H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。
第39話 戦前前話
「造化三神に今のところ動きはない。
アイコにヤマヒトに棗、我々は多くのものを失ったが、それでも戦い続けねばならない」
それだけではなかった。
サブローさんに、ヨモツとコヨミも。
イザナミは、皆の知らない三人の名前を口にはしなかったが、尊い犠牲だった。
ん? あれ? アイコちゃんはまだ死んでないよ? ヤマヒトも棗も。
「セフィロトもバベルももう存在しない。
十三評議会とやらの存在は気になるが、まずは世界を破壊しつくそうとしている者を討つ。
敵は九頭龍人マガツヤマヒト。
かつてこのアメノトリフネのクルーだった者だが、今ではもう禍津九頭龍の化身である。
妾とイザナギの国産みにより生まれた日本列島そのものであり、そなたたちの故郷だ。
だが、それでも我々は、マガツヤマヒトを討たねばならない」
アメノトリフネのブリッジに、イザナミの声が響く。
だから、そなたたちは、ここに残れ。
イザナミは皆が驚く提案をした。
「マガツヤマヒトとは、妾とヒサヒト、そしてカミシロ・イザナギで決着をつける」
アメノヌボコを失ったことで主砲が撃てなくなったアメノトリフネでは、足手まといになりかねなかった。
格納庫には、イザナギをのぞいてもまだ七機カミシロがあったが、それらもおそらく、マガツヤマヒトの一撃で墜ちる。
それくらいマガツヤマヒトは強く、カミシロ・イザナギ一機とその七機との戦力査ですら、あまりに違いすぎた。
ヒサヒトとイザナミとカミシロ・イザナギだけで、マガツヤマヒトを迎え撃つ他に方法はなかった。
それに、十三評議会の動きも気になる。
アメノトリフネと七機のカミシロには、その警戒に当たってもらう。
それが今回の作戦として、イザナミとヒサヒトが立てた最善の、唯一の策だった。
ヒサヒトとイザナミは、それぞれカグツチとマガツヒを身にまとい、カミシロ・イザナギの持つふたつの神の子宮へと取り込まれた。
「感度良好、敵性反応はひとつ
確かに感じる、ヤマヒトの気というか、チャクラというか、オーラというか
でも、これはもう」
「禍津九頭龍そのものか。
よいな、ヒサヒト。敵はすでにヤマヒトではない。汝の知る山人の末裔のヤマヒトではない。
九頭龍人マガツヤマヒトだ」
「わかってる」
「わかっているつもりになっているだけであろう?」
図星だった。
マガツヤマヒト、いや、ヤマヒトを目の前にしたとき、自分は本当に彼を討つことができるだろうか?
できないような気がした。
彼はヒサヒトの家臣にあたるが、大切な友人だった。
本当に自分によくしてくれた。
その優しさに甘えていた。
わがままにいつも付き合わせて。
いやいやながらも、しぶしぶつきあってくれた。
兄のように思っていた。
けれど、日本の先住民族山人の末裔であった彼の目的は、ヒサヒトの遠い祖先、初代王神武にかけられた呪いを解き、山人を再び日本の地に反映させること。
そのためには、王族の血を絶えさせなければならない。
彼の優しさは、自分を騙すための見せかけだけのものだったのだろうか?
自分から信頼を得て、側近としていつも傍らにいられるようになれば、いつだって命を奪うことができる。
そういう立場になるために自分に優しくしてくれていただけだったのだろうか?
本当に、それだけだったのだろうか?
そうじゃなかったはずだ。
彼は本当に優しかった。
実際に命を奪われた。今の自分の体はかりそめの借り物だ。
けれど、それでも、
彼は優しかった。
そう信じたかった。
「汝が討てないというならば、妾が奴を討つ。
汝はそれを指をくわえて見ているか?」
「いや、イザナミさんにさせてしまうくらいなら、俺がやる。
俺がやらなきゃいけない。
これは、王族とか山人とかの問題じゃないんだ。
俺とヤマヒトの問題なんだ」
アメノトリフネのカタパルトデッキから射出されたカミシロ・イザナギは、マガツヤマヒトの現在地に向かって飛んだ。
「もう一度私に殺されるために自ら来るのか、あなたは」
マガツヤマヒトは、数日ぶりにヤマヒトであった頃の自分を取り戻していた。
彼はヒサヒトが黄泉の国から帰還したことを知らなかったが、自分のもとに向かってくる二人組の何者かとカミシロの存在には気づいていた。
二人組のうちのひとりは神だとすぐにわかった。もうひとりが王族の者であることも。アイコであるはずがなく、ならばヒサヒトが黄泉の国から帰還したに違いなかった。
そして、ヤマヒトはようやく気がついた。
109回目の裏切りは、ヒサヒトを二度殺すという意味なのだ。
この魂にこのような呪いをかけた聖人は、果たして本当に神の子だったのだろうか?
本当に聖人であったのだろうか?
イスカリオテのユダが、命をかけてまで愛する価値のある者だったのだろうか?
もはや、すべては藪の中だ。
だが、ヒサヒトが本気で私を討ちにくるというのなら、私はそれに本気で答えなければならない。
勝ち負けはもはや問題ではない。
自分の魂の行く末すら、どうでもいいとさえ思えた。
ヒサヒトこそ、まごうことなく、ヤマヒトの主だった。
愛していた。
それが、108回の輪廻転生を七度も繰り返した末に、ヤマヒトが出した答えだった。
だからヤマヒトは、バチカン市国にある国立デュルケーム研究所から、一機のデウスエクスマキナを強奪した。
ヒサヒトという主への愛が、彼にそうさせた。
すべては、主を愛するがゆえの行いであった。
アイコにヤマヒトに棗、我々は多くのものを失ったが、それでも戦い続けねばならない」
それだけではなかった。
サブローさんに、ヨモツとコヨミも。
イザナミは、皆の知らない三人の名前を口にはしなかったが、尊い犠牲だった。
ん? あれ? アイコちゃんはまだ死んでないよ? ヤマヒトも棗も。
「セフィロトもバベルももう存在しない。
十三評議会とやらの存在は気になるが、まずは世界を破壊しつくそうとしている者を討つ。
敵は九頭龍人マガツヤマヒト。
かつてこのアメノトリフネのクルーだった者だが、今ではもう禍津九頭龍の化身である。
妾とイザナギの国産みにより生まれた日本列島そのものであり、そなたたちの故郷だ。
だが、それでも我々は、マガツヤマヒトを討たねばならない」
アメノトリフネのブリッジに、イザナミの声が響く。
だから、そなたたちは、ここに残れ。
イザナミは皆が驚く提案をした。
「マガツヤマヒトとは、妾とヒサヒト、そしてカミシロ・イザナギで決着をつける」
アメノヌボコを失ったことで主砲が撃てなくなったアメノトリフネでは、足手まといになりかねなかった。
格納庫には、イザナギをのぞいてもまだ七機カミシロがあったが、それらもおそらく、マガツヤマヒトの一撃で墜ちる。
それくらいマガツヤマヒトは強く、カミシロ・イザナギ一機とその七機との戦力査ですら、あまりに違いすぎた。
ヒサヒトとイザナミとカミシロ・イザナギだけで、マガツヤマヒトを迎え撃つ他に方法はなかった。
それに、十三評議会の動きも気になる。
アメノトリフネと七機のカミシロには、その警戒に当たってもらう。
それが今回の作戦として、イザナミとヒサヒトが立てた最善の、唯一の策だった。
ヒサヒトとイザナミは、それぞれカグツチとマガツヒを身にまとい、カミシロ・イザナギの持つふたつの神の子宮へと取り込まれた。
「感度良好、敵性反応はひとつ
確かに感じる、ヤマヒトの気というか、チャクラというか、オーラというか
でも、これはもう」
「禍津九頭龍そのものか。
よいな、ヒサヒト。敵はすでにヤマヒトではない。汝の知る山人の末裔のヤマヒトではない。
九頭龍人マガツヤマヒトだ」
「わかってる」
「わかっているつもりになっているだけであろう?」
図星だった。
マガツヤマヒト、いや、ヤマヒトを目の前にしたとき、自分は本当に彼を討つことができるだろうか?
できないような気がした。
彼はヒサヒトの家臣にあたるが、大切な友人だった。
本当に自分によくしてくれた。
その優しさに甘えていた。
わがままにいつも付き合わせて。
いやいやながらも、しぶしぶつきあってくれた。
兄のように思っていた。
けれど、日本の先住民族山人の末裔であった彼の目的は、ヒサヒトの遠い祖先、初代王神武にかけられた呪いを解き、山人を再び日本の地に反映させること。
そのためには、王族の血を絶えさせなければならない。
彼の優しさは、自分を騙すための見せかけだけのものだったのだろうか?
自分から信頼を得て、側近としていつも傍らにいられるようになれば、いつだって命を奪うことができる。
そういう立場になるために自分に優しくしてくれていただけだったのだろうか?
本当に、それだけだったのだろうか?
そうじゃなかったはずだ。
彼は本当に優しかった。
実際に命を奪われた。今の自分の体はかりそめの借り物だ。
けれど、それでも、
彼は優しかった。
そう信じたかった。
「汝が討てないというならば、妾が奴を討つ。
汝はそれを指をくわえて見ているか?」
「いや、イザナミさんにさせてしまうくらいなら、俺がやる。
俺がやらなきゃいけない。
これは、王族とか山人とかの問題じゃないんだ。
俺とヤマヒトの問題なんだ」
アメノトリフネのカタパルトデッキから射出されたカミシロ・イザナギは、マガツヤマヒトの現在地に向かって飛んだ。
「もう一度私に殺されるために自ら来るのか、あなたは」
マガツヤマヒトは、数日ぶりにヤマヒトであった頃の自分を取り戻していた。
彼はヒサヒトが黄泉の国から帰還したことを知らなかったが、自分のもとに向かってくる二人組の何者かとカミシロの存在には気づいていた。
二人組のうちのひとりは神だとすぐにわかった。もうひとりが王族の者であることも。アイコであるはずがなく、ならばヒサヒトが黄泉の国から帰還したに違いなかった。
そして、ヤマヒトはようやく気がついた。
109回目の裏切りは、ヒサヒトを二度殺すという意味なのだ。
この魂にこのような呪いをかけた聖人は、果たして本当に神の子だったのだろうか?
本当に聖人であったのだろうか?
イスカリオテのユダが、命をかけてまで愛する価値のある者だったのだろうか?
もはや、すべては藪の中だ。
だが、ヒサヒトが本気で私を討ちにくるというのなら、私はそれに本気で答えなければならない。
勝ち負けはもはや問題ではない。
自分の魂の行く末すら、どうでもいいとさえ思えた。
ヒサヒトこそ、まごうことなく、ヤマヒトの主だった。
愛していた。
それが、108回の輪廻転生を七度も繰り返した末に、ヤマヒトが出した答えだった。
だからヤマヒトは、バチカン市国にある国立デュルケーム研究所から、一機のデウスエクスマキナを強奪した。
ヒサヒトという主への愛が、彼にそうさせた。
すべては、主を愛するがゆえの行いであった。
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