あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。

雨野美哉(あめの みかな)

第17話(第61話)

「わたしやアリスといっしょに暮らしてみませんか?」

気がつくと、わたしはそう言ってしまっていた。

アリスの許可もとらずに。

アリスは男性恐怖症だというのに。


わたしは、加藤学のことが好きになりそう、ではなくて、もう好きになってしまっていたのかもしれない。

お世辞かもしれないというのに、ずっと憧れていた彼から好意を持たれていると、わたしは自惚れてしまっていたのかもしれない。

わたしなら、彼をずっと笑顔でいさせてあげることができると思ってしまっていた。


「羽衣ちゃんと、アリスちゃんの家でいっしょに?
それはすごく嬉しいお申し出だね」

けれど彼は、わたしの突拍子もない発言に、嬉しそうな顔をしてくれた。

「羽衣ちゃんといっしょにいられれば、ぼくはもしかしたら今日のように毎日を楽しく過ごせるかもしれない」

そう言ってくれた。

「だけど、アリスちゃんは何て言うかな」

やはり彼も同じことを考えていた。


わたしたちがつい先ほどまで晩御飯をいっしょに食べていたのは、アリスとその母親の家であって、わたしの家ではなかった。

年に一、二度くらいしか帰ってこないというアリスの母親の許可は必要ないとしても(本当は勿論必要なのだけれど)、アリスの許可は絶対に必要だった。


「すぐに聞いてきます。ちょっとここで待っていてもらってもいいですか?」

わたしは、あわてて地下駐車場からエレベーターに乗って最上階に向かった。


アリスはあっさりと、いいよ、と言った。
学は悪い人じゃないし、アリスよりいろいろと情報を持ってるし、何より車があると便利だしね、そう言ってくれた。

わたしは、ありがとう、と言って、すぐにまた地下駐車場に戻った。


地下駐車場で待っていてくれた加藤学に、わたしは抱きついてしまった。

「羽衣ちゃん、どうしたの?」

彼はすごく驚いていた。

「アリスが、いいって……学さんといっしょに暮らしていいって……」

わたしは、嬉しくて泣いてしまっていた。

彼はそんなわたしを優しく抱きしめてくれた。

「やっぱり、羽衣ちゃんは、すごい女の子だね」

優しくわたしの頭を撫でてくれた。

「すごい? わたしが?」

「うん、羽衣ちゃんにはたぶん、人の人生を変えてしまう力がある。
それも悪影響じゃなくて、全く逆の。
たぶん羽衣ちゃんは無意識で、自分がしたいようにしてるだけで、何かをしてあげたとか、そういう気持ちはないと思うんだ。
でも、羽衣ちゃんがしたいようにするだけで、過去に縛られて前に進めないでいる人の心を救う力がある。
前に進ませることができたりすることができる」

彼はそう言って、


「羽衣ちゃん、ぼくはね、たぶんもう君が好きだよ」


わたしにキスをした。

          

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