加藤麻衣サーガ missing (2001) + monochrone (2002) + ?

雨野美哉(あめの みかな)

2002/08/16-08/22

8月16日(金) 天気はれ 気温35℃

夜子がママをさがすなんて言い出したのはおとといがはじめてのことだったんだ。十年以上ママには会っていないし、夜子はもうママの顔も声も忘れてると思ってた。夜子がママがいなくなって泣いたのはあの日だけだから。
昨日はそんな気にならなかったけれど、ゆうべ寝言をつぶやきながら泣く夜子の寝顔を見て、気になっちゃった。ママ、ママ
夜子が近所の女の子たちと、三年前わたしが夜子を連れて公園デビューした公園の砂場におままごとに出かけてる間に、夜子のメールボックスを開いたんだ。
「雪へ」「雪へ」「雪へ」「雪へ」「雪へ」「雪へ」「雪へ」「雪へ」
わたしあてのメールが全部開いてた。差出人は小島綾音。わたしたちのママの名前。最近とったばかりの夜子のメールアドレスにどうしてママからメールが届くのかは知らない。
そんなことよりもわたしあてのママからのメールを勝手に開いてる夜子が許せなかった。
だから今日は公園に夜子を迎えにいったりしない。夜子なんて泥だらけで泣いて帰ってきたらいいんだ。
先生、雪は間違ってないよね?



8月17日(土) 天気くもりのちはれ 気温36℃

芹菓から届いたメール。

-----------------------------------------------------------

To 小島雪<sonw126@xxxxxx.ne.jp>&加藤麻衣<mai109@xxxxx.ne.jp>
From 鈴木芹菓<serikas@xxxxx.ne.jp>
Title (*´∀`)=σ)´Д`) プニュプニュ
Message
こないだはごめんね。お兄ちゃんとカヨのエッチをモニターで見て、わたし頭がおかしくなりそうだったの。なってたかもしれない。雪や麻衣の声がずっとうわのそらだったから。ふたりが来てくれてるのは覚えてるんだけど、いつ帰ったのか覚えてないんだ。わたし、ちゃんとふたりを見送ったかなぁ?お兄ちゃんとカヨのエッチを仕組んだのはわたしだけど、でも死にたくなった。お兄ちゃんがカヨにしたのがカヨのカラダにあんなにアザを作るくらいのSMだったから、とかじゃなくて、わたしじゃなくてカヨなんかがお兄ちゃんにあんなに愛された//

-----------------------------------------------------------

先生、携帯のメールは不便です。



8月18日(日) 天気くもり 気温32℃

夜子は日曜の朝だけは早いんだ。学校のある日は寝坊するくせに休みの日だけは早い小学生みたい。いつもはお昼すぎにならないと起きない。
セーラームーンの再放送を観ては変身セットをほしがって、ハリケンジャーを観てはシノビマシンをほしがる。龍騎は夜子には難しいみたいだった。クラッシュギアは観ずに歯を磨いたり顔を洗ったりトイレに行ったりしてるみたい。おじゃ魔女を観たあとはかならずおかしを作りたがるんだ。
今日は夜子にねだられて忍びマシンを買いに行ったよ。朝十時のデパートの開店を待つ家族客に並んで。それもふたつ。こうしてわたしたちの部屋に毎年毎年合体変形ロボットのおもちゃが増えていくんだ。
夜子はかわいいけど、でもときどきすごく迷惑。
それにしても何もシノビマシン同士を戦わせることないのに。しかもわたしが悪役だなんて。
まるでわたしたちの関係そのままじゃない。



8月19日(月) 天気はれのちあめ 気温29℃

ママにメールをしてから三日がたちました。
夜子のメルアドからじゃなく、わたしの携帯から。250文字いっぱいのメールを三通。
ママからの返事はまだありません。

今夜子がわたしの横でパソコンをしています。メールボックスを開いているのが横目に見えます。
パスワードが変わっていました。夜子が自分で変更したのかな。わたしにはもう開けません。
泣きたいです。
夜子は今日も笑ってます。



8月20日(火) 天気はれ 気温27℃

ワタルの誕生日を忘れてた。8月15日。先生と同じ日。去年も忘れてた。
駅前のデパートで買った2000円もするくせに小さい丸ケーキを買って、夜子といっしょにワタルの家に行く。
ワタルは出かけていて、ワタルのママと夜子とわたしの三人でワタルが帰ってくるのを待った。
「わたし、雪ちゃんや夜子ちゃんみたいな女の子がほしかったの」
外国製のお菓子をよばれてきたなくなった夜子の口のまわりをふきながらワタルのママは言った。
その言葉はきっと本当で、ちっちゃいときからワタルのママはわたしたちを猫っかわいがりしてくれる。目に入れても痛くないみたいに。娘みたいに。このひとがわたしたちのママだったら、このひとはわたしたちを捨てたり、夜子にだけメールをしたりしないと思う。
ワタルのママの顔はアザだらけ。
「最近あの子の暴力がひどくなって…」
と笑った。「こんな顔じゃパートにも出られないのよ」
宮沢家にはパパがいない。
おさななじみ、と呼べる子はお互いに何人もいるけれど、ワタルみたいにずっと仲のいい子はいない。さびしさを埋めあう関係なんてダサイけど、でもきっとそんなところで、わたしたちとワタルの関係はつながってるんだと思う。
ワタルが好き。
ママに暴力はふるってもわたしや夜子にはふるったりしないから、きっと大事にしてくれてるんだよね。でもママも大事にしてあげて。
ワタルが喜ぶ顔が見たくてずっと待ってたけど、パパが夜子をむかえにきたからいっしょにわたしも帰りました。



8月21日(水) 天気くもりのちはれ 気温28℃

芹菓からの呼び出しメール。軽井沢から帰ってきた芹菓が前回のおわびも兼ねてモノクローン座談会?の第3弾をやりたいんだとか。
わたしはなんだか行く気にならないから、麻衣に夜子を連れてってもらいました。
あんなメールをもらって芹菓にどう接したらいいのかわからなかったし、それに芹菓のことがあまり好きじゃないからかな。友達だけど。
夜子はわたしがついていかないことを知ると、麻衣の前で泣き出してしまいました。
泣いた夜子の手を困った顔をしてひく麻衣、かわいかったな。
ワタルがネットアイドル加藤麻衣のファンだったみたいに、男の子はみんなきっとわたしや芹菓じゃなく麻衣を選ぶんだろうなって思ったら少し泣けました。
時刻は夕方なのに、まだ太陽がまったく沈む気配を見せない頃、麻衣が夜子を連れて帰ってきたとき、泣いてたのは麻衣でした。
何があったんだろう。
麻衣は何を尋ねても何もこたえてくれませんでした。



8月22日(木) 天気はれのちくもり 気温28℃

わたしは病気なんだって。
先生に連れられて学校のカウンセラーの先生に会いに行きました。
恐くて震えてた。生理痛がひどいとかそんなで保健室に相談にいくのとはわけがちがうんだ。
きっと精神科を紹介されちゃうんだ。わたしはそこに行くことになるんだ。怖いよ。
先生は廊下で手をつないでくれたよ。わたしのこと好きでいてくれてるのかな?
逆セクハラな露出度の高い女がカウンセラーだった。校長が彼女の尻を触ったとかで問題になってたっけ。ジャニーズみたいな美少年にはさわらせて逆に迷惑されてるくせに。
こんな女に何も相談することなんかない。
私には先生もワタルもワタルのママだっているんだから。たぶん、パパだってわたしにはつめたいけど、きっとわたしが困ってたらちゃんと相談に乗ってくれるんだ。
わたしは何も話さなかった。
家に帰ると夜子がお菓子を作って待っていてくれました。

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く