ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。
「独白③ わたしの場合。そして、」
あのね、わたし、どうしてもおにーちゃんに確認しなきゃいけないことがあるの。
わたし、今からおにーちゃんに、すごく大切なことを訊くから。
でも、その返事は、わたしが全部話し終わってから訊かせて。
おにーちゃんは、わたしのことをずっと好きでいてくれて、わたしもおにーちゃんのことがずっと好きで、だからわたしのことを諦めるために、わたしに諦めさせるために、いろんな女の人と付き合ってきた。
それは、本当のことだと思う。
でも、ひとりだけ、本気で好きになった人がいるよね。
結婚を考えたくらいに。
人生を変えるくらいに。
おにーちゃんは一度、新人賞をとって、作家としてプロの世界に立って、でもうまくいかなくて……
おにーちゃんにとっては、それが人生の半分近くを捧げてきたすべてだったから、それ以外に夢や希望を持ってきたことがなかったから……
もう一生、自分はフリーターでいいやって、人生をあきらめてたよね。
でも、その人と幸せになるためにはフリーターじゃだめだからって、ちゃんと正社員にならなきゃいけないからって、最短で正社員になるために三年前にこの家を出たくらいに、本気で好きになった人がいるよね。
今でもわたしよりその人のことが好きだよね。
わたしは、その人の代わりなんだよね。
おにーちゃんは、また同じことを繰り返してるんじゃないのかな。
わたしのことを諦めるために、わたし以外の女の人たちを、わたしの代わりにしようとしてたみたいに。
今度は、その人を諦めるためにわたしをその人のかわりにしようとしてるんじゃないのかな。
わたし、おにーちゃんのアマゾンのアカウントを使わせてもらってるけど、一昨日頼んだハロウィン用のコスプレ衣装がいつ届くのかなって、今日届くはずだけど、ちゃんと発送されてるかなって、注文履歴から配送状況をゆうべ確認したの。
眠れなかったから。
そのときにね、11月15日が発売日の、おにーちゃんを好きだった頃のあの人が喜びそうな、何万円もするものが、予約注文されてるのを見ちゃったんだ。
宛先はもちろんあの人の住所で、ギフトラッピングはあの人が好きな緑で、メッセージカードまでつけてたよね。
11月15日は、あの人の誕生日だったよね。
おにーちゃんの誕生日のちょうど3ヶ月後だし、覚えやすかったから、わたし覚えてたんだ。
おにーちゃん、去年も一昨年も、あの人がおにーちゃんのそばからいなくなってからも、毎年あの人の誕生日にプレゼントを送ってるよね?
おにーちゃんは、この家に帰ってきたばっかりの頃、夜中にその人の名前を何度も呼んだりして、ごめんなさいごめんなさいって謝りながら泣いたりしてた。
だからわたしは、その人の代わりでもいいから、わたしを選んでくれたら、わたしがその人のことを諦めさせてあげるのに、ってずっと思ってた。
諦めさせてあげるのに、じゃないや。
忘れさせてあげるのに、だった。
だから、おにーちゃんが、わたしを選んでくれたとき、絶対に忘れさせてあげようって思った。
だから、おにーちゃんが、結婚しようって言ってくれたときに、やっと忘れてくれたんだって思った。
でも、忘れるどころか、諦めることすらまだできてないよね。
おにーちゃんは、おにーちゃんの全部をわたしにくれるって言ってくれた。
わたしの全部もおにーちゃんはもらってくれた。
でも、おにーちゃんは、全部わたしにくれたわけじゃなかったんだよね。
わたしはおにーちゃんとも、佳代ちゃんともずっといっしょにいたい。
佳代ちゃんがおにーちゃんのことどれだけ好きかわかったし、おにーちゃんが佳代ちゃんを抱いたとしても、最初はやきもちを妬くだろうけど、わたしはすぐに馴れていくと思うんだよね。
NTRってやつだよね。
わたし、へんたいだから。
おにーちゃんにいっぱい調教されてきたから。
だから、見てみたいくらい。
わたし、おにーちゃんが好きなえっちな動画みたいに、佳代ちゃんといっしょに、妹ふたりで3Pしたっていいと思えるし、たぶんほんとにできちゃうと思うんだよね。
でも、ごめんね。
それは、その人のことさえなかったら、の話。
わたしを選ぶ前までなら、おにーちゃんがその人にどんな贈り物をしてたとしても平気だった。
でも、おにーちゃんは、わたしと結婚したあとで、おにーちゃんの全部をわたしにくれるって言った後に、その人への贈り物を予約注文してた。
だから、わたしは……
わたしは……
わたしは、悲しくて、つらくて、まだたくさん言いたいことがあったのに、それ以上言葉にすることができませんでした。
涙があふれて、止まりませんでした。
やっと佳代ちゃんのことを受け入れられるようになったのに。
おにーちゃんの気持ちも佳代ちゃんの気持ちもわかったから、わたしさえふたりの気持ちを受け入れることができたら、3人でこれからずっとこの家でしあわせに暮らすことができるところまできていたのに。
どうしておにーちゃんはこの期に及んで嘘をつくんだろう。
隠し事も嘘もなしって言ったのは、おにーちゃんなのに。
わたしが、注文履歴なんて見なければよかったの?
でも、たとえゆうべ見なかったとしても、いつかは必ず見た。
ただ、一番最悪のタイミングで見てしまっただけ。
わたしは、もうどうしたらいいか、わかりませんでした。
佳代ちゃんがわたしを抱き寄せてくれました。
佳代ちゃんは何も言わずに、泣いているわたしを抱きしめてくれました。
「ぼくは、自分が思ってた以上にクズだな……
最低どころじゃない。最底辺の人間だ……」
おにーちゃんは、自嘲気味に言いました。
「お兄ちゃんは、まだその人と連絡をとったりしてるの?」
わたしが聞きたかったことを、佳代ちゃんが聞いてくれました。
「いまはしてないよ。
ついこの間までしてた。
でも、いつでもできる。
だから、しないようにしてるっていうのが正解かな。
ぼくが、あの子がぼくから離れていってしまっても、それから2年も仕事を続けたのは、いつかあの子が帰ってきてくれると思ってたからなんだ。
だから、どんな屈辱にも耐えてきた。
7月にね、ぼくを正社員から店長に、って話が出てきたんだ。
だから、ぼくは、すぐにその子に連絡をした。
二度と同じ過ちは繰り返さないから、戻ってきてほしい、やりなおしてほしいって。
無理だって言われた。
ぼくは、自分のしてきたことはすべて無駄だったってことに気づいた。
ぼくはただその子としあわせな家庭を作りたかっただけなのに、正社員という肩書きしか手に入れることができなかった。
その肩書きや、それによって得られる安定した収入は、すべてその子としあわせになるために必要なものでしかなくて、その子が帰ってこないなら、いらないと思った。
目の前に、店長という役職をぶらさげられても、もうそれを手に入れたいとも思えなかった。
もう、とっくに心も体も限界を越えてたから、仕事をやめるいいきっかけになったよ。
そうしたら、何もかもなくなった。
あのまま働き続けていても地獄だったけど、何もかも捨てたら待っていたのはもっとひどい地獄だった」
その言葉は、わたしの心に深く深く突き刺さりました。
わたしも、おにーちゃんといっしょで、無駄なことをしてきたのだとわかってしまったから。
「もっとひどい地獄? お兄ちゃんには、みかながいたでしょ?
みかながどれだけ、お兄ちゃんのことが好きで、どれだけお兄ちゃんに尽くしてきたか、ちゃんとわかってる?
お兄ちゃんは、みかなのこと何だと思ってるの?」
佳代ちゃんは怒っていました。
「わからない」
「わからないって何?」
「本当にわからないんだ。
あ、でも、ひとつだけわかるよ。
探偵や刑事に追い詰められた犯人の気持ちが、たぶんこんな感じなんだろうな。
あぁ、それから、もうひとつ。
嘘で塗り固めてきた人生は、嘘を暴かれたら終わりだね。
ぼくは、やっぱり生きていちゃいけない。
生まれてきたのが間違いだったんだよ。
死刑になりたいからって無差別殺人事件を起こしてたような奴らの気持ちもなんとなくだけどわかるよ。
死にたくても自分じゃ死ねないから、無関係な人間を道連れにしてでも、死刑になりたかったんだろうな。
みかな、佳代ちゃん、ごめんね。
ここまできちゃったら、もうぼくたちは幸せにはなれないよ」
          
わたし、今からおにーちゃんに、すごく大切なことを訊くから。
でも、その返事は、わたしが全部話し終わってから訊かせて。
おにーちゃんは、わたしのことをずっと好きでいてくれて、わたしもおにーちゃんのことがずっと好きで、だからわたしのことを諦めるために、わたしに諦めさせるために、いろんな女の人と付き合ってきた。
それは、本当のことだと思う。
でも、ひとりだけ、本気で好きになった人がいるよね。
結婚を考えたくらいに。
人生を変えるくらいに。
おにーちゃんは一度、新人賞をとって、作家としてプロの世界に立って、でもうまくいかなくて……
おにーちゃんにとっては、それが人生の半分近くを捧げてきたすべてだったから、それ以外に夢や希望を持ってきたことがなかったから……
もう一生、自分はフリーターでいいやって、人生をあきらめてたよね。
でも、その人と幸せになるためにはフリーターじゃだめだからって、ちゃんと正社員にならなきゃいけないからって、最短で正社員になるために三年前にこの家を出たくらいに、本気で好きになった人がいるよね。
今でもわたしよりその人のことが好きだよね。
わたしは、その人の代わりなんだよね。
おにーちゃんは、また同じことを繰り返してるんじゃないのかな。
わたしのことを諦めるために、わたし以外の女の人たちを、わたしの代わりにしようとしてたみたいに。
今度は、その人を諦めるためにわたしをその人のかわりにしようとしてるんじゃないのかな。
わたし、おにーちゃんのアマゾンのアカウントを使わせてもらってるけど、一昨日頼んだハロウィン用のコスプレ衣装がいつ届くのかなって、今日届くはずだけど、ちゃんと発送されてるかなって、注文履歴から配送状況をゆうべ確認したの。
眠れなかったから。
そのときにね、11月15日が発売日の、おにーちゃんを好きだった頃のあの人が喜びそうな、何万円もするものが、予約注文されてるのを見ちゃったんだ。
宛先はもちろんあの人の住所で、ギフトラッピングはあの人が好きな緑で、メッセージカードまでつけてたよね。
11月15日は、あの人の誕生日だったよね。
おにーちゃんの誕生日のちょうど3ヶ月後だし、覚えやすかったから、わたし覚えてたんだ。
おにーちゃん、去年も一昨年も、あの人がおにーちゃんのそばからいなくなってからも、毎年あの人の誕生日にプレゼントを送ってるよね?
おにーちゃんは、この家に帰ってきたばっかりの頃、夜中にその人の名前を何度も呼んだりして、ごめんなさいごめんなさいって謝りながら泣いたりしてた。
だからわたしは、その人の代わりでもいいから、わたしを選んでくれたら、わたしがその人のことを諦めさせてあげるのに、ってずっと思ってた。
諦めさせてあげるのに、じゃないや。
忘れさせてあげるのに、だった。
だから、おにーちゃんが、わたしを選んでくれたとき、絶対に忘れさせてあげようって思った。
だから、おにーちゃんが、結婚しようって言ってくれたときに、やっと忘れてくれたんだって思った。
でも、忘れるどころか、諦めることすらまだできてないよね。
おにーちゃんは、おにーちゃんの全部をわたしにくれるって言ってくれた。
わたしの全部もおにーちゃんはもらってくれた。
でも、おにーちゃんは、全部わたしにくれたわけじゃなかったんだよね。
わたしはおにーちゃんとも、佳代ちゃんともずっといっしょにいたい。
佳代ちゃんがおにーちゃんのことどれだけ好きかわかったし、おにーちゃんが佳代ちゃんを抱いたとしても、最初はやきもちを妬くだろうけど、わたしはすぐに馴れていくと思うんだよね。
NTRってやつだよね。
わたし、へんたいだから。
おにーちゃんにいっぱい調教されてきたから。
だから、見てみたいくらい。
わたし、おにーちゃんが好きなえっちな動画みたいに、佳代ちゃんといっしょに、妹ふたりで3Pしたっていいと思えるし、たぶんほんとにできちゃうと思うんだよね。
でも、ごめんね。
それは、その人のことさえなかったら、の話。
わたしを選ぶ前までなら、おにーちゃんがその人にどんな贈り物をしてたとしても平気だった。
でも、おにーちゃんは、わたしと結婚したあとで、おにーちゃんの全部をわたしにくれるって言った後に、その人への贈り物を予約注文してた。
だから、わたしは……
わたしは……
わたしは、悲しくて、つらくて、まだたくさん言いたいことがあったのに、それ以上言葉にすることができませんでした。
涙があふれて、止まりませんでした。
やっと佳代ちゃんのことを受け入れられるようになったのに。
おにーちゃんの気持ちも佳代ちゃんの気持ちもわかったから、わたしさえふたりの気持ちを受け入れることができたら、3人でこれからずっとこの家でしあわせに暮らすことができるところまできていたのに。
どうしておにーちゃんはこの期に及んで嘘をつくんだろう。
隠し事も嘘もなしって言ったのは、おにーちゃんなのに。
わたしが、注文履歴なんて見なければよかったの?
でも、たとえゆうべ見なかったとしても、いつかは必ず見た。
ただ、一番最悪のタイミングで見てしまっただけ。
わたしは、もうどうしたらいいか、わかりませんでした。
佳代ちゃんがわたしを抱き寄せてくれました。
佳代ちゃんは何も言わずに、泣いているわたしを抱きしめてくれました。
「ぼくは、自分が思ってた以上にクズだな……
最低どころじゃない。最底辺の人間だ……」
おにーちゃんは、自嘲気味に言いました。
「お兄ちゃんは、まだその人と連絡をとったりしてるの?」
わたしが聞きたかったことを、佳代ちゃんが聞いてくれました。
「いまはしてないよ。
ついこの間までしてた。
でも、いつでもできる。
だから、しないようにしてるっていうのが正解かな。
ぼくが、あの子がぼくから離れていってしまっても、それから2年も仕事を続けたのは、いつかあの子が帰ってきてくれると思ってたからなんだ。
だから、どんな屈辱にも耐えてきた。
7月にね、ぼくを正社員から店長に、って話が出てきたんだ。
だから、ぼくは、すぐにその子に連絡をした。
二度と同じ過ちは繰り返さないから、戻ってきてほしい、やりなおしてほしいって。
無理だって言われた。
ぼくは、自分のしてきたことはすべて無駄だったってことに気づいた。
ぼくはただその子としあわせな家庭を作りたかっただけなのに、正社員という肩書きしか手に入れることができなかった。
その肩書きや、それによって得られる安定した収入は、すべてその子としあわせになるために必要なものでしかなくて、その子が帰ってこないなら、いらないと思った。
目の前に、店長という役職をぶらさげられても、もうそれを手に入れたいとも思えなかった。
もう、とっくに心も体も限界を越えてたから、仕事をやめるいいきっかけになったよ。
そうしたら、何もかもなくなった。
あのまま働き続けていても地獄だったけど、何もかも捨てたら待っていたのはもっとひどい地獄だった」
その言葉は、わたしの心に深く深く突き刺さりました。
わたしも、おにーちゃんといっしょで、無駄なことをしてきたのだとわかってしまったから。
「もっとひどい地獄? お兄ちゃんには、みかながいたでしょ?
みかながどれだけ、お兄ちゃんのことが好きで、どれだけお兄ちゃんに尽くしてきたか、ちゃんとわかってる?
お兄ちゃんは、みかなのこと何だと思ってるの?」
佳代ちゃんは怒っていました。
「わからない」
「わからないって何?」
「本当にわからないんだ。
あ、でも、ひとつだけわかるよ。
探偵や刑事に追い詰められた犯人の気持ちが、たぶんこんな感じなんだろうな。
あぁ、それから、もうひとつ。
嘘で塗り固めてきた人生は、嘘を暴かれたら終わりだね。
ぼくは、やっぱり生きていちゃいけない。
生まれてきたのが間違いだったんだよ。
死刑になりたいからって無差別殺人事件を起こしてたような奴らの気持ちもなんとなくだけどわかるよ。
死にたくても自分じゃ死ねないから、無関係な人間を道連れにしてでも、死刑になりたかったんだろうな。
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