H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

雨野美哉(あめの みかな)

真エピローグ

雨野美哉(あめの みかな)は、大学四年生の女の子だ。

今年の10月9日で22歳になる。

ついこの間までSNSのプロフィールにLJKと書いていたような気がするが、悲しいことにそれはもう四年も昔の話だ。

時間は残酷だ、と思う。

セーラー服はまだまだ似合う自信があるけれど。ツインテールもまだいける。


大学三年の頃から就職活動をはじめたが、特になりたいと思える職業もなく、普通自動車運転免許 オートマ限定以外の資格を何一つ持ってはいなかった
三流の、下手したら四流の、私立文系大学、それも宗教学科に在籍する彼女は、数十社から不採用通知をもらい、就職活動をすでに諦めていた。
大学自体、両親からイマドキは女の子も大卒の方がいいと言われたから、特に受験勉強らしい勉強もせず、入れそうな大学を一校だけ受験しただけ。

こんなとことなら、高卒で働くか、専門学校にでも行けばよかった、と後悔していた。


学生最後のゴールデンウィークは、平成という彼女が生まれた時代が終わり、令和という新しい時代を迎えた。

史上最長の十連休となり、彼氏いない暦=年齢で、アルバイトもしていない彼女は、同じく彼女いない暦=年齢の、一人暮らしをしている弟の部屋で十連休を過ごした。

ひとつ年下の弟も、彼女と同じ大学同じ学科を受験したが、なぜか不合格で、落ちる人もいるんだ、と驚かされた。
そんな弟は、大学浪人しながらアルバイトしていたゲームセンターの会社から社員にならないかという話を受け、ブラックにブラックを重ねた、漆黒の社畜となり、十連休は十連勤だった。

10日間、弟と一緒に暮らして彼女は思った。

両親が共働きだったせいで昔からお姉ちゃん子ではあったけど、手抜きの料理と、少し部屋を片付けてあげるだけですごく喜んでくれるし、こいつがわたしを養ってくれないかな、と。
いつも鼻毛出てるし一生彼女できないだろうし、と。

彼女の趣味は、もの作りだった。

小説を書いたり、アクセサリーを作ったり、売り物になるようなものではないが、自分が読みたいものや身につけたいものが売られていないか高価なものが多く、気づけば自分で作るようになっていた。

結 弥佳(むすび みか)とは、大学のゼミで知り合った。

一年のときから仲が良く、一時間以上電車に揺られて帰宅するのが面倒で、大学のそばに下宿している弥佳の部屋に週三くらいのペースでお泊まりしていたら、気づけばいつの間にか、家賃や生活費は弥佳の全額負担のルームシェアになっていた。

弥佳は、美哉が就職活動を諦めたと知ると、

「もうすぐ平成が終わるでしょう?
日本神話とこの国の王族を題材にした小説でも書いてみたら?」

と言った。


「その小説の中では、日本は令和を迎えることができずに滅亡してるの。でも、王族の人たちだけは生き残ってて。
でも、令和をちゃんと迎えた世界もあって、令和世界、つまりわたしたちが存在する世界からはじきだされた人たちがいて、なぜかその世界のトップにいるの」

という、荒唐無稽な話だった。

けれど、美哉はそれをおもしろいと思った。書いてみたいと思った。

二つの世界がからみあいながら、人は神とどう生きるべきなのかをわたしなりにかんがえてみようかな、と、そう思った。

「美哉、知ってる?」

弥佳はそういうと、

「わたしたちの名前は、ふたりとも日本神話の最初に名前だけが出てくる神様のアナグラムになっているんだよ」

むすびみかは、カミムスヒの。

あめのみかなは、アメノミナカの。

「それからわたしのお兄ちゃんの名前は、結 孝道(むすび たかみ)っていうの」

タカミムスヒのアナグラム。


その三柱の神は、造化三神と呼ばれていた。

美哉も調べてみたが、名前以外はほとんどわからない、本当にただ、そういう神が最初にいただけ、ということしかわからなかった。


だから、美哉は、

「わたしが、わたしたちが、造化三神になろう」

と思った。


そうして、美哉は小説を書きはじめた。



雨野美哉、結 弥佳、結 孝道の三人は、ゴールデンウィーク明けの令和元年5月9日に行方不明となる。



警察は事件と事故の両面から捜査をはじめたが、三人が見つかることはなかった。

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