ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。
「おにーちゃんと結婚したい!! ⑤」
その夜、わたしたちの婚姻届は、無事完成しました。
佳代ちゃんのパパとママに、サインと印鑑をもらうだけじゃなく、不備がないかどうかも確認してもらって、「問題ないよ」というお墨付きももらえました。
「ひろゆきくん、みかなちゃんのこと、ちゃんと大切にするんだよ」
「みかな! ベランダにわたしを素っ裸で一時間放置したこと、一生忘れないかんな!」
「暗いから、気をつけて帰ってね、ひろゆきくん、みかなちゃん」
佳代ちゃんのパパとママは、わざわざ玄関の外まで出てきてくれて、わたしたちを見送ってくれました。
なんかもうひとり、わたしに対して恨み言を言ってる変な子もいたけど。あの子誰だろ……
わたしたちは、何度もお礼を言って、帰路につきました。
わたしはクリアファイルに挟んだ婚姻届を、両手でだきしめて。
そのすぐ隣、車道側をおにーちゃんは歩いてくれていました。
だけど、おにーちゃんは、なんだかとても思い詰めた顔をしていました。
「あのっ!!」
振り返って、大きな声でそう言うと、おうちに入ろうとしていた佳代ちゃんのパパとママ(と、なんか知らない子)のところに戻っていってしまいました。
だから、わたしも、すぐにおにーちゃんをおいかけました。
「どうして、こんなに、親身になってくださるんですか?
あ、いえ、その、すごくうれしいんですけど、ぼくたち、たぶん、はたからみたら、すごくおかしいっていうか……」
「気持ち悪い? って、思わないのか?って?」
「……はい」
「そんなこと、思うわけないじゃない。
あなたたちふたりは、佳代のお兄さんとお姉さんみたいなものだもの。
ふたりがこーんなちっちゃなころから、わたしたちは知ってるし、大きくなってからも佳代からふたりのことはたくさん聞いてるし。
わたしたちにとって、あなたたちふたりも、わたしたちのこどもみたいなものなのよ。家族みたいに思ってるわ。
親が願うのは、こどものしあわせ。
あなたたちは、幸せになるための方法が、たまたま人と少し違っていただけでしょう?」
「でも、うちの母は、そんな風には思ってくれていません……
ぼくたちのことを理解するとか、しないとか、それ以前に話をちゃんと聞いてもらうことすらできなくて……」
「人は、みんな歩んできた人生が違うからね。
育った環境や、歩んできた人生によって、価値観や倫理観が違うから。
アレルギーみたいなものかな。
どうしても受け入れられないこともあるんだよ。
本当は大好きなのに、食べられないものがあったりするみたいに」
その言葉を聞いて、わたしには、真っ先に思い浮かんだことがありました。
それは、おかーさんがわたしを生んでくれた後から、体質が変わってしまったのか、大好きだったのに食べられなくなってしまったという、牡蠣のことでした。
「実は、ぼくたちもね、ひろゆきくんやみかなちゃんみたいに、一番理解してほしい人に理解してもらえなくて、すごく悩んだことがあるんだ」
「わたしたち、従兄弟なの。
だから、お互いに、親や親戚から、すごく反対されたりしたの。
いまだに悪く言う人もいるわ」
「一番大切なのは、ぼくたち自身の気持ちだということを、ぼくたちはそのとき学んだんだ。
まわりは、好き勝手言うだけで、あの頃のぼくたちや、今のきみたちを、引き裂こうとする。けれど、引き裂くことできても、しあわせにしてくれたりなんてことは、絶対にないんだよ。
できないくせに、ぼくたちのためだとか、きみたちのためだとか、大義名分を持ち出してきて、人の幸せをこわそうとしてくるんだよ。何も責任をとれないくせにね。
だからね、今、ひろゆきくんが、みかなちゃんが、ふたりがいっしょに考えなきゃいけないのは、まわりにどう思われるかじゃなくて、自分にとって一番大切な人は誰なのか、その人が、自分が、ふたりが幸せになるには、どうしたらいいのか、ただそれだけだよ」
「まわりの意見に惑わされて、判断を誤ることだけは絶対にしないでね。
これは、あなたたちのことを、自分たちのこどものように、佳代の素敵なお兄さんとかわいいお姉さんだって思ってる、あなたたちの、もうひとりの父親と母親としてのお願い。
ひろゆきくんと、みかなちゃんは、今、すごくしあわせなんでしょう?」
「はい、すごくしあわせです」
佳代ちゃんのパパとママの言葉に返事をしていたのはずっとおにーちゃんで、わたしはおにーちゃんの隣でずっと黙って聞いていただけだったけど、このときだけはわたしがすぐに返事をしていました。
「だったら、何も迷わなくていい。
ひろゆきくんにしか、みかなちゃんを、みかなちゃんにしか、ひろゆきくんを、しあわせにできないんだからね。
他の誰にも、ひろゆきくんのかわりも、みかなちゃんのかわりもできないんだから。
だから……そうだな……
これから先、どうしたらいいかわからなくなったりしたら、必ずぼくたちに相談しにきて」
「人の心ってね、すごくもろくて、壊れやすいの。
正しい判断ができる状態じゃないような心や精神状態になってしまうことがあるかもしれないけれど、そんな状態でふたりだけで何かを決めてしまうようなことだけは絶対にしないで」
「ぼくも、妻も、それから佳代も、きみたちの味方だから。だから、困ったときはいつでも頼って。こどもに頼られるのは、親はいつだってうれしいものなんだよ」
わたしたちは、深々と頭をさげて何度もお礼を言って、今度こそ家路につきました。
おにーちゃんは、わたしと手を繋いではくれたけど、何も話してくれなくて、なんだか何も話しかけちゃいけないような気がして……
佳代ちゃんの家は、うちから歩いて5分もかからないはずなのに、その5分がわたしにはとても長く感じました。
おにーちゃんは、もう迷わないって、昨日市役所で言ってくれたばかりだったけど、本当はまだすごく悩んでいたんだってことをわたしは知ってしまって、わたしひとりバカみたいに浮かれていたことが、すごく申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
たった5分の距離が、何時間にも思えました。
その間、わたしは、「佳代ちゃんは優しいパパとママがいてうらやましいな」とか、「おにーちゃんもわたしも、佳代ちゃんの家のこどもにうまれてこれたらよかったのにな」とか、そんな考えてもどうしようもないことばかり考えていました。
おにーちゃんは、何を考えているのかな……おかしなこと、考えたりしてないよね……?
「あのさ、みかな」
わたしたちのおうちに着くと、おにーちゃんは、ようやくわたしに話しかけてくれました。
「もうすぐ、みかなの誕生日だね」
今日は9月30日で、明日からはもう10月でした。
「うん。あと9日で、わたしの誕生日」
10月9日が、わたしの誕生日でした。
「ぼくはプレゼントを選ぶのが苦手だから、毎年、事前にみかなに何が欲しいか聞いてからプレゼントをあげてたけど……
今年はぼくがあげたいものをあげてもいい?」
「……うん」
「ぼくの人生、ぼくの全部を、みかなにもらってほしいんだ」
「……うん。もらう。
ほしい。おにーちゃんの全部がほしい」
もし、毎年のように、欲しいものを聞かれていたとしても、わたしが欲しいものは、おにーちゃんがわたしにくれようとしていたものと、まったく同じものでした。
「ねぇ、おにーちゃん」
「ん?」
「それ、今もらってもいい?」
「いいよ」
「わたしの人生とか、わたしの全部も、今あげていい?」
「うん。ぼくも今ほしいよ」
「おにーちゃん、わたしのは、いま、全部おにーちゃんにあげたよ」
「ぼくも、いま、全部、みかなにあげたところ」
「これで、わたし、おにーちゃんのお嫁さんになれた……んだよね?」
「うん。ぼくにはもったいないくらい、世界で一番かわいいお嫁さんだよ」
「わたしだって、おにーちゃんは、ほんとにわたしでいいのかなって不安になるくらい、世界一素敵で、世界一かっこよくて、それから、世界一かわいい旦那さんだよ?
でもね、わたしはおにーちゃんじゃなきゃいやなの」
「ぼくも、みかなじゃなきゃ、いやだ。
みかなだから、ぼくの全部をもらってほしいって思えたんだ」
「ねぇ、わたしは、これからも、おにーちゃんって呼んでいいのかな?」
「ん? 別にご主人様でもいいけど」
「そ、それは、メイドさんのときだけだから!!」
「言ってみただけ。やっぱり、おにーちゃんがいいな。呼ばれなれてるし」
「わたしも、おにーちゃんが一番呼びやすい」
わたしたちは、おうちの前で、だきしめあいました。
それから、たくさんたくさん、キスをしました。
「大好きだよ、みかな」
「わたしも、おにーちゃんのこと大好き」
「愛してる」
「わたしも……」
どれだけ言葉を紡いでも足りないくらい、
わたしはおにーちゃんのことを愛してます。
          
佳代ちゃんのパパとママに、サインと印鑑をもらうだけじゃなく、不備がないかどうかも確認してもらって、「問題ないよ」というお墨付きももらえました。
「ひろゆきくん、みかなちゃんのこと、ちゃんと大切にするんだよ」
「みかな! ベランダにわたしを素っ裸で一時間放置したこと、一生忘れないかんな!」
「暗いから、気をつけて帰ってね、ひろゆきくん、みかなちゃん」
佳代ちゃんのパパとママは、わざわざ玄関の外まで出てきてくれて、わたしたちを見送ってくれました。
なんかもうひとり、わたしに対して恨み言を言ってる変な子もいたけど。あの子誰だろ……
わたしたちは、何度もお礼を言って、帰路につきました。
わたしはクリアファイルに挟んだ婚姻届を、両手でだきしめて。
そのすぐ隣、車道側をおにーちゃんは歩いてくれていました。
だけど、おにーちゃんは、なんだかとても思い詰めた顔をしていました。
「あのっ!!」
振り返って、大きな声でそう言うと、おうちに入ろうとしていた佳代ちゃんのパパとママ(と、なんか知らない子)のところに戻っていってしまいました。
だから、わたしも、すぐにおにーちゃんをおいかけました。
「どうして、こんなに、親身になってくださるんですか?
あ、いえ、その、すごくうれしいんですけど、ぼくたち、たぶん、はたからみたら、すごくおかしいっていうか……」
「気持ち悪い? って、思わないのか?って?」
「……はい」
「そんなこと、思うわけないじゃない。
あなたたちふたりは、佳代のお兄さんとお姉さんみたいなものだもの。
ふたりがこーんなちっちゃなころから、わたしたちは知ってるし、大きくなってからも佳代からふたりのことはたくさん聞いてるし。
わたしたちにとって、あなたたちふたりも、わたしたちのこどもみたいなものなのよ。家族みたいに思ってるわ。
親が願うのは、こどものしあわせ。
あなたたちは、幸せになるための方法が、たまたま人と少し違っていただけでしょう?」
「でも、うちの母は、そんな風には思ってくれていません……
ぼくたちのことを理解するとか、しないとか、それ以前に話をちゃんと聞いてもらうことすらできなくて……」
「人は、みんな歩んできた人生が違うからね。
育った環境や、歩んできた人生によって、価値観や倫理観が違うから。
アレルギーみたいなものかな。
どうしても受け入れられないこともあるんだよ。
本当は大好きなのに、食べられないものがあったりするみたいに」
その言葉を聞いて、わたしには、真っ先に思い浮かんだことがありました。
それは、おかーさんがわたしを生んでくれた後から、体質が変わってしまったのか、大好きだったのに食べられなくなってしまったという、牡蠣のことでした。
「実は、ぼくたちもね、ひろゆきくんやみかなちゃんみたいに、一番理解してほしい人に理解してもらえなくて、すごく悩んだことがあるんだ」
「わたしたち、従兄弟なの。
だから、お互いに、親や親戚から、すごく反対されたりしたの。
いまだに悪く言う人もいるわ」
「一番大切なのは、ぼくたち自身の気持ちだということを、ぼくたちはそのとき学んだんだ。
まわりは、好き勝手言うだけで、あの頃のぼくたちや、今のきみたちを、引き裂こうとする。けれど、引き裂くことできても、しあわせにしてくれたりなんてことは、絶対にないんだよ。
できないくせに、ぼくたちのためだとか、きみたちのためだとか、大義名分を持ち出してきて、人の幸せをこわそうとしてくるんだよ。何も責任をとれないくせにね。
だからね、今、ひろゆきくんが、みかなちゃんが、ふたりがいっしょに考えなきゃいけないのは、まわりにどう思われるかじゃなくて、自分にとって一番大切な人は誰なのか、その人が、自分が、ふたりが幸せになるには、どうしたらいいのか、ただそれだけだよ」
「まわりの意見に惑わされて、判断を誤ることだけは絶対にしないでね。
これは、あなたたちのことを、自分たちのこどものように、佳代の素敵なお兄さんとかわいいお姉さんだって思ってる、あなたたちの、もうひとりの父親と母親としてのお願い。
ひろゆきくんと、みかなちゃんは、今、すごくしあわせなんでしょう?」
「はい、すごくしあわせです」
佳代ちゃんのパパとママの言葉に返事をしていたのはずっとおにーちゃんで、わたしはおにーちゃんの隣でずっと黙って聞いていただけだったけど、このときだけはわたしがすぐに返事をしていました。
「だったら、何も迷わなくていい。
ひろゆきくんにしか、みかなちゃんを、みかなちゃんにしか、ひろゆきくんを、しあわせにできないんだからね。
他の誰にも、ひろゆきくんのかわりも、みかなちゃんのかわりもできないんだから。
だから……そうだな……
これから先、どうしたらいいかわからなくなったりしたら、必ずぼくたちに相談しにきて」
「人の心ってね、すごくもろくて、壊れやすいの。
正しい判断ができる状態じゃないような心や精神状態になってしまうことがあるかもしれないけれど、そんな状態でふたりだけで何かを決めてしまうようなことだけは絶対にしないで」
「ぼくも、妻も、それから佳代も、きみたちの味方だから。だから、困ったときはいつでも頼って。こどもに頼られるのは、親はいつだってうれしいものなんだよ」
わたしたちは、深々と頭をさげて何度もお礼を言って、今度こそ家路につきました。
おにーちゃんは、わたしと手を繋いではくれたけど、何も話してくれなくて、なんだか何も話しかけちゃいけないような気がして……
佳代ちゃんの家は、うちから歩いて5分もかからないはずなのに、その5分がわたしにはとても長く感じました。
おにーちゃんは、もう迷わないって、昨日市役所で言ってくれたばかりだったけど、本当はまだすごく悩んでいたんだってことをわたしは知ってしまって、わたしひとりバカみたいに浮かれていたことが、すごく申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
たった5分の距離が、何時間にも思えました。
その間、わたしは、「佳代ちゃんは優しいパパとママがいてうらやましいな」とか、「おにーちゃんもわたしも、佳代ちゃんの家のこどもにうまれてこれたらよかったのにな」とか、そんな考えてもどうしようもないことばかり考えていました。
おにーちゃんは、何を考えているのかな……おかしなこと、考えたりしてないよね……?
「あのさ、みかな」
わたしたちのおうちに着くと、おにーちゃんは、ようやくわたしに話しかけてくれました。
「もうすぐ、みかなの誕生日だね」
今日は9月30日で、明日からはもう10月でした。
「うん。あと9日で、わたしの誕生日」
10月9日が、わたしの誕生日でした。
「ぼくはプレゼントを選ぶのが苦手だから、毎年、事前にみかなに何が欲しいか聞いてからプレゼントをあげてたけど……
今年はぼくがあげたいものをあげてもいい?」
「……うん」
「ぼくの人生、ぼくの全部を、みかなにもらってほしいんだ」
「……うん。もらう。
ほしい。おにーちゃんの全部がほしい」
もし、毎年のように、欲しいものを聞かれていたとしても、わたしが欲しいものは、おにーちゃんがわたしにくれようとしていたものと、まったく同じものでした。
「ねぇ、おにーちゃん」
「ん?」
「それ、今もらってもいい?」
「いいよ」
「わたしの人生とか、わたしの全部も、今あげていい?」
「うん。ぼくも今ほしいよ」
「おにーちゃん、わたしのは、いま、全部おにーちゃんにあげたよ」
「ぼくも、いま、全部、みかなにあげたところ」
「これで、わたし、おにーちゃんのお嫁さんになれた……んだよね?」
「うん。ぼくにはもったいないくらい、世界で一番かわいいお嫁さんだよ」
「わたしだって、おにーちゃんは、ほんとにわたしでいいのかなって不安になるくらい、世界一素敵で、世界一かっこよくて、それから、世界一かわいい旦那さんだよ?
でもね、わたしはおにーちゃんじゃなきゃいやなの」
「ぼくも、みかなじゃなきゃ、いやだ。
みかなだから、ぼくの全部をもらってほしいって思えたんだ」
「ねぇ、わたしは、これからも、おにーちゃんって呼んでいいのかな?」
「ん? 別にご主人様でもいいけど」
「そ、それは、メイドさんのときだけだから!!」
「言ってみただけ。やっぱり、おにーちゃんがいいな。呼ばれなれてるし」
「わたしも、おにーちゃんが一番呼びやすい」
わたしたちは、おうちの前で、だきしめあいました。
それから、たくさんたくさん、キスをしました。
「大好きだよ、みかな」
「わたしも、おにーちゃんのこと大好き」
「愛してる」
「わたしも……」
どれだけ言葉を紡いでも足りないくらい、
わたしはおにーちゃんのことを愛してます。
          
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