あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第17話(第99話)
凛は、そうだね、と言った。
とてもさびしそうで、かなしそうに。
「だけど、わたしはもう生きていくのがつらい。
みんなといっしょにいたい。
そっちに行きたい」
凛は泣きながら、懇願するように言った。
「だめだよ。凛はまだ生きてるじゃないか」
「お姉ちゃんは芽衣と違って、ちゃんと産まれてくることができたんだよ」
紡や芽衣の言葉に、
「好きで産まれてきたわけじゃない!
誰にも頼んでなんかいない!!
この身体はわたしのものかもしれないけど、お兄ちゃんや芽衣や、美嘉や、誰が使ったっていいじゃない!?」
凛は叫んだ。
そして、
「わたしは産まれてきたことが間違いだったの!!!」
凛は、言ってはいけないことを言ってしまった。
それは、紡や芽衣や美嘉、そしてメイ、他の104人の人格の存在や、彼らが凛のためにしてきたことのすべてを否定する言葉だった。
そして同時に、おにーちゃんを縛り付ける呪詛(じゅそ)の言葉だった。
わたしは思わず、彼女の顔に平手打ちをしようとしてしまった。
けれど、おにーちゃんがその腕を止めてくれた。
でも、おにーちゃんは、もう片方の腕でナイフを彼女の喉に向けていた。
「産まれてきたのが間違いだと思うなら、いますぐぼくと死んでくれないか?」
おにーちゃんは言った。
「ぼくは10年前に、実の親に、産んだのが間違いだったと言われた。
それ以来、ずっとその言葉が頭や耳からこびりついて離れない。
凛ちゃん、ぼくはね、ハッカーなんだ。
やろうと思えば、国や世界を滅ぼすこともたぶん簡単にできる。
ぼくの知り合いから、夏目メイが前に冗談で口にした言葉を聞いたことがあるんだけど、『世界中の人間を夏目メイにする』ことや、『世界中の要人を夏目メイに完全に服従ようにする』ことも、ぼくならたぶんできちゃうんだよ。
でも、ぼくは、産まれてきたことが、産んでもらったことが間違いじゃないんだってことを、証明したかった。
だから警察だけじゃ解決できないような事件に捜査協力をしたり、政府に協力して拉致被害者を探したり、イスラム過激派に拉致された命知らずな馬鹿を助ける手伝いまでもしてきた。
君が心穏やかに過ごせるように、君のお兄さんや妹や友達が、誰ひとりとして死ぬことも消えることもないように、この仮想世界を作ったりもした。
ぼくにしかできないことがあったから、なんとかして、今生きていることや産まれてきたことが間違いじゃないと証明しようとしてきた。
でも、10年たっても、わからないんだよ。
君と同じだ。もう疲れた。
まだやらなきゃいけないことが残ってるけどもういい。死にたい」
おにーちゃんは言った。
すぐそばにわたしがいるのに。
おにーちゃんが産まれてきてくれたことや、今生きてくれていることを感謝してるわたしの目の前で。
「ぼくに殺されるか、ぼくを殺したあとで自分で死ぬかどっちがいい?」
凛は、どちらも選べなかった。
「死にたくても死ねないってつらいよね。
でもね、自殺をしてしまう人は、ぼくたちよりももっと追い込まれて、死ぬことしか考えられなくなるんだ。
凛ちゃんもぼくも、幸いなことにまだそこまで追い込まれてはいない。
死にたい、消えたいと思いながらも、生きていたいと思ってる。だから死ねない」
凛はおにーちゃんの言葉に、ただ泣き崩れるだけだった。
わたしはおにーちゃんの手からナイフを奪った。
それは本物だと見間違うほどうまく塗装されていたけれど、刺すと見せかけて刃先が柄に引っ込むおもちゃのナイフだった。
凛の覚悟を試したのだ。
「凛、その世界には、ぼくの命を奪ったあの祖父はもういない」
「お母さんも」
「あんたに一度も会いにこなかった父親も」
紡や芽衣やメイが言った。
「麻衣にひどいことした。許してはもらえない」
「それはわたしがしたことじゃん」
メイが言う。
「わたしもいっしょになってした。
麻衣を傷つけたのは、メイとわたし。
凛じゃない」
そして、ふたりは、
「今、凛の目の前にいるふたりなら、きっと凛の友達になってくれるよ」
と、声を揃えて言った。
とてもさびしそうで、かなしそうに。
「だけど、わたしはもう生きていくのがつらい。
みんなといっしょにいたい。
そっちに行きたい」
凛は泣きながら、懇願するように言った。
「だめだよ。凛はまだ生きてるじゃないか」
「お姉ちゃんは芽衣と違って、ちゃんと産まれてくることができたんだよ」
紡や芽衣の言葉に、
「好きで産まれてきたわけじゃない!
誰にも頼んでなんかいない!!
この身体はわたしのものかもしれないけど、お兄ちゃんや芽衣や、美嘉や、誰が使ったっていいじゃない!?」
凛は叫んだ。
そして、
「わたしは産まれてきたことが間違いだったの!!!」
凛は、言ってはいけないことを言ってしまった。
それは、紡や芽衣や美嘉、そしてメイ、他の104人の人格の存在や、彼らが凛のためにしてきたことのすべてを否定する言葉だった。
そして同時に、おにーちゃんを縛り付ける呪詛(じゅそ)の言葉だった。
わたしは思わず、彼女の顔に平手打ちをしようとしてしまった。
けれど、おにーちゃんがその腕を止めてくれた。
でも、おにーちゃんは、もう片方の腕でナイフを彼女の喉に向けていた。
「産まれてきたのが間違いだと思うなら、いますぐぼくと死んでくれないか?」
おにーちゃんは言った。
「ぼくは10年前に、実の親に、産んだのが間違いだったと言われた。
それ以来、ずっとその言葉が頭や耳からこびりついて離れない。
凛ちゃん、ぼくはね、ハッカーなんだ。
やろうと思えば、国や世界を滅ぼすこともたぶん簡単にできる。
ぼくの知り合いから、夏目メイが前に冗談で口にした言葉を聞いたことがあるんだけど、『世界中の人間を夏目メイにする』ことや、『世界中の要人を夏目メイに完全に服従ようにする』ことも、ぼくならたぶんできちゃうんだよ。
でも、ぼくは、産まれてきたことが、産んでもらったことが間違いじゃないんだってことを、証明したかった。
だから警察だけじゃ解決できないような事件に捜査協力をしたり、政府に協力して拉致被害者を探したり、イスラム過激派に拉致された命知らずな馬鹿を助ける手伝いまでもしてきた。
君が心穏やかに過ごせるように、君のお兄さんや妹や友達が、誰ひとりとして死ぬことも消えることもないように、この仮想世界を作ったりもした。
ぼくにしかできないことがあったから、なんとかして、今生きていることや産まれてきたことが間違いじゃないと証明しようとしてきた。
でも、10年たっても、わからないんだよ。
君と同じだ。もう疲れた。
まだやらなきゃいけないことが残ってるけどもういい。死にたい」
おにーちゃんは言った。
すぐそばにわたしがいるのに。
おにーちゃんが産まれてきてくれたことや、今生きてくれていることを感謝してるわたしの目の前で。
「ぼくに殺されるか、ぼくを殺したあとで自分で死ぬかどっちがいい?」
凛は、どちらも選べなかった。
「死にたくても死ねないってつらいよね。
でもね、自殺をしてしまう人は、ぼくたちよりももっと追い込まれて、死ぬことしか考えられなくなるんだ。
凛ちゃんもぼくも、幸いなことにまだそこまで追い込まれてはいない。
死にたい、消えたいと思いながらも、生きていたいと思ってる。だから死ねない」
凛はおにーちゃんの言葉に、ただ泣き崩れるだけだった。
わたしはおにーちゃんの手からナイフを奪った。
それは本物だと見間違うほどうまく塗装されていたけれど、刺すと見せかけて刃先が柄に引っ込むおもちゃのナイフだった。
凛の覚悟を試したのだ。
「凛、その世界には、ぼくの命を奪ったあの祖父はもういない」
「お母さんも」
「あんたに一度も会いにこなかった父親も」
紡や芽衣やメイが言った。
「麻衣にひどいことした。許してはもらえない」
「それはわたしがしたことじゃん」
メイが言う。
「わたしもいっしょになってした。
麻衣を傷つけたのは、メイとわたし。
凛じゃない」
そして、ふたりは、
「今、凛の目の前にいるふたりなら、きっと凛の友達になってくれるよ」
と、声を揃えて言った。
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