H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

雨野美哉(あめの みかな)

第81話 裏十戒、真十戒

「何を信じたらいいのか、わからなくなったというのが、正直なところかな……

だって、それじゃ、イザナミさんや、灰音まで、俺をだましてたことになる」



「ぼくの話を信じるか信じないかは、君次第だ。

だが、ぼくは、ぼくが感じたままに、信じるままに行動する。



人は人であればいい。

神など存在しなくていい。

そして、もはや人でも神でもないぼくたちは存在してはいけない存在だ。

だから、ぼくは、君を殺し、そして、自害する」



「この船にいたカオスヒューマンを殺したのは、そういうわけか?

なぜ、純粋種、……なんて言い方はしたくないけど、この船にいた、ただの人間たちも殺した?」



そう、彼は、純粋種の人間さえも、手にかけてしまった。

もう地上には、純粋種の人間ははひとりもいない。

この世界に残されているのは、彼とヒサヒトとアイコだけなのだ。



「この船の乗組員は、高天ヶ原の神々の血を引き、ヒヒイロカネを持つ。

ぼくたちのように神人合一を果たし、カオスとなる可能性があったからだよ。

君を殺し、ぼくが自害した先に、ぼくの望むものがある」



「お前が望むものはなんだ?」



「君がもし、ぼくに勝てたなら教えてあげるよ」



タカヒトの姿が消えた。



「しまった! 奴も加速できるのか!」



ヒサヒトがそう思い終えたときには、三本の草薙の剣が、壁に彼をはりつけにしていた。



「裏十戒之壱、真空の大翼」



と、タカヒトは言った。



「裏十戒?」



「モーゼの十戒を知っているか?」



「旧約聖書で、海を割った奴か? そいつの名前と十戒って言葉くらいは知ってる。内容までは知らない」



「君らしいね。

有名な彼の十戒は、表十戒に過ぎないと言われている。

さらに裏十戒と真十戒が存在する」



「その裏十戒のひとつが、俺をはりつけにすることか?」



「いや、あくまでぼくの必殺技の名前には、そんな風にすべて由来があるという話だ」



「最後の最期まで中二病か。あんたらしいな」



タカヒトは天井を見上げ言う。



「このブリッジは、狭すぎるな……もっと広いところがいい。

裏十戒之弐、天衝砲」



ブリッジが真っ二つに割け、天井や床や壁が次々と崩落していく。



ヒサヒトがはりつけにされている壁は宙に浮き、タカヒトは翼を生やして浮かんでいた。



「裏十戒之参、満月降臨」



「裏十戒之四、流星の霧」



「裏十戒之伍、虚空陣」



「裏十戒之六、岩石降臨」



「裏十戒之七、新月連拳」



「裏十戒之八、飛翔の陣」



次々と繰り出されるタカヒトの必殺技は、ヒサヒトをはりつけにしていた草薙の剣のレプリカの一本さえも破壊した。





これで動ける!

今度はヒサヒトが、タカヒトの前から姿を消した。



ヒサヒトが再び現れたとき、今度は彼が、宙に浮かぶ壁に、二本の剣でタカヒトをはりつけにしていた。



ヒサヒトはいつかのように、十束の剣を機動召喚し、カグツチ・オロチノカルマに搭載された補助アーム・八刀流ヤマタノオロチで、残りの八束の剣を手にしていた。



「俺はいちいち技の名前を考えたりするのは苦手だから、お前の技の名前をもらうことにする」



ヒサヒトはそう言って、



「真十戒!」



と叫んだ。



それは、びっくりするほど、気持ちがよかった。



真十戒之壱、弐、参、と次々に技を繰り出していく。



「真十戒之壱、輝光後塵」



「真十戒之弐、炎王創造」



「真十戒之参、岩石連珠」



「真十戒之四、集光返し」



「真十戒之伍、召雷の鐘」



「真十戒之六、炎王乱舞」



「真十戒之七、女王光線」



「真十戒之八、新月招来」



ヒサヒトをはりつけにしていた剣が砕けたように、タカヒトをはりつけにしていた剣が砕けた。



「真十戒之九、新星の矢」



ヒサヒトが繰り出した技を、



「裏十戒之九、天衝魚雷」



タカヒトが相殺し、立て続けに最後の技を繰り出した。



「裏十戒之拾、無限の矢」



ヒサヒトはタカヒトが放った無限の矢を、補助アームが持つ剣ですべて撃ち落とす。

両手に持った剣をタカヒトに投げつけ、そして、両手の掌にエネルギーを集め、二筋の光の熱線を浴びせる。

それは、ヤマヒトの技だった。



「真十戒之拾、流星演舞」



タカヒトは、そして、造化三神は、この世界から消滅した。

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