気づいたら異世界にいた。転移したのか、転生したのかはわからない。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者。
第9話 一人目の来訪者と一万人目の来訪者 ①
「あなた、一体何者なの?」
ステラは、レンジに尋ねた。
「わからない」
と彼は言った。
「とりあえず今夜は、ステラの言う通り、宿に泊まろう。
宿は確か一度広場に戻らなければいけなかったね」
彼は広場に向かい歩きだした。
ステラとピノアはその後に続いた。
歩きながら、彼は話した。
「この世界にやってきたとき、なんとなく懐かしい気がした。
ステラから話を聞くうちに、いろんなことがなんとなくだけれどわかってしまうのがわかった。
それがなぜだかはわからない」
テラとリバーステラの関係性のことなどだろう。
「さっきも、なんとなく、ピノアと同じようにしたら、もしかしたら魔法が使えるような気がした。だから試してみただけなんだ」
そう、とだけステラは言った。
あのさ、とピノアが口を開き、
「わたしも疑問に思ってたんだけど、レンジは元いた世界に帰りたいとは思わないの? 一回もそういうこと言わないよね」
「帰れないんだろう?」
「それも、なんとなく?」
「そう、なんとなくだけど」
訊いたら君たちを困らせるような気がした、と彼は言った。
うまくごまかすか、嘘をついてでも使命を全うさせるように言われている、とピノアは言った。
「それ、話しちゃまずいんじゃない?」
彼は笑ってそう言ったが、ピノアは笑わなかった。
「他の転移者についても訊いてこないよね?」
「おそらく、ひとりをのぞいて、9998人は死んでるんじゃないかな」
それもなんとなく、わかってしまったのだろう。
「たぶん、魔王になったのは、一人目の転移者なんじゃないかな」
そんなことまで彼には「なんとなく」わかってしまうのだ。
エーテルの街灯の下で、ステラたちの驚いた顔を見て、彼のその「なんとなく」は確信に変わったようだった。
「100年前にゲートが開通したばかりの頃、ゲートが不安定だったということはない?
たとえば、テラから見て未来にあたる時代のリバーステラから転移者が現れたとか」
「とても不安定だったと聞いてるわ。
こちらの世界の暦だと今年は7529年。
あなたの世界では確か2020年だったかしら」
「そうだね。ぼくはリバーステラの暦の2020年11月11日から来た」
「今は、ふたつの世界の暦こそ違えど、同じ年の同じ日から、転移者はやってくるようになっているわ。
でも100年前の最初の転移者は2009年から来たそうよ」
「名前はわかる?」
「富嶽サトシ(ふがく さとし)」
その名を聞いた瞬間に彼ははじめて動揺を見せた。
「それが唯一生き残っている、最初で、そして、最強の転移者」
100年前、彼は大賢者と共に旅をし、大賢者にも誰にも扱うことができなかったダークマターを使った魔法をはじめて使って見せたという。
それによってダークマターがエーテルへと浄化されるのを大賢者は目の当たりにしたという。
しかし彼は、ダークマターによる魔法を使い続けるうちに、その体は魔物がダークマターを取り込むように、大きく変異していった。
やがて、ダークマターに支配され、魔王になった。
「仮に倒すことが出来たとして、魔王はどうなるのかな」
この世界において魔物は、動植物がエーテルによって変化したものだった。
魔物とは、魔素を取り込んだ動植物を意味していた。
すべての動植物が魔物になったわけではなく、人から稀に魔人が生まれてくるように、その数は動植物の総数から見れば少なく、大半の動植物は今でも以前の姿のままだ。
自我や知恵が芽生え、その肉体自体には大きな変化はなかった。
人に害ある存在ではなく、動植物にとってそれはあくまで進化に過ぎなかった。
人語を理解し会話が可能で、人間と共存が可能な存在だった。
かつては魔物だけの国も存在していた。
その体の構造はエーテルと一体化して産まれてくる魔人とまったく同じ構造だったそうだ。
「現在の魔物は、ダークマターによってさらに変異した存在。
わたしたちは『カオス』と呼んでいるわ。
スライムですら人を窒息死させるほど狂暴になっている。
カオスは死ねば、辺りにダークマターを撒き散らし、まわりにいるカオスをさらに活性化させる。
魔王の体が、魔物と同じ構造をしているのだとしたら」
「魔王を倒した者が、次の魔王になる、か……」
「魔王を倒す前に、そうならない方法を見つけ出す必要があるでしょうね」
そして、それは、ダークマターを扱える者にしか見つけ出すことができないものだった。
広場に着いた。宿はもうすぐそこだ。
「11年前、ぼくの父親がある日突然行方不明になった。
ぼくはまだ、そのとき6歳だった。
ぼくは数年前まで秋月レンジではなく、富嶽レンジという名前だった」
富嶽サトシは、魔王は、ぼくの父親だよ、
と彼は言い、宿に入っていった。
          
ステラは、レンジに尋ねた。
「わからない」
と彼は言った。
「とりあえず今夜は、ステラの言う通り、宿に泊まろう。
宿は確か一度広場に戻らなければいけなかったね」
彼は広場に向かい歩きだした。
ステラとピノアはその後に続いた。
歩きながら、彼は話した。
「この世界にやってきたとき、なんとなく懐かしい気がした。
ステラから話を聞くうちに、いろんなことがなんとなくだけれどわかってしまうのがわかった。
それがなぜだかはわからない」
テラとリバーステラの関係性のことなどだろう。
「さっきも、なんとなく、ピノアと同じようにしたら、もしかしたら魔法が使えるような気がした。だから試してみただけなんだ」
そう、とだけステラは言った。
あのさ、とピノアが口を開き、
「わたしも疑問に思ってたんだけど、レンジは元いた世界に帰りたいとは思わないの? 一回もそういうこと言わないよね」
「帰れないんだろう?」
「それも、なんとなく?」
「そう、なんとなくだけど」
訊いたら君たちを困らせるような気がした、と彼は言った。
うまくごまかすか、嘘をついてでも使命を全うさせるように言われている、とピノアは言った。
「それ、話しちゃまずいんじゃない?」
彼は笑ってそう言ったが、ピノアは笑わなかった。
「他の転移者についても訊いてこないよね?」
「おそらく、ひとりをのぞいて、9998人は死んでるんじゃないかな」
それもなんとなく、わかってしまったのだろう。
「たぶん、魔王になったのは、一人目の転移者なんじゃないかな」
そんなことまで彼には「なんとなく」わかってしまうのだ。
エーテルの街灯の下で、ステラたちの驚いた顔を見て、彼のその「なんとなく」は確信に変わったようだった。
「100年前にゲートが開通したばかりの頃、ゲートが不安定だったということはない?
たとえば、テラから見て未来にあたる時代のリバーステラから転移者が現れたとか」
「とても不安定だったと聞いてるわ。
こちらの世界の暦だと今年は7529年。
あなたの世界では確か2020年だったかしら」
「そうだね。ぼくはリバーステラの暦の2020年11月11日から来た」
「今は、ふたつの世界の暦こそ違えど、同じ年の同じ日から、転移者はやってくるようになっているわ。
でも100年前の最初の転移者は2009年から来たそうよ」
「名前はわかる?」
「富嶽サトシ(ふがく さとし)」
その名を聞いた瞬間に彼ははじめて動揺を見せた。
「それが唯一生き残っている、最初で、そして、最強の転移者」
100年前、彼は大賢者と共に旅をし、大賢者にも誰にも扱うことができなかったダークマターを使った魔法をはじめて使って見せたという。
それによってダークマターがエーテルへと浄化されるのを大賢者は目の当たりにしたという。
しかし彼は、ダークマターによる魔法を使い続けるうちに、その体は魔物がダークマターを取り込むように、大きく変異していった。
やがて、ダークマターに支配され、魔王になった。
「仮に倒すことが出来たとして、魔王はどうなるのかな」
この世界において魔物は、動植物がエーテルによって変化したものだった。
魔物とは、魔素を取り込んだ動植物を意味していた。
すべての動植物が魔物になったわけではなく、人から稀に魔人が生まれてくるように、その数は動植物の総数から見れば少なく、大半の動植物は今でも以前の姿のままだ。
自我や知恵が芽生え、その肉体自体には大きな変化はなかった。
人に害ある存在ではなく、動植物にとってそれはあくまで進化に過ぎなかった。
人語を理解し会話が可能で、人間と共存が可能な存在だった。
かつては魔物だけの国も存在していた。
その体の構造はエーテルと一体化して産まれてくる魔人とまったく同じ構造だったそうだ。
「現在の魔物は、ダークマターによってさらに変異した存在。
わたしたちは『カオス』と呼んでいるわ。
スライムですら人を窒息死させるほど狂暴になっている。
カオスは死ねば、辺りにダークマターを撒き散らし、まわりにいるカオスをさらに活性化させる。
魔王の体が、魔物と同じ構造をしているのだとしたら」
「魔王を倒した者が、次の魔王になる、か……」
「魔王を倒す前に、そうならない方法を見つけ出す必要があるでしょうね」
そして、それは、ダークマターを扱える者にしか見つけ出すことができないものだった。
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