H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

雨野美哉(あめの みかな)

第57話 不純物②

それは確かに不純なものであった。

2メートルを越える体躯の男が、全裸で突然現れたかと思うと、自ら不純物だと名乗ったからだ。

「不純よ不純!」

コヨミが悲鳴をあげる。

「なんておぞましいんだ……
コヨミ、あれは君がまだみちゃいけないものだ……」

「お兄ちゃん、こわい……」

「だいじょうぶ、コヨミはぼくが必ず守るから」

「お兄ちゃん……」

かつての山人の末裔は、その後九頭龍人となり、そして今はもうただの変質者であった。変なおじさんだった。

「ううん……」

ヒサヒトが目を覚ます。

「あれ? ヤマヒトだ。ん? 夢かな、これ。
なんで裸なの? 火傷治ったの?」

不純物変質者変なおじさんは、ヒサヒトを見て嬉しそうにほほえんだ。

「どうして裸なのか……、それは私にとって、あまりに残酷すぎる天使の命題(テーゼ)です。
おそらくデウスエクスマキナのコクピットに服を残してきてしまったから……。
火傷に関しては、治ったというよりは、一度失われた私の体は、ヒサヒト様の体の中で、本来あるべき形を取り戻した……
そんなところでしょうか……」

「よくわかんないんだけど……
え、ずっと俺の体の中にいたの? てか、でけえ!!」

ヒサヒトは、ヤマヒトの下腹部にある、以下省略、を見て一瞬で目が覚めた。

「ヒサヒト様の中で、私はヒサヒト様と同じものをすべて見聞きしてきました。
どうやら、この私の魂に宿命付けられた108回の輪廻転生と109回の主への裏切り、私はアイコ様を殺すか、ヒサヒト様を二度殺すことだと思い込んでいました。
ですが、最後に裏切る主とは、イスカリオテのユダの魂に呪いをかけた聖人そのものだったようですね」

「ヤマヒト、話についていけないんだけど。
あと、すごく言いづらいんだけど、アレがエレクトして、ハガ・ケンジになってる」

「108回の輪廻転生と、109回の主への裏切り? イスカリオテのユダ?
君は山人の末裔であると同時に、そのような宿命を持って生まれてきていたのか」

エビスサブローが言った。

「あの聖人は聖人とは言えません。
すべての概念を生み出し、概念そのものでもあるわたしが、そう感じるのだから間違いありません
わたしたちの一致する利害とは、あの聖人と招かれざる客たち、すべての混沌の種子を刈り取ること。
そして、日本だけでなく、世界を再構築すること。
協力してくれますね? イザナミさん、ヒサヒトさん」

しかし、イザナミは頭を抱えながら、

「いいから、早く、服を着てくれ、早く!」

頬を赤らめながら、ヤマヒトにそう言った。
しかたなく、ヒサヒトは概念に、

「はいはい、協力しますよ」

渋々といった口調で答えた。丹田がまだ痛かった。



服を着せられたヤマヒトは、パーティーの食事の残り物で、腹を満たした。
そして、2000年前の最後の晩餐で聖人が口にした預言と、イスカリオテのユダがなぜ彼を裏切ったのかについての真相を語った。
さらに、イスカリオテのユダにかけられた108回の輪廻転生と109回の裏切りという宿命と、自らがその最後の転生体であることを。

「人の歴史は、裏切りの歴史。
裏切りが歴史のターニングポイントとなり、大きく動く。
その裏切りはすべて私によるもの。
私はかつて明智光秀と呼ばれていたこともあるのです」

「つまり、ヤマヒトよ、世界の歴史は汝の裏切りにより、本来あるべき形とは違った歴史を歩み続けてきたわけか。
汝の裏切りがなければ回避できた戦争がいくつあったのか、もはや数えきれぬ。
もし、それが聖人の望む通りの歴史だったのだとしたなら……」

聖人が戦争の歴史を望んでいた、ということになる。


「愛するがゆえに主を裏切る、か。
私がイザナミ様を裏切るようなもの。
それを君は108回も繰り返してきたのか」

「いや、108回だけではない。
私は、山人の末裔であること、山人の繁栄にこだわりすぎたあまりに、あなたに七度敗れ、109回目の裏切りに七度失敗している。
そのたびに、輪廻転生は振り出しにもどり、私はイスカリオテのユダから同じ過ちを繰り返してきた」

「つまりは756回も輪廻転生を繰り返してきたと?」

「ああ、だが、ようやく109回目の裏切りの相手が誰か理解できた。
聖人は私が必ず倒します」

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