H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

雨野美哉(あめの みかな)

第47話 再会、君に会えてよかった。

かつて、ヒサヒトは一時的とはいえ黄泉の国の住人となったことがある。

もっとも、その時手に入れたかりそめの体は、黄泉の国の神の一柱であるカグツチ神からの借り物であったから、ヤマヒトの死によって本来の体を取り戻すまでは、彼はずっと黄泉の国の住人であったのかもしれないが。

黄泉の国で出会った比良坂ヨモツ・コヨミ兄妹は、黄泉の国と地上、そして高天ヶ原がどのような位置関係にあるか教えてくれた。
それは、いくつもの世界が同じ場所に重なって存在する、というものだった。

例えるなら、パソコンのイラストソフトである。
一枚の絵に見えるイラストが実は、背景やキャラクター、衣装などひとつひとつがレイヤーとしてあるように、レイヤーを重ねることで一枚のイラストが完成するように、世界のひとつひとつが重なるレイヤード構造になっているという。
イラストの背景がもっとも下位レイヤーであるとしたなら、それが地上にあたる。
背景の上にキャラクターのレイヤーを重ねているとしたなら、それが黄泉の国。
黄泉の国は地上より上位のレイヤーにあたり、黄泉の国からは地上を見ることができるが、地上から黄泉の国を見ることはできない。
キャラクターが下着姿や裸であり、その上に衣装のレイヤーがあるとする。それが高天ヶ原にあたる。高天ヶ原からは地上も黄泉の国も見ることができるが、地上も黄泉の国も高天ヶ原を見ることはできない。

世界がレイヤード構造であることを知らされた際、ヒサヒトは世界が世界を重ね着していると理解した。
レイヤードとは重ね着のことだ。
ならばヒサヒトが差し色として多用するピンク色の服のような世界があるのではないか。ピンクをうまく使いこなせるのが、おしゃれだ。
例えばいまだにどこに存在したかわからない邪馬台国は、その差し色のレイヤーにあるのではないか、と。


十二機のデウスエクスマキナに囲まれ、戦えば負け、逃げることもできないであろう絶対絶命のピンチにある中で、イザナミは撤退を決めた。
彼女は、その場から撤退する方法があることを知っており、彼女にはそれを実行できる力があった。

地上よりも上位のレイヤー世界に逃げれば良いだけであり、黄泉の国の住人である彼女ならば、地上から黄泉の国まで、その間に存在する差し色のレイヤー世界にも逃げる力があった。
彼女は万が一のことを考え、黄泉の国ではなく、差し色の世界を選んだ。

そこは、地上から失われた国や大陸が存在する世界。



邪馬台国の女王は、ヒサヒトとイザナミの突然の来訪にこころよく応じた。
ヒミコやイヨといった女王の時代以降も、邪馬台国の歴史はその差し色の世界で続いていた。

現在の女王は、ヒサヒトのことをよく知っており、ヒサヒトもまた女王のことをよく知っていた。

「ようやく迎えに来てくれたのね」

女王はヒサヒトにそう言い、ヒサヒトは大粒の涙をこぼしたあと大声で泣いた。

「やっと見つけた。やっと会えた」

ヒサヒトは、三年前のビデオ通話以来ひさしぶりに、愛する姉の顔を見、声を聞いた。

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