H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。
第25話 黄泉の国のヒサヒト
ヒサヒトは、自分がなぜ黄泉の国にいるのか、理解が出来なかった。
黄泉の国。
イザナミ神が支配する死者の国。
一度だけ、それもつい先ほど、ヒサヒトはこの国を訪れている。
生者として。
これから自分が命を奪うことになる異世界からの招かれざる客を、この国で受け入れてくれるように。
それは、王族であることとは関係がなく、ヒサヒトがけっして慈悲深いというわけでもなく、命を奪ってしまうことの罪の意識と、招かれざる客をあんな風に歪ませてしまった平和な世界の矛盾への怒りからだった。
イザナミ神は、黄泉比良坂でとれるヨモツヘグリという果物をヒサヒトに渡した。
「それをその者が食べたのなら、黄泉の国は、私は、その者を受け入れましょう」
招かれざる客ダイドウカズキは、ヨモツヘグリを食べなかった。
もうひとりの招かれざる客ミヤザキの分をヒサヒトはもらい忘れた。
だから、ふたりの招かれざる客を、黄泉の国は受け入れてはくれなかっただろう。
ふたりの魂は、死者として行くべき場所すらこの世界にはないのだ。
「ねぇ、君、聞いてるかな」
双子の少年比良坂ヨモツが言う。
「イザナミ様がお待ちなんだってば!」
双子の少女比良坂コヨミが言った。
「君の疑問には、イザナミ様がこたえてくれる」
「すべてか、ひとつだけかは、イザナミ様の気分次第なんだから!」
「わかったよ」
ヒサヒトは起きあがる。
どうやら彼は、どこにいってもお節介な世話役がそばにつくようだ。
それが、真王の資質のひとつであることを彼はまだ知らない。
「頭の上に輪っかとかないんだね。足もちゃんとあるし」
あれは地上の人間が勝手にイメージしたものにすぎないというわけか。
あるいは、自分はまだ死んでいない?
いや、死んだはずだ。
天地開闢の途中で頭を熱線で撃ち抜かれた。
あんなことができるのは、考えたくないけれど、ひとりだけ。
ヒサヒトが最も信頼する男だけだった。
黄泉の国からは、地上を見ることができる。
高天ヶ原からは、地上も黄泉の国も見えた。
すべての世界は同じ場所に存在する。
パソコンでイラストを書くときのレイヤーのように、あるいはアニメの背景とセル画のように、三つの世界は重なっていて、一番下の絵にあたる地上(ちょっとちょっと、なんか日本列島浮かんでるんですけど!)からは、その上の絵にある黄泉の国は見えない。黄泉の国からは、その上の絵にある高天ヶ原は見えない。
逆に高天ヶ原からは、黄泉の国も地上も見ることができる。
「そう、世界はひとつひとつがレイヤーとして構成されている」
ヨモツが言う。
「この世界の形はレイヤードっていうんだから! 」
コヨミが言った。
「レイヤード……。
なるほど、世界は重ね着してるわけか。差し色なんかもありそうだな」
「察しがいいね、君は」
ヨモツに誉められ、ヒサヒトはまんざらでもない顔をした。
「まだあんたにはその世界のこと教えてあげないけど」
コヨミはツンデレというやつなのだろうか。
アイコちゃんはデレデレで、女王アイリは……あの人はデレないか。
「ツンデレ、めんどくさい」
ヒサヒトは思わず口にしてしまっていた。
「ぐぬぬ、この比良坂コヨミの性格を、ツンデレなどという地上の安直な言葉でカテゴライズするなんて……。
おにいちゃん、こいつ殺していい? 殺さなきゃだめだと思うの」
「なんか急におかしくなった!」
「ごめんね、ヤンデレなんだ、コヨミは」
「ヤンデレとかじゃねーし!」
「わかってる、おにいちゃんのことが大好きなブラコンのヤンデレだもんね」
ヒサヒトはもうため息をつくしかなかった。
そんはバカな話をしているうちに、三人はイザナミ神の宮殿についた。
「ここからは君ひとりだよ」
ヨモツが言い、
「別についていってあげてもいいんだけど~、コヨミ、おにいちゃんといっしょにいたいから~」
ツンデレ(実はヤンデレらしい)のコヨミが言った。
仲のいいふたりを見ているとヒサヒトは姉のことを思い出す。
姉は生きている。
おそらく教会の息のかかった国の王族に嫁いでいるはずだ。
「じゃあ、イザナミさんに会ってこようかな」
ヒサヒトは、数歩だけ歩を進めて、振り返る。
「どうしたんだい?」
「はやくいきなさいよ!」
「さっきの、レイヤードの差し色の話なんだけどさ、たぶんだけど、その世界って、邪馬台国だよね?」
ふたりは目を見開いて、口をあんぐりと開けた。
「やっぱりそうか。
しかも、地上よりも上位のレイヤー。だから邪馬台国がどこにあったのか地上の学者たちがいくら調べてもわからなかった」
ヒサヒトはきびすをかえし、宮殿の中を歩いていく。
世界にはまだまだ自分の知らないことがたくさんある。
だから面白い。
ヒサヒトは自然と駆け足に、満面の笑顔になっていた。
黄泉の国。
イザナミ神が支配する死者の国。
一度だけ、それもつい先ほど、ヒサヒトはこの国を訪れている。
生者として。
これから自分が命を奪うことになる異世界からの招かれざる客を、この国で受け入れてくれるように。
それは、王族であることとは関係がなく、ヒサヒトがけっして慈悲深いというわけでもなく、命を奪ってしまうことの罪の意識と、招かれざる客をあんな風に歪ませてしまった平和な世界の矛盾への怒りからだった。
イザナミ神は、黄泉比良坂でとれるヨモツヘグリという果物をヒサヒトに渡した。
「それをその者が食べたのなら、黄泉の国は、私は、その者を受け入れましょう」
招かれざる客ダイドウカズキは、ヨモツヘグリを食べなかった。
もうひとりの招かれざる客ミヤザキの分をヒサヒトはもらい忘れた。
だから、ふたりの招かれざる客を、黄泉の国は受け入れてはくれなかっただろう。
ふたりの魂は、死者として行くべき場所すらこの世界にはないのだ。
「ねぇ、君、聞いてるかな」
双子の少年比良坂ヨモツが言う。
「イザナミ様がお待ちなんだってば!」
双子の少女比良坂コヨミが言った。
「君の疑問には、イザナミ様がこたえてくれる」
「すべてか、ひとつだけかは、イザナミ様の気分次第なんだから!」
「わかったよ」
ヒサヒトは起きあがる。
どうやら彼は、どこにいってもお節介な世話役がそばにつくようだ。
それが、真王の資質のひとつであることを彼はまだ知らない。
「頭の上に輪っかとかないんだね。足もちゃんとあるし」
あれは地上の人間が勝手にイメージしたものにすぎないというわけか。
あるいは、自分はまだ死んでいない?
いや、死んだはずだ。
天地開闢の途中で頭を熱線で撃ち抜かれた。
あんなことができるのは、考えたくないけれど、ひとりだけ。
ヒサヒトが最も信頼する男だけだった。
黄泉の国からは、地上を見ることができる。
高天ヶ原からは、地上も黄泉の国も見えた。
すべての世界は同じ場所に存在する。
パソコンでイラストを書くときのレイヤーのように、あるいはアニメの背景とセル画のように、三つの世界は重なっていて、一番下の絵にあたる地上(ちょっとちょっと、なんか日本列島浮かんでるんですけど!)からは、その上の絵にある黄泉の国は見えない。黄泉の国からは、その上の絵にある高天ヶ原は見えない。
逆に高天ヶ原からは、黄泉の国も地上も見ることができる。
「そう、世界はひとつひとつがレイヤーとして構成されている」
ヨモツが言う。
「この世界の形はレイヤードっていうんだから! 」
コヨミが言った。
「レイヤード……。
なるほど、世界は重ね着してるわけか。差し色なんかもありそうだな」
「察しがいいね、君は」
ヨモツに誉められ、ヒサヒトはまんざらでもない顔をした。
「まだあんたにはその世界のこと教えてあげないけど」
コヨミはツンデレというやつなのだろうか。
アイコちゃんはデレデレで、女王アイリは……あの人はデレないか。
「ツンデレ、めんどくさい」
ヒサヒトは思わず口にしてしまっていた。
「ぐぬぬ、この比良坂コヨミの性格を、ツンデレなどという地上の安直な言葉でカテゴライズするなんて……。
おにいちゃん、こいつ殺していい? 殺さなきゃだめだと思うの」
「なんか急におかしくなった!」
「ごめんね、ヤンデレなんだ、コヨミは」
「ヤンデレとかじゃねーし!」
「わかってる、おにいちゃんのことが大好きなブラコンのヤンデレだもんね」
ヒサヒトはもうため息をつくしかなかった。
そんはバカな話をしているうちに、三人はイザナミ神の宮殿についた。
「ここからは君ひとりだよ」
ヨモツが言い、
「別についていってあげてもいいんだけど~、コヨミ、おにいちゃんといっしょにいたいから~」
ツンデレ(実はヤンデレらしい)のコヨミが言った。
仲のいいふたりを見ているとヒサヒトは姉のことを思い出す。
姉は生きている。
おそらく教会の息のかかった国の王族に嫁いでいるはずだ。
「じゃあ、イザナミさんに会ってこようかな」
ヒサヒトは、数歩だけ歩を進めて、振り返る。
「どうしたんだい?」
「はやくいきなさいよ!」
「さっきの、レイヤードの差し色の話なんだけどさ、たぶんだけど、その世界って、邪馬台国だよね?」
ふたりは目を見開いて、口をあんぐりと開けた。
「やっぱりそうか。
しかも、地上よりも上位のレイヤー。だから邪馬台国がどこにあったのか地上の学者たちがいくら調べてもわからなかった」
ヒサヒトはきびすをかえし、宮殿の中を歩いていく。
世界にはまだまだ自分の知らないことがたくさんある。
だから面白い。
ヒサヒトは自然と駆け足に、満面の笑顔になっていた。
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