H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。
第07話 混沌之壱番機、同弐番機ツヴァイ
ヒサヒトが起こした奇跡。
それはセカンドバベルの一部となっていた死者の再生。
セカンドバベル攻略作戦は一旦中止され、摂政棗弘幸とアンダーグラウンド唯一のドクター榊李子女医により、再生者ふたりの調査が行われていた。
「君の名前は?」
棗は、一人目の再生者への質問を終え、二人目への質問を始めていた。
「イチカワ・アユカ」
「年は?」
「14」
「ラグナロクの日のことを覚えているか?」
「なにそれ」
アユカと名乗った少女は、ぽかんとした表情で小首をかしげた。
「知るわけがないでしょう。
そのよび名は、後につけられたものですよ」
榊女医に言われ、棗は確かにそうだなと思う。
「君は君が死んだ日のことを覚えているか?」
だから言葉を変えて質問をし直した。
「わたしが死んだ日? 何を言っているの?
わたし、生きてるでしょ。見たらわかるでしょ」
「あの日の記憶はないか」
「先程の少女と同じですね」
「ツバイ・ニジカといったか、確か」
「ふたりとも、DNAパターンは間違いなく我々と同じ人間であることを示しています。
血液中のヒヒイロカネの濃度は共にランクAマイナス」
「訓練をすれば十分に八十三式を扱えるな」
「問題は一点だけ。それも、とてつもなく大きな問題が」
「それはなんだい?」
「DNAパターンは人間と同じですが、肉体を構築する物質は、カオスと同じダークマターと呼ばれるものです」
「暗黒物質か。
つまりは、同じ設計図を使ってはいるが、その材質は木と鉄ほどの違いがあるというわけか。おもしろいな」
「何がおもしろいのです。彼女たちを危険分子と考えるべきでは?」
「秘密裏に抹殺しろとでも? ヒサヒト様にはなんと説明する?」
「それは……」
「ヒサヒト様がおこされた奇跡だ。
危険なことは私も理解しているが、生かしておくしかあるまい。
カオスの肉体で作られたヒヒイロカネを持つ人間の少女か。
このふたりの八十三式強化外骨格を早く見てみたいな。
うまく扱えば、ヒサヒト様に次ぐセカンドバベル攻略の要となるかもしれない。
まかせてもかまわないな? ドクター」
「何が起きても知りませんよ」
同時刻。
ヤマヒトは、八十三式強化外骨格・オロチをその身にまとい、セカンドバベルの中にひとりいた。
ヒサヒトが二人の少女を救出(?)したことにより、開いた穴からセカンドバベルは侵入できるようになっていた。
「セカンドバベル、軌道エレベーター……エネルギー資源が枯渇した人類の、最後の砦。
本当にこれは人やカオスの死体でできているのか? 内部はすべて鏡だぞ。太陽光を無駄なく利用するためか?」
その中心は吹き抜けになっていて、外壁を伝うようにふたつの螺旋階段がからみあっている。
「この植物の根のようなものは、セフィロトの樹の根か。上も下も、一体どこまで続いている?」
耳が痛くなるほどの静けさの中で、ヤマヒトは、視界にあるレーダーを見る。
「敵性反応なし。
外部は四大天使や天使の軍勢に守らせておきながら、内部は見回りのカオスすらいないとはな。
ん? 熱源反応? 上か!?」
ヤマヒトがいる場所から数百キロは離れた場所から確認された熱源反応は、蓄積された超高温の太陽エネルギーだった。
「なるほど、侵入者を片付けるのに、これほど優れた兵器はないか。内部の防衛はセカンドバベルそれ自体が行う」
ヒサヒト様に、棗に伝えなければ……セカンドバベルは内部からも破壊できない……
ヤマヒトは、照射された太陽エネルギーにその身を焼かれながら思った。
「ヤマヒトさんのオロチが消息をたちました」
アンダーグラウンドの作戦会議室で、オペレーターの細川莉乃が言った。皆が顔を見合わせ、信じられないという顔をする。
「ヤマヒトが? どこでだ?」
「セカンドバベルの内部です」
「あいつ、ひとりであの中に?」
「調査だと……おっしゃっていましたが……」
「何が起きたかわかる?」
「その直前に超高温の熱源の発生が確認されています。
おそらくは蓄積された太陽エネルギー」
「アイコちゃん、棗、聞いていたか?」
モニターに、ふたりの映像が映し出される。
「ええ……」
「これはまたずいぶんとやっかいなことになりましたね」
「ヤマヒトの捜索にいく」
「なりません、ヒサヒト」
「アイリか? 頼む行かせてくれ。あいつはそう簡単には死なない。生きているはずだ」
「ただ、オロチは大破している可能性が高いでしょう。
彼は触媒である大蛇丸を使わなければ、八十三式を起動できないし、修復も不可能です」
「だから俺が行く。俺ならヒヒイロカネをうまく扱える。オロチを直してヤマヒトを救える」
「ヒサヒト様である必要がありません。ヒヒイロカネを扱えるものであればよいのです」
「棗の言う通りですよ、ヒサヒト。
あなたまで行方不明になることは、セカンドバベルの攻略失敗どころのさわぎではありません。
この国の再興の道が絶たれる」
「ドクター、例のふたりは?」
モニターがさらにひとつ。榊女医をうつす。
「問題はありません。
あくまでアンダーグラウンドの中では、ですが」
「セカンドバベルの中ではどうなるかわからないと?」
「そうです」
「やってもみないうちから、何かが起こるのを恐れていては何も始まらないよドクター。起きてから考えればいい」
「何かが起きてしまってからでは遅い場合もあります」
「なんとでもなるさ。
ヒサヒト様、すぐにヤマヒト調査隊をセカンドバベルに送ります」
「調査隊? メンバーは誰だ? ダイドウって奴やミヤザキってじいさんやアサクラか?」
「いいえ、あなたが起こした奇跡がヤマヒトを救うことになるでしょう。
ドクター、例のふたりの出撃準備を急いでくれ」
「あの子たちに? どういうことだ棗」
「彼女たちは、特別な存在なのです。 人でありながら、カオスでもあり、八十三式を扱える」
「人でありながら、カオスでもある?」
「カオスとは、世界中の神話に登場した神や天使、悪魔であり、セカンドバベルは、人とカオスがいりまじったもの。
ヒサヒトさまは、カオスの肉体を構成する物質で、人間を再構築なされた。
彼女たちは、進化した人類といっても過言ではありません。
同時に、高天ヶ原の神々の血を色濃く受け継ぐヒサヒト様に限りなく近い存在。
ヒサヒト様なら、セカンドバベルから無尽蔵にそのような兵士を生み出すことができるかもしれません」
「やめてくれ、俺はそんなつもりであの子たちをたすけたわけじゃない」
「では、このふたりがすぐ死ぬようなら、ヒサヒト様には自ら戦ってもらいますので、ご安心を」
「八十三式強化外骨格・混沌之壱番機、同弐番機ツヴァイ、出撃させます」
それはセカンドバベルの一部となっていた死者の再生。
セカンドバベル攻略作戦は一旦中止され、摂政棗弘幸とアンダーグラウンド唯一のドクター榊李子女医により、再生者ふたりの調査が行われていた。
「君の名前は?」
棗は、一人目の再生者への質問を終え、二人目への質問を始めていた。
「イチカワ・アユカ」
「年は?」
「14」
「ラグナロクの日のことを覚えているか?」
「なにそれ」
アユカと名乗った少女は、ぽかんとした表情で小首をかしげた。
「知るわけがないでしょう。
そのよび名は、後につけられたものですよ」
榊女医に言われ、棗は確かにそうだなと思う。
「君は君が死んだ日のことを覚えているか?」
だから言葉を変えて質問をし直した。
「わたしが死んだ日? 何を言っているの?
わたし、生きてるでしょ。見たらわかるでしょ」
「あの日の記憶はないか」
「先程の少女と同じですね」
「ツバイ・ニジカといったか、確か」
「ふたりとも、DNAパターンは間違いなく我々と同じ人間であることを示しています。
血液中のヒヒイロカネの濃度は共にランクAマイナス」
「訓練をすれば十分に八十三式を扱えるな」
「問題は一点だけ。それも、とてつもなく大きな問題が」
「それはなんだい?」
「DNAパターンは人間と同じですが、肉体を構築する物質は、カオスと同じダークマターと呼ばれるものです」
「暗黒物質か。
つまりは、同じ設計図を使ってはいるが、その材質は木と鉄ほどの違いがあるというわけか。おもしろいな」
「何がおもしろいのです。彼女たちを危険分子と考えるべきでは?」
「秘密裏に抹殺しろとでも? ヒサヒト様にはなんと説明する?」
「それは……」
「ヒサヒト様がおこされた奇跡だ。
危険なことは私も理解しているが、生かしておくしかあるまい。
カオスの肉体で作られたヒヒイロカネを持つ人間の少女か。
このふたりの八十三式強化外骨格を早く見てみたいな。
うまく扱えば、ヒサヒト様に次ぐセカンドバベル攻略の要となるかもしれない。
まかせてもかまわないな? ドクター」
「何が起きても知りませんよ」
同時刻。
ヤマヒトは、八十三式強化外骨格・オロチをその身にまとい、セカンドバベルの中にひとりいた。
ヒサヒトが二人の少女を救出(?)したことにより、開いた穴からセカンドバベルは侵入できるようになっていた。
「セカンドバベル、軌道エレベーター……エネルギー資源が枯渇した人類の、最後の砦。
本当にこれは人やカオスの死体でできているのか? 内部はすべて鏡だぞ。太陽光を無駄なく利用するためか?」
その中心は吹き抜けになっていて、外壁を伝うようにふたつの螺旋階段がからみあっている。
「この植物の根のようなものは、セフィロトの樹の根か。上も下も、一体どこまで続いている?」
耳が痛くなるほどの静けさの中で、ヤマヒトは、視界にあるレーダーを見る。
「敵性反応なし。
外部は四大天使や天使の軍勢に守らせておきながら、内部は見回りのカオスすらいないとはな。
ん? 熱源反応? 上か!?」
ヤマヒトがいる場所から数百キロは離れた場所から確認された熱源反応は、蓄積された超高温の太陽エネルギーだった。
「なるほど、侵入者を片付けるのに、これほど優れた兵器はないか。内部の防衛はセカンドバベルそれ自体が行う」
ヒサヒト様に、棗に伝えなければ……セカンドバベルは内部からも破壊できない……
ヤマヒトは、照射された太陽エネルギーにその身を焼かれながら思った。
「ヤマヒトさんのオロチが消息をたちました」
アンダーグラウンドの作戦会議室で、オペレーターの細川莉乃が言った。皆が顔を見合わせ、信じられないという顔をする。
「ヤマヒトが? どこでだ?」
「セカンドバベルの内部です」
「あいつ、ひとりであの中に?」
「調査だと……おっしゃっていましたが……」
「何が起きたかわかる?」
「その直前に超高温の熱源の発生が確認されています。
おそらくは蓄積された太陽エネルギー」
「アイコちゃん、棗、聞いていたか?」
モニターに、ふたりの映像が映し出される。
「ええ……」
「これはまたずいぶんとやっかいなことになりましたね」
「ヤマヒトの捜索にいく」
「なりません、ヒサヒト」
「アイリか? 頼む行かせてくれ。あいつはそう簡単には死なない。生きているはずだ」
「ただ、オロチは大破している可能性が高いでしょう。
彼は触媒である大蛇丸を使わなければ、八十三式を起動できないし、修復も不可能です」
「だから俺が行く。俺ならヒヒイロカネをうまく扱える。オロチを直してヤマヒトを救える」
「ヒサヒト様である必要がありません。ヒヒイロカネを扱えるものであればよいのです」
「棗の言う通りですよ、ヒサヒト。
あなたまで行方不明になることは、セカンドバベルの攻略失敗どころのさわぎではありません。
この国の再興の道が絶たれる」
「ドクター、例のふたりは?」
モニターがさらにひとつ。榊女医をうつす。
「問題はありません。
あくまでアンダーグラウンドの中では、ですが」
「セカンドバベルの中ではどうなるかわからないと?」
「そうです」
「やってもみないうちから、何かが起こるのを恐れていては何も始まらないよドクター。起きてから考えればいい」
「何かが起きてしまってからでは遅い場合もあります」
「なんとでもなるさ。
ヒサヒト様、すぐにヤマヒト調査隊をセカンドバベルに送ります」
「調査隊? メンバーは誰だ? ダイドウって奴やミヤザキってじいさんやアサクラか?」
「いいえ、あなたが起こした奇跡がヤマヒトを救うことになるでしょう。
ドクター、例のふたりの出撃準備を急いでくれ」
「あの子たちに? どういうことだ棗」
「彼女たちは、特別な存在なのです。 人でありながら、カオスでもあり、八十三式を扱える」
「人でありながら、カオスでもある?」
「カオスとは、世界中の神話に登場した神や天使、悪魔であり、セカンドバベルは、人とカオスがいりまじったもの。
ヒサヒトさまは、カオスの肉体を構成する物質で、人間を再構築なされた。
彼女たちは、進化した人類といっても過言ではありません。
同時に、高天ヶ原の神々の血を色濃く受け継ぐヒサヒト様に限りなく近い存在。
ヒサヒト様なら、セカンドバベルから無尽蔵にそのような兵士を生み出すことができるかもしれません」
「やめてくれ、俺はそんなつもりであの子たちをたすけたわけじゃない」
「では、このふたりがすぐ死ぬようなら、ヒサヒト様には自ら戦ってもらいますので、ご安心を」
「八十三式強化外骨格・混沌之壱番機、同弐番機ツヴァイ、出撃させます」
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