あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。

雨野美哉(あめの みかな)

第30話(第112話)第四部「春霞」鬼の章之四

小島さちの居場所はすぐに特定できた。

横浜市内だった。

そこは、今はもう誰も住んでいない、壊滅した夏目組の本部であり、山汐凛が五歳までを過ごした実家、その地下だった。

廃墟と化したとまではいかないまでも、鬼頭組の襲撃の跡が残ったままだったせいか、たった半年で夏目メイが唖然とするほどには、変わり果てた姿になっていた。

地下には、メイも知らない巨大な施設があった。

まるで迷路のような、だまし絵のような作りの地下施設だった。

戸田刑事曰く、金児陽三の家の地下や、10年前にシノバズが壊滅させたテロ組織「天禍天詠」にも、全く同じ施設があったらしい。


「テレビ局や警察の建物は、テロ対策のためにわざとややこしい構造にしているんだけど、テロリスト側も警察対策にここまでするわけか」

「つまり、ここは……」

「大量破壊兵器の隠し場所として用意された場所だということかな。あまり奥まで行かない方がいいだろう。もしすでに、大量破壊兵器が運びこばれていたなら」

あたしたちは、被曝する可能性があるということだった。

シノバズは何かを計測する機械のようなものを持っていた。

「なにそれ?」

あたしが訊くと、

「ガイガーカウンター」

と、彼は答えた。

「だから何それ」

まるでロボットアニメの必殺技みたいだな、と思った。
アニメやゲームが大好きだったハルやナオのことを思い出して、あたしの胸はちくりと傷んだ。

「放射能を計測する機械だよ」

彼は不機嫌そうにそう言った。

あたしが彼の妹の顔や声で、妹なら知っているようなことを、知らないのが当たり前という顔や口調で訊いたのだ。きっと腹立たしいのだろうと思った。

兄妹で愛し合うなんてイカれてる、と思った。

「ガイガーカウンターくらい、持っておいた方がいいよ」

と、彼は言った。

「この国はいつどころで大地震が起きてもおかしくない。
最悪の場合、大地震が連鎖して、日本列島が分断する可能性だってある。
そんな島国に、原子力発電所がいくつも建設されて稼働してる。
日本列島の分断までいかなくても、もし原発に何か起きて放射能が漏れたら、 先の戦争のように大量破壊兵器を投下されなくても、被曝する可能性は大いにある。
でも、この国は原発を手放せない」

シノバズはそう言って、

「あ、今のところ放射能は大丈夫だから。先に進んで」

と、あたしたちを促した。


「なんで、原発を手放せないの?」

あたしはシノバズの話が少しだけ気になった。

「原子力を、国民の生活のためのエネルギーとして利用するのが原子力発電」

シノバズではなく、戸田刑事が答えた。

「そして、原子力をたとえ抑止力のためとはいえ、戦争兵器として利用したのが、大量破壊兵器。
つまり、原発さえ所持していたら、この国は大量破壊兵器をいつでも作ろうと思えば作れるんだよ」


なるほど。そういうからくりか、とわたしは思った。

          

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