H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。
第79話 真の真王と裸の真王
ヒサヒトは、アイコにイザナギの超大型強化ユニットであるアメノトリフネ・ツクヨミをカミシロ・イザナギからパージしてもらうと、次はその形態をアメノトリフネ・アマテラスへと戻してもらった。
勝手知ったるなんとやら、ツクヨミのままでは、ヒサヒトはアメノトリフネの内部で迷子になる自信すらあった。彼は実は方向音痴だった。
だから、アマテラスに戻してもらったのだ。
イザナギの中にふたつある、神の子宮から抜け出すと、ヒサヒトはアイコに、イザナギに乗ったままできるだけ遠くに離れるように言った。
最悪の場合、アメノトリフネが爆発する可能性があったからだ。
概念灰音と神人合一したアイコには、上位レイヤー世界へ転移する力もあるはずだった。
可能なら邪馬台国の姉さんのところへ逃げて、とヒサヒトは言うと、アメノトリフネの中に侵入した。
いつ以来だろう、この力を使うのは。
加速装置。
五秒という時の中で、ヒサヒトだけが加速し、その何倍、何十倍の時を生きる。
今のヒサヒトは生身でそれを行える。
三百三十八式を身にまとった状態ならば、五秒もいらずにアメノトリフネのブリッジにたどり着くことができる。
三百三十八式強化外骨格カグツチ・オロチノカルマを身にまとうのさえ、イザナギに乗るときだけになっていた。
イザナギを破壊しようとするイザナミをとめるため、ふたりを傷つけないために、守りに徹した戦いをしたことがある。
あのとき、以来かもしれない。
いや、あのころは、まだ、カグツチ・業カルマだった。
神人合一を果たして、真王と呼ばれはじめた頃には、ヒサヒトは気づけば戦いの蚊帳の外にいた。
いつも誰かが代わりに戦ってくれていた。
ヤマヒトが。
サブローが。
ニジカが。
ヨモツや、コヨミが。
ヒサヒトが戦うべきなのに、彼らはヒサヒトの代わりに戦って死んでいった。
ヒサヒトはラグナロクの日、中学にあがったばかりだった。
前年にふたりの姉が他国の王族に嫁いでしまったということもあり、ふさぎごみがちだった。
王族の子、いずれは王になる子というだけで、距離を置かれがちだったというのに、勇気を出して話しかけてくれた、友達になろうとしてくれた数名のクラスメイトを無視した。
だから誰一人友達ができないまま、誰一人クラスメイトの名前や顔も覚えないまま、ラグナロクの日を迎えた。
父や叔父、叔母、自衛隊、宮内庁、皆が必死で戦う中、民が次々と犠牲になる中、ヒサヒトは自室に閉じこもり、体育座りをして、こわい、たすけて、しにたくないと泣いていただけだった。
今のヒサヒトはあのときのヒサヒトではない。
戦う力があり、おそらく、アメノトリフネの誰よりも強かった。
それなのに、結果的にヤマヒトたちを戦わせ、死なせてしまった。
あの日の自分といまの自分は違うのに、同じ結果になってしまっていることが、そうしてしまった自分が、許せなかった。
開闢戦争、禍津九頭龍戦争では、ヒサヒトは存分に戦った。
しかし、混沌の方舟での戦いでは、ヒサヒトが戦場に出ることはなかった。
自分が混沌の方舟に向かっていれば、ヤマヒトやサブロー、ヨモツやコヨミを守れた、そんな風に思うほど傲慢ではないが、行くべきだったと思う。
だから、テトラグラマトンと造化三神との戦いだけは、絶対に自分がと決めていた。
力ばかりを得て、その力を試す機会すらなく、真王、真王と皆に呼ばれ、自分はもしかしたら、裸の王様だったのかもしれない。
これからヒサヒトが挑むのは、造化三神の力を得た真の真王だ。
真の真王と裸の真王が戦うのだ。
          
勝手知ったるなんとやら、ツクヨミのままでは、ヒサヒトはアメノトリフネの内部で迷子になる自信すらあった。彼は実は方向音痴だった。
だから、アマテラスに戻してもらったのだ。
イザナギの中にふたつある、神の子宮から抜け出すと、ヒサヒトはアイコに、イザナギに乗ったままできるだけ遠くに離れるように言った。
最悪の場合、アメノトリフネが爆発する可能性があったからだ。
概念灰音と神人合一したアイコには、上位レイヤー世界へ転移する力もあるはずだった。
可能なら邪馬台国の姉さんのところへ逃げて、とヒサヒトは言うと、アメノトリフネの中に侵入した。
いつ以来だろう、この力を使うのは。
加速装置。
五秒という時の中で、ヒサヒトだけが加速し、その何倍、何十倍の時を生きる。
今のヒサヒトは生身でそれを行える。
三百三十八式を身にまとった状態ならば、五秒もいらずにアメノトリフネのブリッジにたどり着くことができる。
三百三十八式強化外骨格カグツチ・オロチノカルマを身にまとうのさえ、イザナギに乗るときだけになっていた。
イザナギを破壊しようとするイザナミをとめるため、ふたりを傷つけないために、守りに徹した戦いをしたことがある。
あのとき、以来かもしれない。
いや、あのころは、まだ、カグツチ・業カルマだった。
神人合一を果たして、真王と呼ばれはじめた頃には、ヒサヒトは気づけば戦いの蚊帳の外にいた。
いつも誰かが代わりに戦ってくれていた。
ヤマヒトが。
サブローが。
ニジカが。
ヨモツや、コヨミが。
ヒサヒトが戦うべきなのに、彼らはヒサヒトの代わりに戦って死んでいった。
ヒサヒトはラグナロクの日、中学にあがったばかりだった。
前年にふたりの姉が他国の王族に嫁いでしまったということもあり、ふさぎごみがちだった。
王族の子、いずれは王になる子というだけで、距離を置かれがちだったというのに、勇気を出して話しかけてくれた、友達になろうとしてくれた数名のクラスメイトを無視した。
だから誰一人友達ができないまま、誰一人クラスメイトの名前や顔も覚えないまま、ラグナロクの日を迎えた。
父や叔父、叔母、自衛隊、宮内庁、皆が必死で戦う中、民が次々と犠牲になる中、ヒサヒトは自室に閉じこもり、体育座りをして、こわい、たすけて、しにたくないと泣いていただけだった。
今のヒサヒトはあのときのヒサヒトではない。
戦う力があり、おそらく、アメノトリフネの誰よりも強かった。
それなのに、結果的にヤマヒトたちを戦わせ、死なせてしまった。
あの日の自分といまの自分は違うのに、同じ結果になってしまっていることが、そうしてしまった自分が、許せなかった。
開闢戦争、禍津九頭龍戦争では、ヒサヒトは存分に戦った。
しかし、混沌の方舟での戦いでは、ヒサヒトが戦場に出ることはなかった。
自分が混沌の方舟に向かっていれば、ヤマヒトやサブロー、ヨモツやコヨミを守れた、そんな風に思うほど傲慢ではないが、行くべきだったと思う。
だから、テトラグラマトンと造化三神との戦いだけは、絶対に自分がと決めていた。
力ばかりを得て、その力を試す機会すらなく、真王、真王と皆に呼ばれ、自分はもしかしたら、裸の王様だったのかもしれない。
これからヒサヒトが挑むのは、造化三神の力を得た真の真王だ。
真の真王と裸の真王が戦うのだ。
          
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