気づいたら異世界にいた。転移したのか、転生したのかはわからない。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者。
第68話 ピノアとアンフィス ②
ピノアは、レンジとステラがふたりで並んで歩いているのを見ているだけで、涙があふれて止まらなくなるようになってしまっていた。
だから、ふたりに気づかれないように、レオナルドを連れてそばを離れ、思いっきり声を出して泣けるような場所を探した。
だが、町はどこも人があふれていて、そんな場所はどこにもなかった。
だから町の外に向かった。
町の外にはアンフィスがいた。
まるで、彼はピノアがそこに来るのがわかっていて、彼女を待っていたようだった。
「あのふたりのそばにいてもつらいだけだろ」
ピノアは彼を無視して通りすぎようとした。
「1000年に一度産まれるかどうかの俺たちは本来なら出会うことはなかった。
だが、こうして俺とお前は出会えた。
お前がステラやレンジのことが好きなのは知ってる。
でも、あいつらといっしょにいて物足りなさを感じたことはないか?
同じ世界を見ているはずなのに、あいつらとお前は見えてる世界が違うだろ」
それは、宿屋を出る前にステラが言った言葉と同じだった。
同じだったが、アンフィスが言うと腹が立った。
「ステラの悪口を言うな!!」
ピノアはアンフィスに向かって、魔法を放っていた。
感情にまかせて放ったものではあったが、全力の最上級火炎魔法インフェルノだった。
しかし、それを彼は魔法を使うことなく片手で払いのけた。
ピノアにとって、それはあり得ないことだった。
「未来のお前はもっとすごかったが、今のお前はまだ魔法の使い方を全然わかってねーみたいだな」
アンフィスは両手にエーテルを集め始めた。
「俺が魔法の使い方を教えてやるよ。
あと、俺は別にステラの悪口を言ったわけじゃねぇ。
見えてる世界の情報量が違うっていう、ただの事実だ。
ステラのこともレンジのことも認めてる。
俺たちにも、この世界にもあのふたりは必要だ。
あのふたりがいるから、俺たちは持って産まれた力を正しいことに使えるんだ」
ピノアには、彼のその両手に、自分が「業火連弾」や「麒麟氷結零(仮)」のような最上級魔法を二発同時に放つ際よりも、大量のエーテルが集まり凝縮しているのがわかった。
「俺の得意な魔法は、魔法による武器の精製だ。
大量のエーテルを集めるだけじゃなく、結晶化するまで凝縮させる。
それによってエーテルは、魔装具と変わらない力を持つ武器になり、必要に応じてその形状を変化させることもできる」
彼の言葉通り、右手に集められていたエーテルは剣の形になり、そして槍や鎌、斧といった形に変化していった。
それが再び剣の形に戻ったとき、彼はピノアが握っていたレオナルドにつけた魔法のヒモを斬った。
それが簡単に斬れるものではないことは、ピノアが一番よくわかっていた。
「大賢者は知らなかったのか、それともできなかったのか、あんたらにちゃんとした魔法の使い方を教えてないみたいだな。
魔法は、結晶化する直前までエーテルを凝縮させることで、本来の力を出せる」
アンフィスが左手に作り出したインフェルノは、大賢者がダークマターを触媒とした際の業火連弾とほとんど変わらないだけの力があった。
「エーテルの魔法にこんな力があるの?」
ピノアは驚きを隠せなかった。
「なぁ、ピノア、俺たちはふたりとも空を飛べる。
その甲冑の狼を連れて、世界中の町や村、城、城下町にダークマターを浄化する結界を張りにいくってのはどうだ?」
「レオナルドちゃんは無限にあの結界を作れるわけじゃない。エウロペの城下町や城に結界を放ったときに、ほとんどの力を使っちゃってる」
「気づいてないのか?
あの鎧は、エーテルの魔法を無効化するだけでなく、魔法をエーテルに還元し吸収するんだろ?
レオナルドとかいう魔装具鍛冶が、あの鎧にダークマターを浄化する秘術を仕込んだのは、吸収したエーテルを使って秘術を無限に放てるようにするためだ。
つまり、秘術を使う度に、強力な魔法をあいつに向かって撃てば、あいつは何度でも結界が張れる」
アンフィスは、左手の巨大な火球をレオナルドに向けた。
「だめ。そんなすごいの、いくらレオナルドちゃんでも壊れちゃうよ」
「まぁ、見てろ」
レオナルドは全く意に返すことなく、アンフィスが放ったインフェルノを無効化し、吸収した。
「たぶん、これでもう結界を張る力が戻ってるはずだ」
ピノアはすぐにレオナルドに駆け寄り確かめた。
アンフィスの言う通りだった。
「時間はかかるが、これを繰り返せば世界中からダークマターを浄化することができる。
それが、これ以上魔王や大賢者に好き勝手させないための唯一の方法だと思うが、違うか?」
違わないように思えた。
「でもレオナルドちゃんは、レンジの鎧だから……」
けれど、ピノアはステラやレンジと離れたくなかった。
「手遅れになるぞ」
「どういうこと?」
「ニーズヘッグから聞いたんだが、ゲルマーニには、髪の毛や爪から死んだ人間や生きてる人間を複製する魔法があるらしい。
ヒト型のカオスだけならいい。ステラたちでもどうにかなるからな。
もし魔王や大賢者が自分の複製を大量に作り出したらどうする?」
「魔王は知らないけど、大賢者ならどうにかなるよ。一回倒したもん」
「だったら、その甲冑の狼を俺に寄越せ。俺ひとりで奴らを片付けてくる」
アンフィスは本気だった。
だからピノアは、
「ステラとレンジがもう戦わなくてもすむ世界を作れる?」
そう訊ねた。
アンフィスはうなづいた。
だからピノアは、彼についていくことを決めた。
          
だから、ふたりに気づかれないように、レオナルドを連れてそばを離れ、思いっきり声を出して泣けるような場所を探した。
だが、町はどこも人があふれていて、そんな場所はどこにもなかった。
だから町の外に向かった。
町の外にはアンフィスがいた。
まるで、彼はピノアがそこに来るのがわかっていて、彼女を待っていたようだった。
「あのふたりのそばにいてもつらいだけだろ」
ピノアは彼を無視して通りすぎようとした。
「1000年に一度産まれるかどうかの俺たちは本来なら出会うことはなかった。
だが、こうして俺とお前は出会えた。
お前がステラやレンジのことが好きなのは知ってる。
でも、あいつらといっしょにいて物足りなさを感じたことはないか?
同じ世界を見ているはずなのに、あいつらとお前は見えてる世界が違うだろ」
それは、宿屋を出る前にステラが言った言葉と同じだった。
同じだったが、アンフィスが言うと腹が立った。
「ステラの悪口を言うな!!」
ピノアはアンフィスに向かって、魔法を放っていた。
感情にまかせて放ったものではあったが、全力の最上級火炎魔法インフェルノだった。
しかし、それを彼は魔法を使うことなく片手で払いのけた。
ピノアにとって、それはあり得ないことだった。
「未来のお前はもっとすごかったが、今のお前はまだ魔法の使い方を全然わかってねーみたいだな」
アンフィスは両手にエーテルを集め始めた。
「俺が魔法の使い方を教えてやるよ。
あと、俺は別にステラの悪口を言ったわけじゃねぇ。
見えてる世界の情報量が違うっていう、ただの事実だ。
ステラのこともレンジのことも認めてる。
俺たちにも、この世界にもあのふたりは必要だ。
あのふたりがいるから、俺たちは持って産まれた力を正しいことに使えるんだ」
ピノアには、彼のその両手に、自分が「業火連弾」や「麒麟氷結零(仮)」のような最上級魔法を二発同時に放つ際よりも、大量のエーテルが集まり凝縮しているのがわかった。
「俺の得意な魔法は、魔法による武器の精製だ。
大量のエーテルを集めるだけじゃなく、結晶化するまで凝縮させる。
それによってエーテルは、魔装具と変わらない力を持つ武器になり、必要に応じてその形状を変化させることもできる」
彼の言葉通り、右手に集められていたエーテルは剣の形になり、そして槍や鎌、斧といった形に変化していった。
それが再び剣の形に戻ったとき、彼はピノアが握っていたレオナルドにつけた魔法のヒモを斬った。
それが簡単に斬れるものではないことは、ピノアが一番よくわかっていた。
「大賢者は知らなかったのか、それともできなかったのか、あんたらにちゃんとした魔法の使い方を教えてないみたいだな。
魔法は、結晶化する直前までエーテルを凝縮させることで、本来の力を出せる」
アンフィスが左手に作り出したインフェルノは、大賢者がダークマターを触媒とした際の業火連弾とほとんど変わらないだけの力があった。
「エーテルの魔法にこんな力があるの?」
ピノアは驚きを隠せなかった。
「なぁ、ピノア、俺たちはふたりとも空を飛べる。
その甲冑の狼を連れて、世界中の町や村、城、城下町にダークマターを浄化する結界を張りにいくってのはどうだ?」
「レオナルドちゃんは無限にあの結界を作れるわけじゃない。エウロペの城下町や城に結界を放ったときに、ほとんどの力を使っちゃってる」
「気づいてないのか?
あの鎧は、エーテルの魔法を無効化するだけでなく、魔法をエーテルに還元し吸収するんだろ?
レオナルドとかいう魔装具鍛冶が、あの鎧にダークマターを浄化する秘術を仕込んだのは、吸収したエーテルを使って秘術を無限に放てるようにするためだ。
つまり、秘術を使う度に、強力な魔法をあいつに向かって撃てば、あいつは何度でも結界が張れる」
アンフィスは、左手の巨大な火球をレオナルドに向けた。
「だめ。そんなすごいの、いくらレオナルドちゃんでも壊れちゃうよ」
「まぁ、見てろ」
レオナルドは全く意に返すことなく、アンフィスが放ったインフェルノを無効化し、吸収した。
「たぶん、これでもう結界を張る力が戻ってるはずだ」
ピノアはすぐにレオナルドに駆け寄り確かめた。
アンフィスの言う通りだった。
「時間はかかるが、これを繰り返せば世界中からダークマターを浄化することができる。
それが、これ以上魔王や大賢者に好き勝手させないための唯一の方法だと思うが、違うか?」
違わないように思えた。
「でもレオナルドちゃんは、レンジの鎧だから……」
けれど、ピノアはステラやレンジと離れたくなかった。
「手遅れになるぞ」
「どういうこと?」
「ニーズヘッグから聞いたんだが、ゲルマーニには、髪の毛や爪から死んだ人間や生きてる人間を複製する魔法があるらしい。
ヒト型のカオスだけならいい。ステラたちでもどうにかなるからな。
もし魔王や大賢者が自分の複製を大量に作り出したらどうする?」
「魔王は知らないけど、大賢者ならどうにかなるよ。一回倒したもん」
「だったら、その甲冑の狼を俺に寄越せ。俺ひとりで奴らを片付けてくる」
アンフィスは本気だった。
だからピノアは、
「ステラとレンジがもう戦わなくてもすむ世界を作れる?」
そう訊ねた。
アンフィスはうなづいた。
だからピノアは、彼についていくことを決めた。
          
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