H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。
第28話 ヒサヒトの帰還②
カミシロ・クシナダによって運ばれヒサヒトはアメノトリフネへ無事帰還した。
クシナダの手から降りたヒサヒトを、女王アイリ、棗弘幸、イチカワアユカが出迎えた。
女王アイリは、ヒサヒトに抱きついたり顔中に口づけをしたりはしない。アイコちゃんではないからだ。
「おかえりなさい、ヒサヒト」
やさしく微笑み、ヒサヒトを抱きしめる。
棗弘幸の咳ばらいは、ヤマヒトとスカイツリーのてっぺんに登った、始まりの日と変わらないが。
女王アイリ、まずはこちらの方のご紹介を。
そうでしたわ、わたくしったらまるでアイコみたいなこと、、、
女王アイリがあわてるところ、はずかしがるそぶりをみせるところをヒサヒトははじめて見た。
「アイコ様ほどではありませんが、どうやらあなたも随分とヒサヒト様に」
「おだまりなさい棗」
怖い顔はよく見る。
ふたりはなんの話をしているのだろう? なんて、ライトノベルの主人公にありがちな鈍感さは、ヒサヒトにはない。
わかりやすすぎるアイコちゃんはもちろんのこと、アイリの気持ちもわかっていた。
アイリは姉によく似ていた。優しく、頭がよく、そして芯があり、強い。でも、本当は弱さを隠すために強がっているだけ。
ヒサヒトは、アイリに姉を重ねている自分にも気づいている。
「紹介もなにも、その子、イチカワアユカって子だろ?」
「体は確かにイチカワアユカのものですが、今彼女の中には」
「棗の、紹介などいらぬ。妾とも顔見知りだ。
黄泉の国でヨモツヘグリをくれてやって以来だな」
「え? イザナミさん!? なんでこんなところに?」
そういえば、エビスサブローが、イザナミは今アメノトリフネの誰かの体を借りていると言っていた。
まさか、それがカオスヒューマンのイチカワアユカだとは思いもよらなかった。
「この体は、我々神の体に比較的よくにておる。非常に使い勝手がいい」
なるほど。カオスヒューマンだからか。
ヒサヒトは思う。
旧約聖書と日本新話は、世界の成り立ちから、神の存在、人の誕生まで、そのすべてが異なってはいるが、カオスヒューマンの元となっているのはカオスの肉体。カオスとは、カオスシードから生まれた神や天使や悪魔。
神話や宗教が違えど、神は神。
イザナミ神の御霊が、カオスの肉体を元にして作られたカオスヒューマンに馴染むのは、おかしなことではないのかもしれない。
「どうやら、カグツチに選ばれたようだな。あるいはカグツチを受け入れたか」
「イザナミさんが俺に新しい八十三式……じゃなかった、百式をくれたんだったね。ありがとう。
でも、俺、よく死ななかったよね。
イザナミさんはカグツチを産んだときにおった大火傷が原因で死んだんだろ?
あれは確かに神様が死んでもおかしくない。熱すぎるもん」
「汝が死ななかったのは、カグツチをその体に取り込んだとき、死者だったからであろう」
確かに。あのときヒサヒトは死者だった。肉体はなく魂だけの存在。
あまりに一時的ではあったが、黄泉の国の住人だった。だから死なずにすんだというわけか。
つまりは、ヤマヒトの裏切りがなければ、ヒサヒトはカルマを失ったままセフィロト攻略に向かっていただろう。カグツチを手にすることはできなかったということだ。
ヒサヒトは、すべてが何者かに仕組まれているように感じた。ヤマヒトの裏切りですら。誰かの書いたシナリオ通りにすべては進んでいる。そんな気がした。
あのふたりの招かれざる客が所属する十三評議会?
いや、彼らもまた、元いた世界からはじきだされたと言っていたが、この世界に彼らを召喚した脚本家とでもいうべき存在がいるのかもしれない。
「もっとも、カグツチに選ばれなかったら、あるいは汝がカグツチを受け入れることができなかったら、汝の魂は死んでいた。魂の死こそが、本当の死だ」
「本当の死?」
「無になることだ」
「無って?」
さあな、とイザナミはアユカの顔を使って笑った。
その肉体も、汝の本来のものではない。汝の肉体は今も山人のそばにある。
「ヤマヒトの? じゃあ、この体は?」
「カグツチの作り出した、汝らの言葉を借りればコピーというやつだ。その肉体も命もカグツチのもの。汝はそれを間借りしているに過ぎない」
「本来の体は取り戻した方がいい?」
「無論そうすべきなのだが、サブローは汝の体のことまでは考えてはいないだろうな」
「サブローさんが? なんで?」
「サブローは、山人の始末に向かっている。あの山人が死ねば、禍津九頭龍獄まがつくずりゅうごくとなった日本列島もまた死ぬ。汝の体はその道連れとなる。しかしそのカグツチが再現した体があれば汝は本来の肉体を失っても死なずにすむ」
「それは困ったね。とりあえずアメノトリフネをヤマヒトのところにむかわせるとしても、本来の体を取り戻すまではヤマヒトを守ってサブローさんと戦わなきゃいけないわけか」
「そんは暇はない。 造化三神がまもなく動き出す。
イザナギもまた動き出すであろう」
「造化三神?」
「地上の些末な争いを早く終わらせねば、レイヤード世界のすべてが終わるほどの力を持っていると考えておけ」
些末な、か。
神から見れば人間同士の戦争なんてそんなものなのかもしれない。
「セフィロトには、ヨモツとコヨミを向かわせた。
教会とやらはあのふたりで十分であろう。招かれざる客がいるとしてもな」
「では、俺たちは何をすれば?」
「まずは、造化三神と戦うための戦力の増強であろう。
カミシロがたった八機では、三分も持たぬ。
サブローらのものをいれても11機ではな」
「妾は、そなたに、そしてもうひとりの王族の娘に、カミシロを与えるためにここにいる。
棗の、お主はおそらく汝の力を借りずともカミシロを作り出せるだろう。
それからイザナギが動き出すことも想定しておかねばならない。
イザナギは、妾が必ず始末する」
クシナダの手から降りたヒサヒトを、女王アイリ、棗弘幸、イチカワアユカが出迎えた。
女王アイリは、ヒサヒトに抱きついたり顔中に口づけをしたりはしない。アイコちゃんではないからだ。
「おかえりなさい、ヒサヒト」
やさしく微笑み、ヒサヒトを抱きしめる。
棗弘幸の咳ばらいは、ヤマヒトとスカイツリーのてっぺんに登った、始まりの日と変わらないが。
女王アイリ、まずはこちらの方のご紹介を。
そうでしたわ、わたくしったらまるでアイコみたいなこと、、、
女王アイリがあわてるところ、はずかしがるそぶりをみせるところをヒサヒトははじめて見た。
「アイコ様ほどではありませんが、どうやらあなたも随分とヒサヒト様に」
「おだまりなさい棗」
怖い顔はよく見る。
ふたりはなんの話をしているのだろう? なんて、ライトノベルの主人公にありがちな鈍感さは、ヒサヒトにはない。
わかりやすすぎるアイコちゃんはもちろんのこと、アイリの気持ちもわかっていた。
アイリは姉によく似ていた。優しく、頭がよく、そして芯があり、強い。でも、本当は弱さを隠すために強がっているだけ。
ヒサヒトは、アイリに姉を重ねている自分にも気づいている。
「紹介もなにも、その子、イチカワアユカって子だろ?」
「体は確かにイチカワアユカのものですが、今彼女の中には」
「棗の、紹介などいらぬ。妾とも顔見知りだ。
黄泉の国でヨモツヘグリをくれてやって以来だな」
「え? イザナミさん!? なんでこんなところに?」
そういえば、エビスサブローが、イザナミは今アメノトリフネの誰かの体を借りていると言っていた。
まさか、それがカオスヒューマンのイチカワアユカだとは思いもよらなかった。
「この体は、我々神の体に比較的よくにておる。非常に使い勝手がいい」
なるほど。カオスヒューマンだからか。
ヒサヒトは思う。
旧約聖書と日本新話は、世界の成り立ちから、神の存在、人の誕生まで、そのすべてが異なってはいるが、カオスヒューマンの元となっているのはカオスの肉体。カオスとは、カオスシードから生まれた神や天使や悪魔。
神話や宗教が違えど、神は神。
イザナミ神の御霊が、カオスの肉体を元にして作られたカオスヒューマンに馴染むのは、おかしなことではないのかもしれない。
「どうやら、カグツチに選ばれたようだな。あるいはカグツチを受け入れたか」
「イザナミさんが俺に新しい八十三式……じゃなかった、百式をくれたんだったね。ありがとう。
でも、俺、よく死ななかったよね。
イザナミさんはカグツチを産んだときにおった大火傷が原因で死んだんだろ?
あれは確かに神様が死んでもおかしくない。熱すぎるもん」
「汝が死ななかったのは、カグツチをその体に取り込んだとき、死者だったからであろう」
確かに。あのときヒサヒトは死者だった。肉体はなく魂だけの存在。
あまりに一時的ではあったが、黄泉の国の住人だった。だから死なずにすんだというわけか。
つまりは、ヤマヒトの裏切りがなければ、ヒサヒトはカルマを失ったままセフィロト攻略に向かっていただろう。カグツチを手にすることはできなかったということだ。
ヒサヒトは、すべてが何者かに仕組まれているように感じた。ヤマヒトの裏切りですら。誰かの書いたシナリオ通りにすべては進んでいる。そんな気がした。
あのふたりの招かれざる客が所属する十三評議会?
いや、彼らもまた、元いた世界からはじきだされたと言っていたが、この世界に彼らを召喚した脚本家とでもいうべき存在がいるのかもしれない。
「もっとも、カグツチに選ばれなかったら、あるいは汝がカグツチを受け入れることができなかったら、汝の魂は死んでいた。魂の死こそが、本当の死だ」
「本当の死?」
「無になることだ」
「無って?」
さあな、とイザナミはアユカの顔を使って笑った。
その肉体も、汝の本来のものではない。汝の肉体は今も山人のそばにある。
「ヤマヒトの? じゃあ、この体は?」
「カグツチの作り出した、汝らの言葉を借りればコピーというやつだ。その肉体も命もカグツチのもの。汝はそれを間借りしているに過ぎない」
「本来の体は取り戻した方がいい?」
「無論そうすべきなのだが、サブローは汝の体のことまでは考えてはいないだろうな」
「サブローさんが? なんで?」
「サブローは、山人の始末に向かっている。あの山人が死ねば、禍津九頭龍獄まがつくずりゅうごくとなった日本列島もまた死ぬ。汝の体はその道連れとなる。しかしそのカグツチが再現した体があれば汝は本来の肉体を失っても死なずにすむ」
「それは困ったね。とりあえずアメノトリフネをヤマヒトのところにむかわせるとしても、本来の体を取り戻すまではヤマヒトを守ってサブローさんと戦わなきゃいけないわけか」
「そんは暇はない。 造化三神がまもなく動き出す。
イザナギもまた動き出すであろう」
「造化三神?」
「地上の些末な争いを早く終わらせねば、レイヤード世界のすべてが終わるほどの力を持っていると考えておけ」
些末な、か。
神から見れば人間同士の戦争なんてそんなものなのかもしれない。
「セフィロトには、ヨモツとコヨミを向かわせた。
教会とやらはあのふたりで十分であろう。招かれざる客がいるとしてもな」
「では、俺たちは何をすれば?」
「まずは、造化三神と戦うための戦力の増強であろう。
カミシロがたった八機では、三分も持たぬ。
サブローらのものをいれても11機ではな」
「妾は、そなたに、そしてもうひとりの王族の娘に、カミシロを与えるためにここにいる。
棗の、お主はおそらく汝の力を借りずともカミシロを作り出せるだろう。
それからイザナギが動き出すことも想定しておかねばならない。
イザナギは、妾が必ず始末する」
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