H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

雨野美哉(あめの みかな)

第70話 アマツヤマヒトの戦い

九頭龍人アマツヤマヒトは、6枚の翼で空を駆ける。

見たこともないカミシロ(?)が、エビスサブローのカミシロ・カナヤマビコを抱きかかえ、アマツヤマヒトを追い抜いていく。
謎のカミシロは、比良坂兄妹のハニヤスビコやハニヤスビメによく似ていたが、その大きさは倍ほどはあった。

「私の応援というわけか?
サブローを寄越すとは、私はイザナミに相当信頼されてないな」

主への裏切りを、その魂に義務づけられていたとはいえ、ヤマヒトは一度ヒサヒトを殺している。
だから、こればかりはもう、しかたがないと諦めるしかないだろう。

アマツヤマヒトも負けじと、人型の機動兵器となった天津九頭龍極(あまつくずりゅうごく)を呼び出し、追い抜いては追い越されのレースをはじめた。

そんなことをしている場合ではないと、知りながら。


混沌の方舟を見つけると、天津九頭龍極は火球の連弾を、方舟に、ではなく、謎のカミシロに向かって放った。
火球を避けるために謎のカミシロは何度も大きくのけぞった。
その隙に、天津九頭龍極は謎のカミシロを追い抜いていく。
混沌の方舟は目の前だ。

混沌の方舟は、接近する正体不明の人型機動兵器(=天津九頭龍極)が射程圏内に入ると、一斉射撃を始める。
どうやらそれは、混沌の方舟自体に搭載された自己防衛システムのようで、ツバイニジカのクシナダは、これにやられた。
だから、対応策はちゃんと考えてあった。

アマツヤマヒトは天津九頭龍極の両手から火球を無差別に放つ。
それは、見た目は大きく、しかし火力は控えめの火球だった。
見た目が大きいのは、混沌の方舟が敵性反応をどう見極めているかがわからないからだ。それが、方舟に接近するものすべてならば、ダミーの的は大きければ大きいほどいい。
熱源だとすれば、直撃すればある程度のダメージを与えられるものでなければ、自己防衛システムにスルーされてしまう。だから控えめといっても、それなりの火力はあるものを放っていた。
その程度の火球であれば、何百発でも、何千発でも放つことができた。
そうすると、混沌の方舟はまずそれの迎撃を行い、天津九頭龍極にまでは攻撃が飛んでこなくなる。
天津九頭龍極は、火球を次々と放ちながら両手に三頭龍剣(みつずりゅうけん)と三頭龍槍(みつずりゅうそう)を構え、全速力で混沌の方舟に接近し、剣と槍で外壁に穴をあけた。

「あとは頼むぞ、天津九頭龍極。好きに暴れろ」

アマツヤマヒトは、九頭龍自身に天津九頭龍極の操縦を任せると、壁に空いた穴から混沌の方舟に潜入した。

山人の姿に戻り、二丁のリボルバー式の拳銃を両手に握る。
ステンドグラスのような美しい弾丸が、拳銃には六発ずつこめられている。
それは、不老不死の肉体を持つ者の魂を殺すために作られた、魂を喰らう弾丸・ソウルイーター。

目に映る者すべてをいちいち不老不死の者かどうか確認している暇はなかった。
ソウルイーターは、不老不死の者だけでなく、ただの人間の魂をも喰らってくれる。
混沌の方舟の乗員はすべて敵だ。だから、すべての魂を喰らわせる。
ヤマヒトには、ひとかけらの躊躇いもない。

これは、戦争なのだ。

先に攻撃を仕掛けてきたのは、教会だ。
教会がラグナロクの日を起こし、一億五千万の民の命を奪った。
ヒサヒトやアイコ、高天ヶ原の神々の血を引く王族と、王族を慕うその国を、邪教徒とみなし、滅ぼそうとした。

教会は、それを聖戦と呼んでいた。

しかし、人の戦争に、聖戦などというものはありえない。
信じる神、信じる教え、考え方の違い、それをわかろうとする、互いにわかりあおうとする、理解しようとする、そんな気すらない者たちの身勝手なただの殺し合い。

だから、ヤマヒトは目に映る者すべてに銃口を向けた。

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