あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第25話(第69話)
「どうやら彼女は、新しい身体を羽衣ちゃんに決めたようだね。
大丈夫、羽衣ちゃんのことはぼくが必ず守るよ」
彼はそう言って、
「夏目メイさんですか? えぇ、加藤学です」
夏目メイの携帯電話に出た。
夏目メイと草詰アリスは同じ病院に運ばれたそうだった。
わたしが彼女に馬乗りになり数分間殴り続けた結果、彼女は肋骨にひびが入り、頬骨や額を陥没骨折したという。
全治1ヶ月ほどの怪我だそうだ。
しかし、彼女に拳銃で撃たれた草詰アリスは、以前飛び降り自殺をはかった際に一度折れた大腿骨こそ手術によってもう一度繋ぎ合わせることができたが、損傷し普通の歩行程度しかできなくなっていた坐骨神経が今度こそ本当に駄目になってしまったとのことだった。
わたしは、そう、としか言えなかった。
取り引きがしたい、と夏目メイは学に言ったらしい。
こちらは学が持ち出した四台の携帯電話とわたしの身体を夏目メイに差し出し、その代わりに夏目メイはわたしが彼女に対して行った暴行や学の銃刀法違反を見逃す、というものだった。
今のところ、夏目メイも草詰アリスも警察には知らない人に突然襲われたとしか話していないらしい。
アリスは夏目メイをかばっているのだろうか?
それともわたしたちをかばっているのだろうか?
夏目メイに撃たれたことを警察に話せば、夏目メイは自分を暴行したのがわたしであり、いっしょにいた学が拳銃を所持していたことを話すだろうと考えたのだろうか?
「この取り引きは、夏目メイらしくない。さすがの彼女も相当焦っているね」
と、学は言った。
「警察も馬鹿じゃない。
なぜ、アリスちゃんが防弾チョッキを着ていたのか、彼女は撃たれることを覚悟していたのではないか、そう考えるはずだ。
防弾チョッキをどこで入手したのか調べ、必ずぼくにたどり着くだろう。
■■■村には、ぼくたちを目撃していた者がいるだろう。
アリスちゃんがひとりで公共交通機関を使ってあの村にまで行ったわけではなく、車を運転していた者がいて、それがぼくであることも突き止めるだろう。
ぼくの写真を見せて、目撃者の言質を取るだろう」
彼は、すでに逮捕を覚悟していた。
「ぼくは必ず逮捕される。けれど今回の事件は、警察に夏目メイを逮捕させるチャンスでもある」
学は言った。
夏目メイは過去に事件を何度も起こしている。
そのたびに、城戸女学園でいっしょだった小島ゆきの祖父であり政治家の金児陽三が圧力をかけ、揉み消してきた。
しかし、金児陽三は政治家生命をすでに絶たれている。
彼女を撃ったのが夏目メイである可能性を考え、今度こそ夏目メイを逮捕してくれるかもしれない。
いや、必ず逮捕するだろう。
「取り引きに応じようが応じまいが、ぼくは逮捕される。夏目メイもね」
確かに学の言うとおりだった。
けれど、わたしは、自分は別に逮捕されてもかまわなかったが、学が逮捕されるのは嫌だった。
学もまた、自分が逮捕されるのはかまわないが、わたしが逮捕される事態だけは避けたいと考えているだろう。
きっとわたしの犯した罪も、彼は自分がしたことにする気だろう。
そして、彼にわたしのかわりはできても、わたしに彼の代わりはできないのだ。
「取り引きに応じる意味があるとするなら、それはひとつだけ」
夏目メイに対する傷害を、学の証言にあわせる形で、夏目メイに学にされたと証言させること。
たったそれだけ。
          
大丈夫、羽衣ちゃんのことはぼくが必ず守るよ」
彼はそう言って、
「夏目メイさんですか? えぇ、加藤学です」
夏目メイの携帯電話に出た。
夏目メイと草詰アリスは同じ病院に運ばれたそうだった。
わたしが彼女に馬乗りになり数分間殴り続けた結果、彼女は肋骨にひびが入り、頬骨や額を陥没骨折したという。
全治1ヶ月ほどの怪我だそうだ。
しかし、彼女に拳銃で撃たれた草詰アリスは、以前飛び降り自殺をはかった際に一度折れた大腿骨こそ手術によってもう一度繋ぎ合わせることができたが、損傷し普通の歩行程度しかできなくなっていた坐骨神経が今度こそ本当に駄目になってしまったとのことだった。
わたしは、そう、としか言えなかった。
取り引きがしたい、と夏目メイは学に言ったらしい。
こちらは学が持ち出した四台の携帯電話とわたしの身体を夏目メイに差し出し、その代わりに夏目メイはわたしが彼女に対して行った暴行や学の銃刀法違反を見逃す、というものだった。
今のところ、夏目メイも草詰アリスも警察には知らない人に突然襲われたとしか話していないらしい。
アリスは夏目メイをかばっているのだろうか?
それともわたしたちをかばっているのだろうか?
夏目メイに撃たれたことを警察に話せば、夏目メイは自分を暴行したのがわたしであり、いっしょにいた学が拳銃を所持していたことを話すだろうと考えたのだろうか?
「この取り引きは、夏目メイらしくない。さすがの彼女も相当焦っているね」
と、学は言った。
「警察も馬鹿じゃない。
なぜ、アリスちゃんが防弾チョッキを着ていたのか、彼女は撃たれることを覚悟していたのではないか、そう考えるはずだ。
防弾チョッキをどこで入手したのか調べ、必ずぼくにたどり着くだろう。
■■■村には、ぼくたちを目撃していた者がいるだろう。
アリスちゃんがひとりで公共交通機関を使ってあの村にまで行ったわけではなく、車を運転していた者がいて、それがぼくであることも突き止めるだろう。
ぼくの写真を見せて、目撃者の言質を取るだろう」
彼は、すでに逮捕を覚悟していた。
「ぼくは必ず逮捕される。けれど今回の事件は、警察に夏目メイを逮捕させるチャンスでもある」
学は言った。
夏目メイは過去に事件を何度も起こしている。
そのたびに、城戸女学園でいっしょだった小島ゆきの祖父であり政治家の金児陽三が圧力をかけ、揉み消してきた。
しかし、金児陽三は政治家生命をすでに絶たれている。
彼女を撃ったのが夏目メイである可能性を考え、今度こそ夏目メイを逮捕してくれるかもしれない。
いや、必ず逮捕するだろう。
「取り引きに応じようが応じまいが、ぼくは逮捕される。夏目メイもね」
確かに学の言うとおりだった。
けれど、わたしは、自分は別に逮捕されてもかまわなかったが、学が逮捕されるのは嫌だった。
学もまた、自分が逮捕されるのはかまわないが、わたしが逮捕される事態だけは避けたいと考えているだろう。
きっとわたしの犯した罪も、彼は自分がしたことにする気だろう。
そして、彼にわたしのかわりはできても、わたしに彼の代わりはできないのだ。
「取り引きに応じる意味があるとするなら、それはひとつだけ」
夏目メイに対する傷害を、学の証言にあわせる形で、夏目メイに学にされたと証言させること。
たったそれだけ。
          
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