気づいたら異世界にいた。転移したのか、転生したのかはわからない。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者。
第84話 魂の行く先
ブライ・アジ・ダハーカが息を引き取ると、彼の魂はその体から、いくつもの小さな翡翠色の光となって浮かびあがった。
清き水からエーテルが産まれるときのように、きれいな淡い光だった。
ピノアには、その身体の本来の持ち主であるレンジの父・富嶽サトシの魂もまた、ブライの魂と共にあるのがわかった。
ブライは、サトシのことが好きだったと言った。
国王やレオナルドも、サトシのことが好きだったという。
ブライがサトシの肉体に憑依したとき、ピノアもアンフィスも、サトシの魂が消滅したように感じた。
だが、ブライはもしかしたら、そのように見せかけることで悪役に徹していたのかもしれない、とピノアは思った。
ピノアやアンフィスが実力以上の力を発揮し、自分を止めてくれるのを期待していたのかもしれない。
本当に騙し合いが好きな人だな、とピノアは思った。
しょうがない人だなと思ったし、かわいい人だなとすら思った。
彼がしたことは決して許されることではないけれど、わたしだけは許してあげようと思った。
この世界では、すべての命は死ねば肉体は土に還り、魂は天に召されるのではなくアカシックレコードと呼ばれる場所へ向かう。
リバーステラからの来訪者であり、その体がダークマターと一体化していたサトシや、自らの肉体をアンデッドとし、その魂もまた死霊となっていたブライですら、アカシックレコードに向かうのを見て、感じて、ピノアは安心した。
魔王やアンデッドですら、アカシックレコードに向かうのであれば、百数十年前の戦争やこの100年で失われたすべての命の魂は、皆アカシックレコードに向かったに違いなかった。
おそらく例外は、ヴァルキリーによって選ばれた戦死者の魂が神の元へ向かうことだけなのだろう。
「今度はちゃんと4人で仲良くするんだよ」
ピノアは、ブライと国王とレオナルド、そしてサトシに言った。
「いつになるかはわからないけど、何百年かしたら、わたしもそっちにいくから。
たぶん、ステラといっしょかな。いっしょがいいな。
でも、ステラはレンジの世界の方のアカシックレコードに行っちゃうかな。
そのときに、また喧嘩してたら、めっ、てするからね」
ピノアは、それを見届けると、
「レオナルドちゃん、帰ろ。
ステラやレンジたちが待ってる」
そう言って、レオナルドを抱きかかえた。
背中に背負ったランドセルに羽根を生やし、飛空艇へと向かった。
ステラが今にも泣きそうな顔をして、ピノアを出迎えてくれた。
彼女の顔を見た途端、ピノアも涙が溢れそうになった。
「心配かけてごめんね。本当にごめんなさい」
「いいの。あなたをそそのかしたのはアンフィスだってわかったから」
ステラはとても優しかったが、アンフィスが甲板でぐったりとしているのをピノアは見て、少しゾッとした。
顔がパンパンに腫れて、別人のようになっていたからだ。
ニーズヘッグがいた。
アルマもいた。
ケツァルコアトルがいた。
あと、知らないドラゴンがいた。
皆、優しい笑顔で出迎えてくれていた。
しかし、
「あれ? レンジは?」
「えーっと、あの……」
ステラはとても言いづらそうに、艦橋の方を指差した。
ピノアが走っていくと、レンジは寝ていた。
「ステラ? レンジはどうして寝てるの?」
慌てて追いかけてきたステラにピノアは尋ねた。
「えっと……ちょっと聞き分けがよくなかったから、魔法で眠らせたんだけ……? かしら? そうよね? ソラシド」
「レンジ様は、ピノアお姉さまの危機を知り、飛空艇の到着を間に合わせようと、愛用なさっている剣を失うのを覚悟で、飛空艇の速度を上げようとなされたのですが……」
「あ、ソラシド、説明はそれくらいにしてもらえるかしら」
「了解しました。
では、ステラ様が、それを止めたことや、
『今回の戦い、あなたは戦力外よ。足手まといでしかないわ』
と仰り、魔法でレンジ様を眠らせたことは、私のメモリーから消去しておきます」
ぜ、全部言いやがった……
ピノアには、ステラがソラシドを見る目がそう言っているのがわかった。
「そっか、さすがのわたしも、あのアンフィスを見た直後だし、ちょっと、っていうかかなり引いてるんだけど……
ステラもレンジもみんなも、わたしたちのことでいっぱい心配かけて、迷惑をかけて、本当にごめんなさい」
皆笑って許してくれたが、もう二度と今回のような真似はしないとピノアは決意した。
ピノアは、大好きなステラとレンジが戦わなくてもすむ世界を作りたかっただけだった。
けれど、自分とアンフィスが皆に何も言わずに行動を起こしてしまったために、レンジは自分を守るために大切な剣を犠牲にしようとまでした。
ステラには、レンジにひどいことを言わせてしまった。
「三日間ゆっくりするはずだったのに、レンジといちゃいちゃさせてあげられなくてごめんね。
ニーズヘッグとアルマもごめんなさい」
ピノアがそう言うと、ステラもニーズヘッグもアルマも、何かを思い出したようで、顔を耳まで真っ赤にした。
「うん、ちょっと待ってね。
とりあえずステラから、この2日のうちに何があったか、ひとりずつ面談していい?」
ピノアは、
「あ、レンジにも、わたしのステラに何をしてくれたのかちゃんと聞かなくちゃ」
背中のランドセルを下ろして手に持つと、レンジの顔面に思いっきり叩き落とした。
そして、
「あと、そこのドラゴン、誰!?」
と、ヨルムンガルドを指差して言った。
          
清き水からエーテルが産まれるときのように、きれいな淡い光だった。
ピノアには、その身体の本来の持ち主であるレンジの父・富嶽サトシの魂もまた、ブライの魂と共にあるのがわかった。
ブライは、サトシのことが好きだったと言った。
国王やレオナルドも、サトシのことが好きだったという。
ブライがサトシの肉体に憑依したとき、ピノアもアンフィスも、サトシの魂が消滅したように感じた。
だが、ブライはもしかしたら、そのように見せかけることで悪役に徹していたのかもしれない、とピノアは思った。
ピノアやアンフィスが実力以上の力を発揮し、自分を止めてくれるのを期待していたのかもしれない。
本当に騙し合いが好きな人だな、とピノアは思った。
しょうがない人だなと思ったし、かわいい人だなとすら思った。
彼がしたことは決して許されることではないけれど、わたしだけは許してあげようと思った。
この世界では、すべての命は死ねば肉体は土に還り、魂は天に召されるのではなくアカシックレコードと呼ばれる場所へ向かう。
リバーステラからの来訪者であり、その体がダークマターと一体化していたサトシや、自らの肉体をアンデッドとし、その魂もまた死霊となっていたブライですら、アカシックレコードに向かうのを見て、感じて、ピノアは安心した。
魔王やアンデッドですら、アカシックレコードに向かうのであれば、百数十年前の戦争やこの100年で失われたすべての命の魂は、皆アカシックレコードに向かったに違いなかった。
おそらく例外は、ヴァルキリーによって選ばれた戦死者の魂が神の元へ向かうことだけなのだろう。
「今度はちゃんと4人で仲良くするんだよ」
ピノアは、ブライと国王とレオナルド、そしてサトシに言った。
「いつになるかはわからないけど、何百年かしたら、わたしもそっちにいくから。
たぶん、ステラといっしょかな。いっしょがいいな。
でも、ステラはレンジの世界の方のアカシックレコードに行っちゃうかな。
そのときに、また喧嘩してたら、めっ、てするからね」
ピノアは、それを見届けると、
「レオナルドちゃん、帰ろ。
ステラやレンジたちが待ってる」
そう言って、レオナルドを抱きかかえた。
背中に背負ったランドセルに羽根を生やし、飛空艇へと向かった。
ステラが今にも泣きそうな顔をして、ピノアを出迎えてくれた。
彼女の顔を見た途端、ピノアも涙が溢れそうになった。
「心配かけてごめんね。本当にごめんなさい」
「いいの。あなたをそそのかしたのはアンフィスだってわかったから」
ステラはとても優しかったが、アンフィスが甲板でぐったりとしているのをピノアは見て、少しゾッとした。
顔がパンパンに腫れて、別人のようになっていたからだ。
ニーズヘッグがいた。
アルマもいた。
ケツァルコアトルがいた。
あと、知らないドラゴンがいた。
皆、優しい笑顔で出迎えてくれていた。
しかし、
「あれ? レンジは?」
「えーっと、あの……」
ステラはとても言いづらそうに、艦橋の方を指差した。
ピノアが走っていくと、レンジは寝ていた。
「ステラ? レンジはどうして寝てるの?」
慌てて追いかけてきたステラにピノアは尋ねた。
「えっと……ちょっと聞き分けがよくなかったから、魔法で眠らせたんだけ……? かしら? そうよね? ソラシド」
「レンジ様は、ピノアお姉さまの危機を知り、飛空艇の到着を間に合わせようと、愛用なさっている剣を失うのを覚悟で、飛空艇の速度を上げようとなされたのですが……」
「あ、ソラシド、説明はそれくらいにしてもらえるかしら」
「了解しました。
では、ステラ様が、それを止めたことや、
『今回の戦い、あなたは戦力外よ。足手まといでしかないわ』
と仰り、魔法でレンジ様を眠らせたことは、私のメモリーから消去しておきます」
ぜ、全部言いやがった……
ピノアには、ステラがソラシドを見る目がそう言っているのがわかった。
「そっか、さすがのわたしも、あのアンフィスを見た直後だし、ちょっと、っていうかかなり引いてるんだけど……
ステラもレンジもみんなも、わたしたちのことでいっぱい心配かけて、迷惑をかけて、本当にごめんなさい」
皆笑って許してくれたが、もう二度と今回のような真似はしないとピノアは決意した。
ピノアは、大好きなステラとレンジが戦わなくてもすむ世界を作りたかっただけだった。
けれど、自分とアンフィスが皆に何も言わずに行動を起こしてしまったために、レンジは自分を守るために大切な剣を犠牲にしようとまでした。
ステラには、レンジにひどいことを言わせてしまった。
「三日間ゆっくりするはずだったのに、レンジといちゃいちゃさせてあげられなくてごめんね。
ニーズヘッグとアルマもごめんなさい」
ピノアがそう言うと、ステラもニーズヘッグもアルマも、何かを思い出したようで、顔を耳まで真っ赤にした。
「うん、ちょっと待ってね。
とりあえずステラから、この2日のうちに何があったか、ひとりずつ面談していい?」
ピノアは、
「あ、レンジにも、わたしのステラに何をしてくれたのかちゃんと聞かなくちゃ」
背中のランドセルを下ろして手に持つと、レンジの顔面に思いっきり叩き落とした。
そして、
「あと、そこのドラゴン、誰!?」
と、ヨルムンガルドを指差して言った。
          
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