!」

 良かった。久慈さんは元気に生きていた。
 
 

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