あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第21話(第65話)
加藤学の車には、助手席に大きなボストンバッグが置いてあり、わたしとアリスは後部座席に座っていた。
それは昨日はなかったものだった。
おそらく後部座席の後ろの小さな荷台のような場所に、あらかじめ準備がしてあったのだろう。
■■■村につくと、彼はそのボストンバッグから何かを取り出すとわたしたちに渡した。
「何これ?」
アリスが聞いた。
わたしはそれが何かは一目でわかったから何も言わなかった。
「防弾チョッキ。ドラマとかで見たことあるよね?」
「だから、何? これ?」
アリスも一目でそれが何かわかっていて、あえて聞いていた。
「相手が夏目メイだから」
アリスの問いに学はそう答えただけで、
「ふたりは拳銃の撃ち方は?」
わたしたちにそう訊いた。
わたしは、首を横にふり、
「ハワイに行ったことはあるけど、親父から教わったりはしてないわ。家族旅行よりもママより若い女にあの男はご執心だったみたいだから」
アリスはそう言った。
「結衣ちゃんが殺されたと聞いたときから、ぼくはずっとこの日を待っていた」
と彼は言い、車から降りると、わたしたちに見えるように、防弾チョッキを着て見せた。
拳銃の先にはおそらくサイレンサーと思われるものがついていて、彼は銃口を十数メートル先にある樹に向けた。
樹にはカラスが一羽停まっていた。
銃声はせず、その枝が折れる音だけがした。
カラスは悲鳴を上げて飛び去っていった。
「カラスを狙ったの?」
防弾チョッキを着終わったわたしが尋ねると、
「枝を狙った」
彼は答えた。
そして、車の中で、まだ防弾チョッキを着ていなかったアリスに、
「山汐凛の体を傷つけるつもりはないよ」
そう言った。
「でも、メイを、メイの人格は殺すんでしょう?」
「携帯電話の電源を切るだけ。初期化もしないし、破壊もしない。アリスちゃんにちゃんと渡すよ。
夏目メイや山汐紡(つむぎ)の人格が、ぼくの考えている通り、携帯電話の中に納められているのなら、だけど」
「もし違っていたらどうするの?」
「そのときは何もしない。今日のところは退散するしかない」
「メイはまた潜伏場所を変えるわ。二度とアリスの電話に出なくなる。そうしたら潜伏場所は二度とわからなくなる」
「そうかもしれないね。だから、今日がアリスちゃんが夏目メイに会える最後のチャンスになるかもしれない。
ここで、ぼくと羽衣ちゃんの帰りを待っていてもいい。
でも、防弾チョッキを着ないなら、連れてはいかない」
「行くわ。行けばいいんでしょ」
アリスはあわてて防弾チョッキを着ると、車椅子を用意したわたしに、
「いらない」
と言った。
「本当は歩けるから」
そう言って、車から降りた。
わたしははじめて会った日の夜から、アリスはきっと歩けるのだろうと何となく気づいていた。
セックスの仕方を知らない女の子同士の、愛撫だけのセックスごっこのようなものをしたときに、わたしが彼女の一番気持ちいいところを舐めると、彼女の腰だけでなく両脚がビクンビクンと動いた。
最初は条件反射のようなものかと思ったけれど、もっともっとと彼女は喘ぎながら、わたしの背中に両脚をまわして、わたしがやめてしまわないように、離れていかないようにした。
そのときに、歩けるかどうかまではわからないけれど、脚をちゃんと動かすことはできるのだと思った。
わたしは気づかないふりをしていた。
「羽衣も気づいてたでしょ? たぶん学も」
「アリスちゃんの家は、車椅子でも快適に過ごせるように出来ていた。
でも、それは、誰かが一緒にいてくれる場合だけだからね。
お母さんが帰ってこないあの家で、本当に歩くことができないなら、トイレやお風呂、着替え、アリスちゃんにはできないことがたくさんあるからね」
学も気づいていて気づいていないふりをしていただけだった。
「じゃあ、行きましょ」
アリスは悪びれる様子もなく歩き始め、
「本当に女の子にはかなわないな」
学はそう言い、
「行こうか、羽衣ちゃん」
わたしたちは、アリスについていった。
          
それは昨日はなかったものだった。
おそらく後部座席の後ろの小さな荷台のような場所に、あらかじめ準備がしてあったのだろう。
■■■村につくと、彼はそのボストンバッグから何かを取り出すとわたしたちに渡した。
「何これ?」
アリスが聞いた。
わたしはそれが何かは一目でわかったから何も言わなかった。
「防弾チョッキ。ドラマとかで見たことあるよね?」
「だから、何? これ?」
アリスも一目でそれが何かわかっていて、あえて聞いていた。
「相手が夏目メイだから」
アリスの問いに学はそう答えただけで、
「ふたりは拳銃の撃ち方は?」
わたしたちにそう訊いた。
わたしは、首を横にふり、
「ハワイに行ったことはあるけど、親父から教わったりはしてないわ。家族旅行よりもママより若い女にあの男はご執心だったみたいだから」
アリスはそう言った。
「結衣ちゃんが殺されたと聞いたときから、ぼくはずっとこの日を待っていた」
と彼は言い、車から降りると、わたしたちに見えるように、防弾チョッキを着て見せた。
拳銃の先にはおそらくサイレンサーと思われるものがついていて、彼は銃口を十数メートル先にある樹に向けた。
樹にはカラスが一羽停まっていた。
銃声はせず、その枝が折れる音だけがした。
カラスは悲鳴を上げて飛び去っていった。
「カラスを狙ったの?」
防弾チョッキを着終わったわたしが尋ねると、
「枝を狙った」
彼は答えた。
そして、車の中で、まだ防弾チョッキを着ていなかったアリスに、
「山汐凛の体を傷つけるつもりはないよ」
そう言った。
「でも、メイを、メイの人格は殺すんでしょう?」
「携帯電話の電源を切るだけ。初期化もしないし、破壊もしない。アリスちゃんにちゃんと渡すよ。
夏目メイや山汐紡(つむぎ)の人格が、ぼくの考えている通り、携帯電話の中に納められているのなら、だけど」
「もし違っていたらどうするの?」
「そのときは何もしない。今日のところは退散するしかない」
「メイはまた潜伏場所を変えるわ。二度とアリスの電話に出なくなる。そうしたら潜伏場所は二度とわからなくなる」
「そうかもしれないね。だから、今日がアリスちゃんが夏目メイに会える最後のチャンスになるかもしれない。
ここで、ぼくと羽衣ちゃんの帰りを待っていてもいい。
でも、防弾チョッキを着ないなら、連れてはいかない」
「行くわ。行けばいいんでしょ」
アリスはあわてて防弾チョッキを着ると、車椅子を用意したわたしに、
「いらない」
と言った。
「本当は歩けるから」
そう言って、車から降りた。
わたしははじめて会った日の夜から、アリスはきっと歩けるのだろうと何となく気づいていた。
セックスの仕方を知らない女の子同士の、愛撫だけのセックスごっこのようなものをしたときに、わたしが彼女の一番気持ちいいところを舐めると、彼女の腰だけでなく両脚がビクンビクンと動いた。
最初は条件反射のようなものかと思ったけれど、もっともっとと彼女は喘ぎながら、わたしの背中に両脚をまわして、わたしがやめてしまわないように、離れていかないようにした。
そのときに、歩けるかどうかまではわからないけれど、脚をちゃんと動かすことはできるのだと思った。
わたしは気づかないふりをしていた。
「羽衣も気づいてたでしょ? たぶん学も」
「アリスちゃんの家は、車椅子でも快適に過ごせるように出来ていた。
でも、それは、誰かが一緒にいてくれる場合だけだからね。
お母さんが帰ってこないあの家で、本当に歩くことができないなら、トイレやお風呂、着替え、アリスちゃんにはできないことがたくさんあるからね」
学も気づいていて気づいていないふりをしていただけだった。
「じゃあ、行きましょ」
アリスは悪びれる様子もなく歩き始め、
「本当に女の子にはかなわないな」
学はそう言い、
「行こうか、羽衣ちゃん」
わたしたちは、アリスについていった。
          
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