ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。

雨野美哉(あめの みかな)

「これは、おにーちゃんと佳代ちゃんとわたしの物語。⑦」

それから、佳代ちゃんは一言も話してはくれませんでした。

だから、わたしと佳代ちゃんは、黙々とリビングの飾りつけをただただするだけで、

「こんなはずじゃなかったのにな……」

もうすぐ飾りつけが終わるという頃に、佳代ちゃんは独り言のように言いました。

「ふたりの風邪が治ったら、3人で楽しく飾りつけができると思ってた。
楽しみにしてたのに……」

わたしは、佳代ちゃんの言葉になんて返したらいいのかわからなくて……

佳代ちゃんは声を出さずに泣いていました。

佳代ちゃんに、今こんなにもつらい思いをさせてしまっているのは、わたしがずっと自分勝手だったから。

佳代ちゃんのことを、佳代ちゃんの気持ちを、ちゃんと考えたことが今日まで一度もなかったから。

おにーちゃんのことですら、わたしは考えてるふりをしてただけ。
結局は全部自分のためでした。

そんなわたしには、佳代ちゃんに何か言葉をかける資格もなければ、かける言葉すら思いつかなくて、泣いている彼女をただ見つめることしかできませんでした。

わたしは、おにーちゃんに愛されたり、選んでもらう資格なんてなかったのです。


だから、わたしは3人でしあわせになる方法をずっと考えていたけれど、思いつくのはおにーちゃんが佳代ちゃんと結婚すればいいだとか、わたしはただの妹にもどればいいとか、わたしがいなくなればとか、死んでしまえばとか、生まれてこなければとか、そんなことばかりで……

誰ものぞんでないだけじゃなくて、誰もしあわせになれない、3人が全員大切なものをただ失うだけのものばかりでした。


「お兄ちゃんは?」

佳代ちゃんのその問いにだけは、

「二階でまだ寝てると思う」

わたしは答えることができました。


「最後に寝顔を見てきてもいい? 何もしないから。ただ見るだけ。
そしたら、わたし、もう帰るから」

佳代ちゃんは、本当にもう二度と、わたしやおにーちゃんに会うつもりがないようでした。

「信じられないなら、ついてきてくれていいからさ」

もう、わたしのことを友達だと思ってくれていないのも、わかりました。

でも、わたしはまだ……

まだ、佳代ちゃんを諦めたくありませんでした。


だけど、わたしが言えるのは、

「ついていったりなんてしないよ。佳代ちゃんのこと信じてるから」

そんな言葉しかありませんでした。

「そっか……ありがと」

部屋を出ていこうとする佳代ちゃんに、

「でも、まだ帰らないで。おにーちゃんを起こしてきて」

わたしはそう言いましたが、佳代ちゃんは返事をしてくれませんでした。

廊下を歩いていく、階段をのぼっていく足音や、古い家の床や階段の軋みだけが聞こえました。


佳代ちゃんは、それから一時間経っても、二時間経っても、戻ってきませんでした。

わたしは、自分の愚かさをただただ後悔するだけ。

きっと佳代ちゃんは、おにーちゃんの寝顔をただずっと見ているんだと思いました。

わたしが佳代ちゃんの立場だったら、きっとそうするから。

もう二度とおにーちゃんに会えないとわかったら、会わないと決めてしまったら、きっとわたしは、おにーちゃんの寝顔を忘れてしまわないように、しっかりと頭の中に焼き付けたいと思うから。

でも、最後だからこそ、抱いてほしいと思うかもしれない。

おにーちゃんは、たぶん拒まない。

だから、佳代ちゃんがおにーちゃんと何をしてたとしても、わたしはそれはもう仕方のないことだと思いました。

悪いのは全部、わたしだから。


やっぱり、わたしは、佳代ちゃんの不幸の上に成り立つしあわせなんていらない。

そう思いました。

佳代ちゃんがしあわせじゃないなら、佳代ちゃんがいなくなってしまうなら、いくらおにーちゃんに愛してもらったとしても、それはもうわたしにとってしあわせじゃないから。

だから、やっぱり、わたしは……


わたしはそんな風に、答えが見つからないまま、何度も同じことを考えてはふりだしに戻る、そんなことをずっと続けていました。

それから、さらに一時間が過ぎても、二時間が過ぎても、三時間が過ぎても……

朝になっても佳代ちゃんは戻ってはきませんでした。


わたしには、階段をのぼることができませんでした。

ただ、待っているだけ。

自分のことをずっと責め続けて。

待っていることしかできませんでした。




そして、この夜、わたしは、わたしのスマホで、見てはいけないものを見てしまったのでした。



          

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品