気づいたら異世界にいた。転移したのか、転生したのかはわからない。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者。
第45話 謁見の間へと向かう前に ①
城の最上階にあるワープポイントの先は、城内の他のワープポイントとは異なる場所に繋がっていた。
レンジは、そこにステラやピノアといっしょに二日前に来たばかりだった。
まだ二日しか経っていないんだな、と思った。この世界に来てまだ三日目だという実感が彼にはなかった。もう1か月以上いるような、そんな気がした。
そこは薄暗い空間で、直径2メートルほどの魔方陣が、5メートルほどの感覚を空けてオセロのようにきれいにならんでいた。
魔方陣は、エーテルが清き水から産まれ大気に溶ける前の間だけ放つ、蛍のような翡翠色の光を放ち、薄暗い空間の中でにそれは無数に存在していた。
その空間は四方八方にどこまでも続いていた。
そこが城の地下なのか、まったく別の空間なのかは、ステラやピノアにもわからないという。
おそらくは、それほど広い空間ではなく、どんなに広くても城の敷地程度だろうとステラは言った。
魔法によって空間がループさせられており無限に続いて見えているだけなのだと。
「ふたりは、オロバスちゃんの許可をとらなくても時を操ることができるような相手とどうやって戦うつもりなの?
わたしやニーズヘッグがいたって、先に時を止められたり、巻き戻されたりしたらどうしようもないんだよ?
それに、レンジはお父さんと戦えるの?」
ピノアはひどく混乱していた。
彼女には話すべきではなかったかもしれない、とレンジもステラもそう思った。
しかし、それは話しておかなければいけないことだった。今話さなければいけないことだった。
すべてが終わった後、彼女がそれにもし気づいたとき、ふたりがそれを彼女に黙っていることをもし知ってしまったら、彼女をきっととても傷つけてしまうからだ。
正しい順番でワープポイントを辿らなければ、最上階に戻されてしまう。
まずは正面から3つ目のワープポイントへ。
移動した先は、まったく同じ空間のまったく同じ場所に見えるが、先ほどとその場所は異なっている。
「1つ目の質問の答えは簡単よ」
ピノアの問いに、レンジがどう答えようかと考えていると、ステラが先に口を開いた。
「時の精霊が、大賢者に力を貸すことをやめたとピノアは言っていたでしょう?
もし大賢者がそれによって本当に時の魔法が使えなくなっているのなら、今すぐにレンジのお父さんに力を貸すこともやめてもらう。
もしかしたら、彼が魔王になってしまった時点で、それをしてくれているかもしれないけれど、そのままになっている可能性があるから。
それだけで、大賢者だけでなくレンジのお父さんも時の魔法を使えなくすることができるわ」
次は、左手に見える4つ目のワープポイントに向かう。
「でも、父さんも大賢者も、一度はピノアと同じように、時の精霊の力を借りることを許されている。
それはきっと、ぼくたちの中ではピノアしか知らない、ステラも知らないような、時の魔法を使う方法を知っているっていうことなんだと思う」
レンジはステラに続いた。
「だから、ダークマターを触媒とすることによって、精霊の意思とは関係なく、時の魔法を使えるかもしれない。
精霊の力を無断拝借し、その威力までも何倍にも高めるのがダークマターという魔素みたいだから。
そして、それを確かめる術(すべ)を、ぼくたちはもちろん、たぶん時の精霊も持っていない。勝手に使われてることすら気づくことができないから」
「それじゃ、ダークマターを使われたら終わりじゃん!」
ピノアは今にも泣き出しそうな顔で反論した。
「大丈夫よ。ピノアが城下町だけでなく、この城までレオナルド・カタルシスの範囲を広げてくれたから」
「あっ……」
ピノアは、それを聞いてようやく気付いたようだった。
「ピノアのおかげで、城の中のダークマターもすべて浄化されてるはずなんだ。
父さんも大賢者も、今はダークマターの魔法を使えない。
使えるのは、エーテルの魔法だけ。
だから、時の精霊は、父さんや大賢者が力を借りようとしても、きっと断ってくれる。ふたりには許可を出さない」
レンジたちは、右手に見えるふたつ目のワープポイントに向かった。
「それだけじゃない。ステラの身体からダークマターを浄化できたように、父さんも大賢者も、ふたりとも身体からダークマターが消えて、正気に戻っているかもしれない」
レンジはそう言ったが、
「これはぼくの願望かな」
と、自嘲した。
四人は、また正面に見える4つ目のワープポイントに向かった。
「だけど、敵はとても狡猾だから。万が一ということもあるわ。
だから時の精霊には、その力を無断拝借できないような場所に身を隠してもらう。それがどこかはわからないけれど、精霊ならきっとわかるはずよ」
「それじゃあ、わたしもオロバスちゃんの力を借りられなくなっちゃうよ」
さらに背後にすぐあるワープポイントに。
「エーテルの魔法だけなら、ピノアの力は大賢者よりも上だから。
わたしが互角くらいかしらね。
おそらく、レンジのお父さんも、大賢者と変わらないか、少し劣るくらいじゃないかしら」
だから、時を止めなくてもきっと大丈夫よ、とステラはピノアの頭を撫でた。
「わたしたちにはピノアがいるんだもの。
ピノアにはわたしがいるんだもの。
レンジもニーズヘッグもいてくれるんだもの。
みんなで戦えばきっとどうにかなるわ」
「竜騎士のぼくには魔法のことはよくわからないけれど、いざというときはケツァルコアトルも助けてくれるよ」
レンジは、自分の父がリバーステラからの最初の来訪者であり、魔王になってしまったであろうことを、ニーズヘッグに話していただろうかと思った。
彼にもちゃんと説明をしておかなければならなかったと反省した。
彼やケツァルコアトルと出会ってすぐに、エウロペへと戻ることになったから、そんな時間的猶予はなかったが。
だが、彼はただ強いだけでなく、とても頭の良い人のようだったから、きっと三人の話の内容から大体のことは察してくれているのだと思った。彼には後でゆっくりと説明をしようと思った。
「わかった……オロバスちゃんにお願いしてみる……」
最後は、今立っているワープポイントから一度離れ、もう一度立つだけだ。
それで、謁見の間にようやくたどり着ける。
          
レンジは、そこにステラやピノアといっしょに二日前に来たばかりだった。
まだ二日しか経っていないんだな、と思った。この世界に来てまだ三日目だという実感が彼にはなかった。もう1か月以上いるような、そんな気がした。
そこは薄暗い空間で、直径2メートルほどの魔方陣が、5メートルほどの感覚を空けてオセロのようにきれいにならんでいた。
魔方陣は、エーテルが清き水から産まれ大気に溶ける前の間だけ放つ、蛍のような翡翠色の光を放ち、薄暗い空間の中でにそれは無数に存在していた。
その空間は四方八方にどこまでも続いていた。
そこが城の地下なのか、まったく別の空間なのかは、ステラやピノアにもわからないという。
おそらくは、それほど広い空間ではなく、どんなに広くても城の敷地程度だろうとステラは言った。
魔法によって空間がループさせられており無限に続いて見えているだけなのだと。
「ふたりは、オロバスちゃんの許可をとらなくても時を操ることができるような相手とどうやって戦うつもりなの?
わたしやニーズヘッグがいたって、先に時を止められたり、巻き戻されたりしたらどうしようもないんだよ?
それに、レンジはお父さんと戦えるの?」
ピノアはひどく混乱していた。
彼女には話すべきではなかったかもしれない、とレンジもステラもそう思った。
しかし、それは話しておかなければいけないことだった。今話さなければいけないことだった。
すべてが終わった後、彼女がそれにもし気づいたとき、ふたりがそれを彼女に黙っていることをもし知ってしまったら、彼女をきっととても傷つけてしまうからだ。
正しい順番でワープポイントを辿らなければ、最上階に戻されてしまう。
まずは正面から3つ目のワープポイントへ。
移動した先は、まったく同じ空間のまったく同じ場所に見えるが、先ほどとその場所は異なっている。
「1つ目の質問の答えは簡単よ」
ピノアの問いに、レンジがどう答えようかと考えていると、ステラが先に口を開いた。
「時の精霊が、大賢者に力を貸すことをやめたとピノアは言っていたでしょう?
もし大賢者がそれによって本当に時の魔法が使えなくなっているのなら、今すぐにレンジのお父さんに力を貸すこともやめてもらう。
もしかしたら、彼が魔王になってしまった時点で、それをしてくれているかもしれないけれど、そのままになっている可能性があるから。
それだけで、大賢者だけでなくレンジのお父さんも時の魔法を使えなくすることができるわ」
次は、左手に見える4つ目のワープポイントに向かう。
「でも、父さんも大賢者も、一度はピノアと同じように、時の精霊の力を借りることを許されている。
それはきっと、ぼくたちの中ではピノアしか知らない、ステラも知らないような、時の魔法を使う方法を知っているっていうことなんだと思う」
レンジはステラに続いた。
「だから、ダークマターを触媒とすることによって、精霊の意思とは関係なく、時の魔法を使えるかもしれない。
精霊の力を無断拝借し、その威力までも何倍にも高めるのがダークマターという魔素みたいだから。
そして、それを確かめる術(すべ)を、ぼくたちはもちろん、たぶん時の精霊も持っていない。勝手に使われてることすら気づくことができないから」
「それじゃ、ダークマターを使われたら終わりじゃん!」
ピノアは今にも泣き出しそうな顔で反論した。
「大丈夫よ。ピノアが城下町だけでなく、この城までレオナルド・カタルシスの範囲を広げてくれたから」
「あっ……」
ピノアは、それを聞いてようやく気付いたようだった。
「ピノアのおかげで、城の中のダークマターもすべて浄化されてるはずなんだ。
父さんも大賢者も、今はダークマターの魔法を使えない。
使えるのは、エーテルの魔法だけ。
だから、時の精霊は、父さんや大賢者が力を借りようとしても、きっと断ってくれる。ふたりには許可を出さない」
レンジたちは、右手に見えるふたつ目のワープポイントに向かった。
「それだけじゃない。ステラの身体からダークマターを浄化できたように、父さんも大賢者も、ふたりとも身体からダークマターが消えて、正気に戻っているかもしれない」
レンジはそう言ったが、
「これはぼくの願望かな」
と、自嘲した。
四人は、また正面に見える4つ目のワープポイントに向かった。
「だけど、敵はとても狡猾だから。万が一ということもあるわ。
だから時の精霊には、その力を無断拝借できないような場所に身を隠してもらう。それがどこかはわからないけれど、精霊ならきっとわかるはずよ」
「それじゃあ、わたしもオロバスちゃんの力を借りられなくなっちゃうよ」
さらに背後にすぐあるワープポイントに。
「エーテルの魔法だけなら、ピノアの力は大賢者よりも上だから。
わたしが互角くらいかしらね。
おそらく、レンジのお父さんも、大賢者と変わらないか、少し劣るくらいじゃないかしら」
だから、時を止めなくてもきっと大丈夫よ、とステラはピノアの頭を撫でた。
「わたしたちにはピノアがいるんだもの。
ピノアにはわたしがいるんだもの。
レンジもニーズヘッグもいてくれるんだもの。
みんなで戦えばきっとどうにかなるわ」
「竜騎士のぼくには魔法のことはよくわからないけれど、いざというときはケツァルコアトルも助けてくれるよ」
レンジは、自分の父がリバーステラからの最初の来訪者であり、魔王になってしまったであろうことを、ニーズヘッグに話していただろうかと思った。
彼にもちゃんと説明をしておかなければならなかったと反省した。
彼やケツァルコアトルと出会ってすぐに、エウロペへと戻ることになったから、そんな時間的猶予はなかったが。
だが、彼はただ強いだけでなく、とても頭の良い人のようだったから、きっと三人の話の内容から大体のことは察してくれているのだと思った。彼には後でゆっくりと説明をしようと思った。
「わかった……オロバスちゃんにお願いしてみる……」
最後は、今立っているワープポイントから一度離れ、もう一度立つだけだ。
それで、謁見の間にようやくたどり着ける。
          
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