ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。

雨野美哉(あめの みかな)

「独白② 佳代ちゃんの場合。」

わたし、ひろゆきお兄ちゃんが最低だとか思わないよ。
わたし、お兄ちゃんの気持ちわかるから。
みかなはどう思ったかわからないけど、たぶんみんな口にしないだけで、その気持ちわかるんじゃないかな。

人ってさ、付き合ったり結婚してたりしても、浮気したり不倫したりするよね。
もちろんしない人もいるけど。

浮気とか不倫の定義は人それぞれだし、よくわかんないから、とりあえずエッチするとか、キスをするとか、そういう肉体的? なことにしといて。

でも、そういう肉体的な関係を持たない、つまり浮気とか不倫をしない人も、異性から好意をもたれたりとか、ちやほやされたいって気持ちがどこかにあって、ネットやアプリとかで疑似恋愛みたいなことをしてたりするよね。

前にみかなから聞いたんだけど、夏に帰ってきたばかりのおにーちゃんって、たしか、そんな風にバーチャル恋愛っていうの? 疑似恋愛を楽しんでる人たちばっかりのLINEグループに入ってたんじゃなかった?

自分はパートナーがいて幸せなくせに、まぁ、いるから幸せとは限らないかもだけど、パートナーのいない相手を自分にいつまでもつなぎとめて、自分の物のように扱ってる人、結構いると思うんだ。

もちろん、そんなこと一切ないって人もいるんだろうけど。

たぶん人は、誰かひとりの愛じゃ満たされないんだよ。
ひとりでも多くの人に愛されたいんだよ。必要とされたいんだよ。

だからね、わたし、お兄ちゃんがわたしを女としてようやく見てくれるようになって、抱きたいと思ってくれたこと、すごくうれしい。

みかなさえ許してくれるなら、わたしは今すぐお兄ちゃんに抱かれたいくらい。


わたしもお兄ちゃんほどはまだ恋愛経験ないんだけど、それなりに恋愛はしてきたからさ。

わたしもお兄ちゃんといっしょで、お兄ちゃんがみかなを諦めるためにしなくてもいい恋愛をしてきたように、お兄ちゃんを諦めるために恋愛をしてきた。

恋愛ごっこだったかもしれないけど、でもつらい想いや悲しい想いをたくさんした。
ちゃんと恋愛してきたつもり。

だから、わかるんだ。


人はね、言い訳する生き物なんだよ。


売春を援助交際って言ったり、パパ活って言ったり、してることは同じでも、どんどん表現を甘くして、罪悪感をなくしていってるのとか、言い訳の一番の例だと思うし。


みかなは、いくらプレゼントでもお兄ちゃんに高い物を買ってもらったりするのは気が引けるって言ってたよね?

わたしも同じなんだけどさ、でも、わたしたちみたいな考え方、少数派なんだよ。

世間の女って、男の人にどこでもいいよって言っておきながら、デートでサイゼとかファミレスはありえないとか、お店選びから丸投げするくせに、おごってもらうくせに、お金がかかるお店を要求するんだよね。
プレゼントも高いものをもらって当たり前。
自分にはそれだけの価値があると勘違いしてて、自分にどれだけお金を出せる男なのかを見て、男を選んでる。

そういうのが恋愛だと勘違いしてて、わたしにはそれは売春と変わらないことをしてるように見えちゃうんだよね。

そういう女たちは、恋愛すら売春の言い訳にしてることに、気づいてもいないんだよ。


わたしね、ゆうべ、みかなに「もうこの家には来ない」とか「友達やめよう」って言っちゃったけど、やっぱりずっとこの家にいたい。
みかなとずっと仲良くしてたい。
お兄ちゃんのそばにいたい。
昔からずっとそうだったみたいに。

だって、やっぱりわたし、みかなのこともお兄ちゃんのことも大好きなんだもん。


ゆうべね、わたし、ひろゆきお兄ちゃんの寝顔を最後に少しだけ見たら、本当に帰るつもりだったんだ。

この家にはもう二度と来ない。
みかなと友達でいることや、お兄ちゃんを好きなこと、全部諦める。
そういう覚悟を決めて、お兄ちゃんの寝顔を見に行った。

みかなをまた悲しませるのがいやだった。泣かせたりするのがいやだった。

お兄ちゃんを困らせるのもいや。

わたしの大好きなふたりには、いつも笑顔でいてほしい。

わたしのせいで、ふたりが悲しい気持ちになったり、泣いたり、困ったり、気まずくなったりして、笑顔でいられなくなるなら、わたしもふたりのお母さんといっしょだからね。
いなくならなきゃいけないと思った。


だけど、お兄ちゃんの寝顔を見ていたら、覚悟してたはずのものが簡単に崩れちゃった。

これで最後なんだって思ったら、ただ見ているだけじゃなくて、触ったり、においをかいだり、わたしの五感全部で、お兄ちゃんのことを感じたいと思った。

触ったのは顔だけ。においをかいだりしたのも顔だけ。

お兄ちゃんって昔からそうだけど、一度寝ちゃったら何しても起きないんだね(笑)

寝息もちゃんと聞きたくて、寝てるお兄ちゃんのそばに行った。
そしたら、寝息だけじゃなくて、心臓が動いてる音が聞きたくなって、胸に耳を当てた。
心臓の音の良し悪しなんて医者じゃないからわかんないけど、お兄ちゃんは、心臓の音まで優しかった。

あ、ちょっとだけ舌で舐めたりもしちゃったけど、それは顔だけだからね。

ごめん。嘘。

お兄ちゃんの服をちょっとだけ脱がせて、舐めれるところ舐めたいところ全部舐めちゃった。

耳とか、首筋とか、胸とか、指とか、それからおちんちんも舐めちゃった。

ごめんね。


そこまでしても、わたし、お兄ちゃんのそばから離れられなかった。

このかわいい寝顔をもう二度と見れないだけじゃなくて、わたしに優しく笑いかけてくれたり、楽しい話をしてくれたり、そういうのがもうなくなっちゃうんだと思ったら怖くなった。

怖くてしかたなくて、いっぱい泣いちゃって、さすがのお兄ちゃんも起きちゃった。

お兄ちゃん、わたしの話をちゃんと聞いてくれて、頭を撫でてくれたり、抱きしめてくれたりして、わたしをなぐさめてくれて、わたしはそれがすごくしあわせだった。
お兄ちゃんに抱きしめられたのは、こどもの頃以来だったし。

本当にお兄ちゃんのことが好きなんだってわかった。諦められるわけがないって思った。


だから、わたしは……

わたしはこれからもずっとふたりといっしょにいたい。

みかなからお兄ちゃんを取ったりはしない。

でも、お兄ちゃんに抱かれたい。愛されたい。

みかなとももちろんこれからも仲良くしたい。してほしい。

だから、みかなもわたしもふたりともお兄ちゃんを愛して、お兄ちゃんにはみかなもわたしも愛してほしい。


これが、わたしの本音だよ。





          

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