あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第2話(第117話)
山汐芽衣を連れて教室を飛び出したわたしは、廊下を走り階段を駆け登った。
校舎は木造の3階建てで、わたしたち2年は2階に教室をあてがわれていた。
階段は屋上まで続いているけれど、屋上への扉は鍵がかかっている。
鍵は職員室にあり、よほどのことがない限り鍵を生徒に貸し出すことはない。
けれど、3階から屋上へと続く階段の踊り場まで行ければ充分だった。
わたしが想像している通りに、もしふたりが横浜にいる頃からの知り合いなら、携帯電話の番号やメールアドレスを知っているはずだった。
だとすれば、すぐに落ち合うことができるだろう。
校舎の中に階段はふたつあったけれど、わたしたちの2年E組の教室から一番近い階段を、3階と屋上の間の踊り場まで登ってきてもらうだけでよかった。
芽衣だけではなく、みかなも転校生なのだ。
下手に美術室や音楽室などに逃げ込むよりは、はるかにわかりやすいだろうと思った。
「ごめんね。びっくりしたよね」
わたしはぜいぜいと荒い息をする芽衣に向かって言った。
あんまり体力がない子なんだな、と思った。
もしかしたら何か病気を患っていて、空気のきれいな田舎に引っ越してきたのかもしれないと思った。
走ったりしてはいけない身体なのかもしれなかった。
だとしたら、申し訳ないことをしてしまった。
呼吸が落ち着くまでは、もう少し時間がかかりそうだ。それまではまともに話ができないだろう。
「なんだか、見てられなくて。デリカシーのない奴ばっかりでごめんね」
と、わたしは言った。
「息が落ち着くまでは、無理して返事とかしなくていいからね」
と続けた。わたし、勝手に喋ってるから、と。
「さっきの、わたしのこと覚えてる? っていうのは、みんなの気を引くための口からのでまかせ。
覚えてなくて当たり前だから。わたしと山汐さんとは今日が『初対面』だからね」
きっとわたしは今、彼女が自己紹介をするのを見守っていた雨野みかなみたいな顔をしているのだろうなと思った。
彼女を見ていると不思議となんだか守ってあげたくなる。助けてあげたくなる。
わたしには弟も妹もいないし、甥や姪もいない。
ペットを飼ったこともなかったから、はじめて抱く感情だった。
それが、溢れてとまらなくなっていた。
これが母性本能や庇護欲(ひごよく)というものだろうか、とわたしは思った。
「わたしは、返璧 真依(たまがえし まより)。変な名前でしょ」
名前を名乗ってしまうと、あとは何を話せばいいのかわからなくなった。
「よろしくね」
という言葉しか、見つからなかった。
趣味や好きな芸能人とかの話をしたらいいのだろうか。趣味と呼べるものも、好きな芸能人もわたしにはいなかった。
高校2年になって、新しいクラスメイトたちに自己紹介をしたのは、まだほんの2ヶ月前だった。
そのとき、わたしはみんなに何て自己紹介したのだろう。
もう覚えてもいなかった。
ああ、そうだ。
クラスメイトにどう思われてもよかったから、名前と「よろしく」と言うだけの自己紹介しかしていなかった。
高校に入学したばかりのときもそうだった。
転校生は大変だなって思った。
あの雨野みかなっていう子はすごいな、と思った。
山汐芽衣の呼吸が整ったら、携帯電話で雨野みかなに居場所を伝えてもらおうと思っていたけれど、
「あ、いたいた」
みかながわたしたちを見つける方が早かった。
「みかなお姉ちゃん!」
芽衣はみかなの顔を見ると、その胸に飛び込んだ。
          
校舎は木造の3階建てで、わたしたち2年は2階に教室をあてがわれていた。
階段は屋上まで続いているけれど、屋上への扉は鍵がかかっている。
鍵は職員室にあり、よほどのことがない限り鍵を生徒に貸し出すことはない。
けれど、3階から屋上へと続く階段の踊り場まで行ければ充分だった。
わたしが想像している通りに、もしふたりが横浜にいる頃からの知り合いなら、携帯電話の番号やメールアドレスを知っているはずだった。
だとすれば、すぐに落ち合うことができるだろう。
校舎の中に階段はふたつあったけれど、わたしたちの2年E組の教室から一番近い階段を、3階と屋上の間の踊り場まで登ってきてもらうだけでよかった。
芽衣だけではなく、みかなも転校生なのだ。
下手に美術室や音楽室などに逃げ込むよりは、はるかにわかりやすいだろうと思った。
「ごめんね。びっくりしたよね」
わたしはぜいぜいと荒い息をする芽衣に向かって言った。
あんまり体力がない子なんだな、と思った。
もしかしたら何か病気を患っていて、空気のきれいな田舎に引っ越してきたのかもしれないと思った。
走ったりしてはいけない身体なのかもしれなかった。
だとしたら、申し訳ないことをしてしまった。
呼吸が落ち着くまでは、もう少し時間がかかりそうだ。それまではまともに話ができないだろう。
「なんだか、見てられなくて。デリカシーのない奴ばっかりでごめんね」
と、わたしは言った。
「息が落ち着くまでは、無理して返事とかしなくていいからね」
と続けた。わたし、勝手に喋ってるから、と。
「さっきの、わたしのこと覚えてる? っていうのは、みんなの気を引くための口からのでまかせ。
覚えてなくて当たり前だから。わたしと山汐さんとは今日が『初対面』だからね」
きっとわたしは今、彼女が自己紹介をするのを見守っていた雨野みかなみたいな顔をしているのだろうなと思った。
彼女を見ていると不思議となんだか守ってあげたくなる。助けてあげたくなる。
わたしには弟も妹もいないし、甥や姪もいない。
ペットを飼ったこともなかったから、はじめて抱く感情だった。
それが、溢れてとまらなくなっていた。
これが母性本能や庇護欲(ひごよく)というものだろうか、とわたしは思った。
「わたしは、返璧 真依(たまがえし まより)。変な名前でしょ」
名前を名乗ってしまうと、あとは何を話せばいいのかわからなくなった。
「よろしくね」
という言葉しか、見つからなかった。
趣味や好きな芸能人とかの話をしたらいいのだろうか。趣味と呼べるものも、好きな芸能人もわたしにはいなかった。
高校2年になって、新しいクラスメイトたちに自己紹介をしたのは、まだほんの2ヶ月前だった。
そのとき、わたしはみんなに何て自己紹介したのだろう。
もう覚えてもいなかった。
ああ、そうだ。
クラスメイトにどう思われてもよかったから、名前と「よろしく」と言うだけの自己紹介しかしていなかった。
高校に入学したばかりのときもそうだった。
転校生は大変だなって思った。
あの雨野みかなっていう子はすごいな、と思った。
山汐芽衣の呼吸が整ったら、携帯電話で雨野みかなに居場所を伝えてもらおうと思っていたけれど、
「あ、いたいた」
みかながわたしたちを見つける方が早かった。
「みかなお姉ちゃん!」
芽衣はみかなの顔を見ると、その胸に飛び込んだ。
          
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