あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第9話(第53話)
山汐凛は、凛を主人格とする多重人格者だった?
(※ 現在では、多重人格障害は、解離性同一性障害と呼ばれている)
兄のツムギ(山汐紡)も、内藤美嘉も、そして夏目メイも、彼女の別人格に過ぎなかった?
加藤麻衣は、山汐凛の中の内藤美嘉や夏目メイに売春を強要された?
加藤麻衣が、売春の際の護身用にと渡されたインスタントカメラを改造したスタンガンを作ったのは山汐凛の中のツムギだった?
ナナセは内藤美嘉ではなく、山汐凛のストーカーであり、彼女が多重人格であると知らず、内藤美嘉の人格のときの山汐凛の身体をレイプした?
その様子は、ツムギの人格のときの山汐凛が仕掛けた監視カメラ付きのぬいぐるみが撮影する映像としてインターネットに生配信され、ナナセはツムギの人格のときの山汐凛が違法改造したモデルガンで、内藤美嘉のときの山汐凛の体をこどもが産めない体にした?
そして、山汐凛の別人格であった内藤美嘉は、その人格が消滅した?
それが現実、事実だと知らされても、わたしには容易には信じることはできなかった。
わたしの頭がおかしくなりそうだった。
わたしは数年前に一度だけ、多重人格者の日常生活を追いかけたドキュメンタリー番組を観たことがあった。
そのドキュメンタリー番組は、どうやら前年に第一弾があったらしく、一年後になるその番組では、第一弾で密着していた姉だけでなく、その妹までが多重人格になってしまった、という内容だった。
その姉妹は、主人格こそ戸籍上の普通の名前だったけれど、十数人いる別人格たちの名前はまるで漫画の登場人物のような、DQNネームやキラキラネームと後に呼ばれるようになるような名前ばかりだった。
わたしは、その番組をどうして最後まで観たのかわからないくらい、ドキュメンタリーなのに作り物めいていた。
あぁ、確か兄が、多重人格探偵サイコとかっていう漫画が好きで、最後まで観たいと言ったんだっけ。
多重人格なんて、実際にそういった病気が存在して、解離性同一性障害という病名が存在するとしても、早々簡単に信じられる者はいないだろう。
わたしの場合は特にだ。
山汐凛が多重人格だったというだけで、わたしが「実際に起きた事件を元にしたフィクションを隠れ蓑にしたノンフィクション」であると信じていた「夏雲」や「秋雨」は、結局「実際に起きた事件を元にしたフィクション」に過ぎなかったということになってしまう。
兄がモデルとなったシュウさえも、アリスの恋人であったことは確かでも、本当に加藤麻衣に会ったのかどうかは、わからなくなってしまう。
そして、わたしは気づいた。
兄が生きた最期の日について、「夏雲」に記されていることが真実なのだと、信じたがっている自分に。
本当は兄のことが大好きだった自分に気付いてしまった。
気付けばわたしは涙を流していた。
アリスは、そんなわたしの手をぎゅっと握った。
「アリスも、メイが本当はメイじゃなくて山汐凛だと知ったときは、今の羽衣と同じだったよ。
わけがわからなかったよ。
多重人格、ううん、解離性同一性障害について、インターネットや本を読み漁ったけれど、何も理解できなかった。
でも山汐凛に会ったときに、すべて理解できた。
この子はメイと同じ顔をしているけど、同じ声をしているけれど、メイじゃないんだって。
山汐凛なんだって」
でも、とアリスは言った。
「アリスが理解できたのはそれだけ。
山汐凛がメイじゃないってことだけ。
本当に理解しているのは、山汐凛と、凛の中のメイとツムギって人、それから主治医の先生と……
あとは加藤麻衣だけ」
違うよ、とわたしは言った。
「もうひとりだけいる」
「誰?」
「二代目花房ルリヲ」
それは、「夏雲」の作者だった。
(※ 現在では、多重人格障害は、解離性同一性障害と呼ばれている)
兄のツムギ(山汐紡)も、内藤美嘉も、そして夏目メイも、彼女の別人格に過ぎなかった?
加藤麻衣は、山汐凛の中の内藤美嘉や夏目メイに売春を強要された?
加藤麻衣が、売春の際の護身用にと渡されたインスタントカメラを改造したスタンガンを作ったのは山汐凛の中のツムギだった?
ナナセは内藤美嘉ではなく、山汐凛のストーカーであり、彼女が多重人格であると知らず、内藤美嘉の人格のときの山汐凛の身体をレイプした?
その様子は、ツムギの人格のときの山汐凛が仕掛けた監視カメラ付きのぬいぐるみが撮影する映像としてインターネットに生配信され、ナナセはツムギの人格のときの山汐凛が違法改造したモデルガンで、内藤美嘉のときの山汐凛の体をこどもが産めない体にした?
そして、山汐凛の別人格であった内藤美嘉は、その人格が消滅した?
それが現実、事実だと知らされても、わたしには容易には信じることはできなかった。
わたしの頭がおかしくなりそうだった。
わたしは数年前に一度だけ、多重人格者の日常生活を追いかけたドキュメンタリー番組を観たことがあった。
そのドキュメンタリー番組は、どうやら前年に第一弾があったらしく、一年後になるその番組では、第一弾で密着していた姉だけでなく、その妹までが多重人格になってしまった、という内容だった。
その姉妹は、主人格こそ戸籍上の普通の名前だったけれど、十数人いる別人格たちの名前はまるで漫画の登場人物のような、DQNネームやキラキラネームと後に呼ばれるようになるような名前ばかりだった。
わたしは、その番組をどうして最後まで観たのかわからないくらい、ドキュメンタリーなのに作り物めいていた。
あぁ、確か兄が、多重人格探偵サイコとかっていう漫画が好きで、最後まで観たいと言ったんだっけ。
多重人格なんて、実際にそういった病気が存在して、解離性同一性障害という病名が存在するとしても、早々簡単に信じられる者はいないだろう。
わたしの場合は特にだ。
山汐凛が多重人格だったというだけで、わたしが「実際に起きた事件を元にしたフィクションを隠れ蓑にしたノンフィクション」であると信じていた「夏雲」や「秋雨」は、結局「実際に起きた事件を元にしたフィクション」に過ぎなかったということになってしまう。
兄がモデルとなったシュウさえも、アリスの恋人であったことは確かでも、本当に加藤麻衣に会ったのかどうかは、わからなくなってしまう。
そして、わたしは気づいた。
兄が生きた最期の日について、「夏雲」に記されていることが真実なのだと、信じたがっている自分に。
本当は兄のことが大好きだった自分に気付いてしまった。
気付けばわたしは涙を流していた。
アリスは、そんなわたしの手をぎゅっと握った。
「アリスも、メイが本当はメイじゃなくて山汐凛だと知ったときは、今の羽衣と同じだったよ。
わけがわからなかったよ。
多重人格、ううん、解離性同一性障害について、インターネットや本を読み漁ったけれど、何も理解できなかった。
でも山汐凛に会ったときに、すべて理解できた。
この子はメイと同じ顔をしているけど、同じ声をしているけれど、メイじゃないんだって。
山汐凛なんだって」
でも、とアリスは言った。
「アリスが理解できたのはそれだけ。
山汐凛がメイじゃないってことだけ。
本当に理解しているのは、山汐凛と、凛の中のメイとツムギって人、それから主治医の先生と……
あとは加藤麻衣だけ」
違うよ、とわたしは言った。
「もうひとりだけいる」
「誰?」
「二代目花房ルリヲ」
それは、「夏雲」の作者だった。
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