あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。

雨野美哉(あめの みかな)

第23話(第105話)

翌日わたしはお昼過ぎに目を覚まして、おにーちゃんと芽衣といっしょに新しい携帯電話を買いに行った。

わたしのケータイは、おにーちゃんと紡が小久保晴美を閉じ込めるために使ってしまって、一条さん(仮名)に押収されてしまったからだった。

おにーちゃんが自分の携帯電話を使わなかったのは、紡や芽衣、夏目メイをはじめとする100人以上の人格を一度におにーちゃんの脳に移すための、特別なデータ圧縮プログラムが入っていたからだった。
そこにはもう小久保晴美を閉じ込めるだけの容量は残っていなかった。


本当はケータイを紛失したことにでもして機種変更だけをして、前と同じ番号とメールアドレスが使いたかった。

けれど、小久保晴美というテロリストの人格が、最初に人格管理システムを作っていた以上、前に夏目メイが加藤学に憑依したような、おにーちゃんや紡がまだ知らない、何らかの方法でわたしに憑依してくる可能性があった。

だから、小久保晴美を閉じ込めた携帯電話は、一条さんの許可をとった上で解約することにした。

一条さんや公安、あるいは警察、あるいはこの国が、戦後唯一非核三原則を破り核兵器をこの国に持ち込んだ小久保晴美をどうするのかは、おにーちゃんにもわからなかった。
わかるのは、公安もパソコンに彼女の人格を移し、解析するだろうということくらいだった。

解析などを行うときは、インターネットをはじめとするあらゆる通信回線から遮断して行うように、おにーちゃんは一条さんに話していた。

貞子でもない限り、それで彼女を完全に閉じ込めることができると。

けれど、データ自体はUSBメモリやDVDといった記録媒体で簡単に持ち出せてしまうから、さらに記録媒体にコピーすることが不可能なようにプロテクトをかけるようにも伝えていた。


わたしは、iPhoneやスマートフォンにも興味があったけれど、使いなれたケータイの最新機種を買ってもらった。

小久保晴美のような存在が現れるのは想定外ではあったけれど、彼女が現れる以前におにーちゃんがわたしのケータイのアドレス帳のバックアップを取っていてくれたおかげで、佳代や羽衣とはすぐに連絡をとることができた。



次の日の朝早く、わたしは一度家に戻って、制服や教科書などを取りに行き、そのまま学校へ行った。

わたしが学校に行っている間に、おにーちゃんは芽衣を連れて、彼女が気に入ったマンションを借りる契約をしに行った。

そこは横浜市内で最も高い高層マンションで、空き部屋があり、すぐにでも入居が可能だということだった。

さすがに今回ばかりは、わたしはお金の心配をして、大丈夫なのかどうか聞いた。無理しないで、かっこつけなくていいよ、とおにーちゃんに言った。おにーちゃんは普通にしてるだけで十分かっこいいよ、と言った。

けれど、おにーちゃんからはじめて聞いた年収や貯金額は、わたしが想像していたものとは桁が3つも4つも違っていたから、何も心配はいらなかった。
どうやらおにーちゃんは、過去に開発したソフトで特許をいくつか取っているようだった。


わたしは学校が終わると、おにーちゃんからメールで送られてきた、そのマンションのある住所に向かった。

市内で一番高い高層マンション、と聞いてもあまりぴんと来なかったけれど、近づくにつれて、だんだん現実味が増してきた。

マンションの入り口付近から真上を見上げると、どこが最上階なのかわからないほど高かった。
空に向かって、どこまでも伸びているように見えた。

まるで、枯渇しつつあるエネルギー資源を太陽光に求めたり、宇宙空間に人が住める居住区を作ったり、火星や月のテラフォーミングのため、近い将来建造が計画されているという軌道エレベーターのように、宇宙まで続いているのではないかと思えるほどだった。

久東羽衣に見せてあげたいと思った。

わたしが最高のアングルで写メを撮ろうとしていると、

「何してるの?」

マンションから出てきた女の子に声をかけられた。

その女の子は車椅子に乗っていた。


          

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