ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。
「これは、おにーちゃんと佳代ちゃんとわたしの物語」⑥
「みかな、わたしね、ひろゆきお兄ちゃんのことが大好きだった」
佳代ちゃんは、ずっとためこんでいたものを少しずつ、吐き出しはじめました。
「わたしはひとりっこだし、パパとママは共働きだし、みかなやお兄ちゃんがいてくれなかったら、きっと学校が終わったら家にひとりで、さびしくてさびしくてしかたがなかったと思う。
でも、わたしにはふたりがいてくれた。
だから、わたしは寂しくなかった。
みかなとお兄ちゃんにわたしは救われたの。
それなのに、わたし、ずっとみかなに嫉妬してた。
優しくてかっこよくて、それからすごくかわいい、あんなお兄ちゃんがいるみかなのことが、ずっとうらやましくてしかたがなかった。
お兄ちゃんは最初からずっと、みかなしか見てなくて、わたしのことなんて全然見てなかった。
わたしは諦めるきっかけがずっとほしかった。
三年前にようやくそのきっかけができて、わたしはいろんな男と付き合ったり、エッチしたりしてきたけど、お兄ちゃんよりいい人はひとりもいなかった。
だから、長続きしない恋愛ばっかり。
お兄ちゃんは、もうみかなのものなのに。
みかなも、やっとお兄ちゃんだけのものになれたのに。
大好きなふたりがしあわせになってくれて、こんなにうれしいこと、そうそうないはずなのに。
わたしは置いていかれたって思った。
わたしはたぶん一生、付き合う人付き合う人をお兄ちゃんと比べていく。
やっぱりお兄ちゃんの方がいい。
そんな風に、恋愛を終わらせていくんだと思う。
もしかしたら、長く付き合っていくうちに、お兄ちゃんのことを忘れさせてくれるような人かもしれないのにね。
だから、ごめんね。みかな。
わたし、これからもきっと、ずっとお兄ちゃんのことが好き。
好きでいつづけると思う。
また、みかなをさっきみたいに不安にさせちゃう。
無駄だってわかってても、お兄ちゃんにふりむいてほしくなる」
佳代ちゃんの言葉を、わたしはひとつひとつ噛みしめながら聞いていました。
わたしが勝手に一方的に佳代ちゃんに嫉妬してるだけだと思ってたのに。
佳代ちゃんもわたしに嫉妬してるなんて思いもよりませんでした。
「飾りつけが終わったら、わたし帰るね。
もう、この家には来ない。
それから、みかな、
わたしたち、もう友達やめよう」
わたしは、本当に悪い女の子でした。
嫌な女でした。
わたしはいつも自分のことばっかりで、大好きな佳代ちゃんをここまで追い詰めていたことを、幼い頃からずっと傷つけ続けてきたことに気づけなかった。
佳代ちゃんは、いつもわたしのことを大切にしてくれたのに。守ってくれていたのに。
わたしは佳代ちゃんはしあわせだからいいよねって、佳代ちゃんのことをちゃんと考えたことがなかった。
そんなのは、友達とは言えない。
だから、わたしは佳代ちゃんを失う。
いやだ。失いたくない。
だからわたしはこのときになってようやく、生まれてはじめて佳代ちゃんのことを、ちゃんと、真剣に考えました。
佳代ちゃんも、おにーちゃんも、それからわたしも、3人がみんなしあわせになれる方法を考えました。
そんな方法、わたしにはひとつしか思いつかなかった。
「ひとつだけ、佳代ちゃんがしあわせになれる方法があるよ。
3人で、ずっと、ここでいっしょに暮らせばいいんだよ」
だけど、佳代ちゃんは言いました。
「そんなの、わたしがみじめなだけじゃない」
「これからいっしょに考えよう?
3人でしあわせになるためにはどうしたらいいか」
佳代ちゃんのパパとママは、おにーちゃんとわたしのこと、佳代ちゃんのお兄さんとお姉さんみたいだって、こどもみたいに思ってるって言ってくれた。
家族だと思ってくれていいって。
困ったことがあったら、いつでも相談しにきてって。
「わたしたちは、佳代ちゃんとおにーちゃんとわたしは、小さい頃からずっと家族なんだよ。
佳代ちゃんのパパとママがそう言ってたの、佳代ちゃんも聞いてたよね?」
「聞いてたけど……でも、みかなはせっかくおにーちゃんといっしょになれたのに……」
人のしあわせは、誰かの不幸によってなりたってる。
「人」という字を、人と人が支え合ってると表現する人もいれば、片方がもう片方にもたれかかってるって表現する人もいる。
どちらの考え方も、間違いじゃないと思う。
「人」という字自体が二画だから、ふたりの人を表しているように見えるから。
でも、わたしは、しあわせになる人(たち)は支え合っているけれど、その陰で不幸になる人がいる、そういうことを表しているように思いました。
もたれかかられて、今にも押し潰されそうになってる。
今のわたしには、そういう風に思えました。
おにーちゃんとわたしがしあわせになることで不幸になる人が、わたしたちにとってどうでもいい人だったなら、わたしはそれでも別にいいと思う。
だけど、大切な人の、佳代ちゃんの、不幸の上に成り立つしあわせなら、そんなしあわせはわたしはいらない。
それなら、不幸になるのはわたしでいい。
おにーちゃんと佳代ちゃんにしあわせになってほしい。
でも、佳代ちゃんもきっと、わたしを不幸にしてまでしあわせになりたいなんて思わない。
だから、わたしたちは、3人がみんな、しあわせになれる方法をこれから考えるの。
          
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