気づいたら異世界にいた。転移したのか、転生したのかはわからない。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者。
第50話 ログインボーナスがある現実異世界
異世界転移アプリに、チュートリアル、ログインボーナス。
それだけ聞けば、ふざけているように聞こえるだろう。そうとしか聞こえないだろう。
だが、動画の中の父は真剣だった。
これはゲームではない、現実だと、そう言っていた。
父は自分が人の心を失ってしまう前に、レンジのためにできるだけのことをしてくれていた。
それがたまたま、アプリという形になっただけなのだろう。
レンジにはスマホでゲームアプリをする趣味はなかったが、スマホを持ち始めた中学生のときに一作品だけ、1ヶ月ほどだけプレイしたことがあった。
無料で最後まで遊べるとあったが、ゲームを進めるうちに無課金ではとてもじゃないが倒せないような敵が現れるようになった。
攻略サイトを見れば、確かに無課金でも地道にゲーム内通貨を貯めてガチャを引き、キャラクターや装備を強化し、進化させることで攻略は可能だとわかった。
だが、それには何十時間もかかるということだった。
課金をしたところで必ずしも欲しいキャラクターや装備が手に入るわけではなく、ネットには数万円課金しても最高ランクのキャラや装備が手に入らないと嘆く声が溢れていた。
毎週のように実施されるイベントの上位ランカーは、毎月数十万円も課金している者ばかりだということだった。
アプリにはストーリーの区切りはあっても、エンディングはなかった。
サービスが続く限り、上位ランカーたちにさらに課金をさせるための新しいストーリーと強敵、新たなキャラクターや装備が用意されていく。
そして、サービスが終了すれば注ぎ込んだ金はすべて無駄になる。
残るのはスクショと思い出くらいだろう。
何も手元には残らないと言って過言ではないだろう。
レンジは課金するほどそのアプリにはハマらなかったし、10連ガチャを2回まわすお金で、もっとゲーム性が高くて面白い、家庭用ゲーム機用のソフトの新作が一本買えることに気づけた。
だから、プレイすることをやめた。
アプリもアンインストールした。
だが、その経験があったからこそ、父が自分のために用意してくれていたことのありがたみが理解できた。
まるでアプリの100万ダウンロード記念のような形で、父は一万人目の来訪者であるレンジのためにATMを用意してくれていた。
ログインボーナスという形でステラやピノアと出会わせてくれた。
ニーズヘッグやケツァルコアトルと出会わせてくれた。
ヴァルキリーと呼ばれるものが何なのかは、リバーステラの神話に登場する同名の存在の知識しかなく、よくわからなかったが、ニーズヘッグの婚約者であるアルマもまた、そのヴァルキリーや竜騎士となれる素質を秘めていると教えてくれた。
父は最後に何を言おうとしていたのだろうか。
チュートリアルが終われば、新たな仲間との出会いがある、そう言おうとしていたようだった。
しかし、父はレオナルドがレンジの仲間になってくれるだろうと言っていた。
実際に彼はレンジに旅の同行を申し出てくれたが、翌朝に死体になって発見された。
それは、必ずしも父が考えている通りには、うまく事は運ばないということだった。
いや、レオナルドなら、ちゃんとすでに仲間にいる。レンジは気づいた。
今は甲冑の姿をしているが、狼の姿を持つこの鎧の名前もまたレオナルドだった。
順番は大きく変わってしまったが、チュートリアルは終了した。
今日か明日か、次に出会える者が、きっとチュートリアルのクリアボーナスという形での、父の導きによる仲間なのだろう。
レンジたちは、城内にあるエスカレーターやエレベーターをはじめとする、エーテルを動力源とするすべてマキナの稼働を停止させながら、生き残っている人がいないか探した。
滅んでしまった国の、誰もいない城のために、エーテルを消費させ続けるわけにはいかなかったからだ。
城のまわりを浮かぶいくつかの施設のうちのひとつにステラやピノアが育った魔術学院があり、そこには幼いこどもたちが数人だけ生き残っていた。
こどもたちはひどく怯えて泣いていたが、ステラやピノアのことを知っており、ふたりが名前を名乗り、もう大丈夫、と言うとすぐに泣き止んだ。
場内に生き残っていた者たちはそれだけだったが、それでも奇跡のように感じられた。
「この子たちは、ランスに連れていこう。
父にぼくとアルマの結婚を認めてもらい、ぼくたちの養子として迎えようと思う」
ニーズヘッグはそう言った。
百数十年前の戦争で、当時のランスの竜騎士団長を務めていた聖竜騎士は、ペインの城内で産まれたばかりの王女を見つけ養女とした。
その王女はアルマの先祖にあたり、その聖竜騎士もまたニーズヘッグの先祖だった。
彼とアルマの今があるのは、その先祖のおかげなのだ。
だから、彼は同じことをしようと、したいと考えたのだろう。
「飛空艇を出すわ。
わたしたちには、今後、空母となる母艦が必要になるから」
ステラが言った。
          
それだけ聞けば、ふざけているように聞こえるだろう。そうとしか聞こえないだろう。
だが、動画の中の父は真剣だった。
これはゲームではない、現実だと、そう言っていた。
父は自分が人の心を失ってしまう前に、レンジのためにできるだけのことをしてくれていた。
それがたまたま、アプリという形になっただけなのだろう。
レンジにはスマホでゲームアプリをする趣味はなかったが、スマホを持ち始めた中学生のときに一作品だけ、1ヶ月ほどだけプレイしたことがあった。
無料で最後まで遊べるとあったが、ゲームを進めるうちに無課金ではとてもじゃないが倒せないような敵が現れるようになった。
攻略サイトを見れば、確かに無課金でも地道にゲーム内通貨を貯めてガチャを引き、キャラクターや装備を強化し、進化させることで攻略は可能だとわかった。
だが、それには何十時間もかかるということだった。
課金をしたところで必ずしも欲しいキャラクターや装備が手に入るわけではなく、ネットには数万円課金しても最高ランクのキャラや装備が手に入らないと嘆く声が溢れていた。
毎週のように実施されるイベントの上位ランカーは、毎月数十万円も課金している者ばかりだということだった。
アプリにはストーリーの区切りはあっても、エンディングはなかった。
サービスが続く限り、上位ランカーたちにさらに課金をさせるための新しいストーリーと強敵、新たなキャラクターや装備が用意されていく。
そして、サービスが終了すれば注ぎ込んだ金はすべて無駄になる。
残るのはスクショと思い出くらいだろう。
何も手元には残らないと言って過言ではないだろう。
レンジは課金するほどそのアプリにはハマらなかったし、10連ガチャを2回まわすお金で、もっとゲーム性が高くて面白い、家庭用ゲーム機用のソフトの新作が一本買えることに気づけた。
だから、プレイすることをやめた。
アプリもアンインストールした。
だが、その経験があったからこそ、父が自分のために用意してくれていたことのありがたみが理解できた。
まるでアプリの100万ダウンロード記念のような形で、父は一万人目の来訪者であるレンジのためにATMを用意してくれていた。
ログインボーナスという形でステラやピノアと出会わせてくれた。
ニーズヘッグやケツァルコアトルと出会わせてくれた。
ヴァルキリーと呼ばれるものが何なのかは、リバーステラの神話に登場する同名の存在の知識しかなく、よくわからなかったが、ニーズヘッグの婚約者であるアルマもまた、そのヴァルキリーや竜騎士となれる素質を秘めていると教えてくれた。
父は最後に何を言おうとしていたのだろうか。
チュートリアルが終われば、新たな仲間との出会いがある、そう言おうとしていたようだった。
しかし、父はレオナルドがレンジの仲間になってくれるだろうと言っていた。
実際に彼はレンジに旅の同行を申し出てくれたが、翌朝に死体になって発見された。
それは、必ずしも父が考えている通りには、うまく事は運ばないということだった。
いや、レオナルドなら、ちゃんとすでに仲間にいる。レンジは気づいた。
今は甲冑の姿をしているが、狼の姿を持つこの鎧の名前もまたレオナルドだった。
順番は大きく変わってしまったが、チュートリアルは終了した。
今日か明日か、次に出会える者が、きっとチュートリアルのクリアボーナスという形での、父の導きによる仲間なのだろう。
レンジたちは、城内にあるエスカレーターやエレベーターをはじめとする、エーテルを動力源とするすべてマキナの稼働を停止させながら、生き残っている人がいないか探した。
滅んでしまった国の、誰もいない城のために、エーテルを消費させ続けるわけにはいかなかったからだ。
城のまわりを浮かぶいくつかの施設のうちのひとつにステラやピノアが育った魔術学院があり、そこには幼いこどもたちが数人だけ生き残っていた。
こどもたちはひどく怯えて泣いていたが、ステラやピノアのことを知っており、ふたりが名前を名乗り、もう大丈夫、と言うとすぐに泣き止んだ。
場内に生き残っていた者たちはそれだけだったが、それでも奇跡のように感じられた。
「この子たちは、ランスに連れていこう。
父にぼくとアルマの結婚を認めてもらい、ぼくたちの養子として迎えようと思う」
ニーズヘッグはそう言った。
百数十年前の戦争で、当時のランスの竜騎士団長を務めていた聖竜騎士は、ペインの城内で産まれたばかりの王女を見つけ養女とした。
その王女はアルマの先祖にあたり、その聖竜騎士もまたニーズヘッグの先祖だった。
彼とアルマの今があるのは、その先祖のおかげなのだ。
だから、彼は同じことをしようと、したいと考えたのだろう。
「飛空艇を出すわ。
わたしたちには、今後、空母となる母艦が必要になるから」
ステラが言った。
          
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
3395
-
-
2265
-
-
0
-
-
4112
-
-
381
-
-
39
-
-
20
-
-
29
-
-
314
コメント