怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧
夢を追うもの笑うもの29
ルゼに会いに暴食ダンジョンへと向かう。
ベルもルゼの所に居ると思う。
ベルは睡眠を必要としない、それは意思を持ったダンジョンコアであるルゼも同じだ。
これまでベルは夜を一人で過ごしてきた。
それがどれ程寂しく、心細かった事かと想像するだけで胸が痛くなる。
眠る必要が無いという事は、眠らなければならない者とは考える時間も行動出来る時間も違うという事。
ベルは怠惰ダンジョンの誰よりも賢く、強く、勤勉だ、そして誰とも同じ環境に身を置くことが無かった。
これまでは本当の意味でベルの理解者は居なかった、けれどルゼという妹の様な存在が生まれた事でベルにも同じ境遇で同じ時間を過ごせる相手が出来た。
これからは皆が寝ている間もルゼという同じ時間を過ごしてくれる存在であるルゼが居る。
一人で寂しく仕事だけをこなす時間は無くなったのだ。
☆ ☆ ☆
「おいーっす!」
「おいすーです!マスター!」
「おいす、マスター様」
「今日はどんな事を話してたんだ?」
「今日は、今後の暴食ダンジョンの運営の方針とかダンジョンの改造についてですね!」
「へぇー……それで今後はどういうダンジョンにしていくいつもりなんだ?」
「はいマスター!今後は一階層には殆ど手を加えずに第二階層以降を本格的に改造していく予定です!暴食ダンジョンには今後も第一階層は合宿所としての役割を果たしてもらいつつ、第二階層は怠惰ダンジョンとは違って宿泊施設とかレジャーなんかを意識して改造しようかと話していたんです!」
「レジャーか……それは人をダンジョンに呼び込むという事か?」
「いいえ、違いますよマスター。これまで通り、人が立ち入れる部分は第一階層だけです。第二階層以降にはモンスターと呼ばれる存在が安心して暮らせる街を作ろうと思ってるんです!」
「怠惰ダンジョンじゃ駄目なのか?」
「駄目では無いですが、怠惰ダンジョンは私達の軍事拠点でもあるので……リスクを分散する為にも街は暴食ダンジョンに作ろうと思ってます」
怠惰ダンジョンは俺のスキルも相まって、かなり防衛には優れてはいるがあくまでも優れているというだけで確実に安全というわけではない。
そして街というからには非戦闘員が暮らす場所でもある筈だ、だからベルはリスク分散の為にと言ったのだろう。
「それは良いけど、ここもバレれば危ないだろ?」
「何れはここの存在はばらす予定なので大丈夫ですよ!マスター……私達が本当の意味で守らなくてはならないのは怠惰ダンジョンであって、暴食ダンジョンではありません。ルゼには申し訳無いですが、暴食ダンジョンはあくまでも怠惰ダンジョンの存在をより隠す為の駒となって貰う予定です。マスターも何れは外部の人間にダンジョンの存在を話すつもりですよね?」
「……あぁ、そうだな。何れはお前達や英美里達のような存在が外の世界に出れる世界にしたいからな」
「私もマスターを同じ思いです。だからこそ、何かが起きた時の為に怠惰ダンジョンの存在は隠し通すべきだと思います。怠惰ダンジョンは最後の砦として存在を隠し、実力を隠しておく事で暴食ダンジョンがどうしようも無くなった場合の避難所のような存在にしておく方が賢明だと思いますので」
「じゃあ尚更街なんて作らない方が良いだろ。怠惰ダンジョンに第三階層以降を増やしてそこに街を作れば良い」
「……それは承諾出来ませんマスター」
「どうしてだ?」
「……怠惰ダンジョンは何があっても守らねばならないからです。その為に必要な犠牲は暴食ダンジョンが負えば済む話ですので」
ベルが何を言いたいのかが俺には分からない。
「ベル姉様の言う通りですマスター様、ここは怠惰ダンジョンを守る為に存在を許されたダンジョンですから」
「……」
「マスター、暴食ダンジョンは怠惰ダンジョンを隠し通す為に街を作ります。暴食ダンジョンに大きな街を作れば暴食ダンジョンが本拠点であると思わせる事が出来る筈です。暴食ダンジョンに多くのモンスターが増えれば増える程に怠惰ダンジョンという存在に人は気付きにくくなります。将来的にはここを外部の人間に話す事でここが日本国内にあるダンジョンで一番規模が大きく、一番危険であると思わせる事が出来るんです。もしも千尋のように強い人間が居たとして攻略されるのは暴食ダンジョンだけで済みます」
「……街を作れば住民が出来る。もしも暴食ダンジョンを攻略する為に外部の人間が来たら、街に住む者達はどうなるんだ?」
「暴食ダンジョンを攻略しに来た人間次第ですマスター様」
「……それで良い訳無いだろ」
「良い悪いでは無いのですマスター様」
「……!」
「マスター、犠牲が出ないように防衛には力を注ぐつもりです。ですが、争いになれば犠牲は出てしまうと思いますがそれは怠惰ダンジョンでも同じですし仕方が無い事です。結局は重要度の問題なんですマスター。我々が一番守り抜くべき最も重要な存在はマスターであり、ひいてはマスターが住んでいる場所、怠惰ダンジョンが最も重要な拠点なんです……だから暴食ダンジョンは怠惰ダンジョンの為に世間に公表する為の存在になるというだけですよ!囮作戦という奴ですね!」
俺という存在がベルやルゼの足を引っ張っている気がしてならない。
この先、暴食ダンジョンはベルやルゼが言ったように多種多様な種族が暮らす街を作るのだろう。
その街には戦闘には向いていない者達も暮らす事になる。
その街の存在が外部の人間にバレてしまえば日本中から攻略する為に人間が殺到するかもしれない。
そうなった時に防衛する事が可能なのかも分からないし、犠牲になる者も出てくるかもしれない。
でもそれは織り込み済みで、最初から犠牲者が出ても仕方が無いとベルは言った。
「囮なんて必要無い!最初から怠惰ダンジョンに街を作れば良い!そうすれば誰も犠牲にはならない!怠惰ダンジョンは俺が居る限り……大丈夫……だから……」
自分で言いながら気付いてしまう。
俺が居る限りは怠惰ダンジョンは大丈夫、俺の怠惰というスキルさえあれば怠惰ダンジョンを攻略出来る者など居ない。
けれど俺はいつかは死ぬ。
「マスター……」
「私やベル姉様のような存在が外に出る為には世の中に人間と同じように考え、行動出来る者達が居て、その者達が人間と共存出来るといいう事を示さねばなりません。その為に必要な事をした場合その者達が迫害され、虐げられる事もありえます。そうなればその者達が逃げる事の出来る場所を我々は用意しておかねばなりません、それが怠惰ダンジョンなのです」
「……怠惰ダンジョンはこれからも産業と軍事を中心に運営していきます。私は怠惰ダンジョンが世界中を敵に回したとしても圧倒する実力を蓄えるつもりです!その為には時間がどうしても必要です……」
ベルとルゼは俺とは視点が違うのだろう。
俺はあくまでも俺が生きている間の事しか想像する事が出来なかった。
俺が居なくなった後も世界中を敵に回す事が出来るだけの力を付ける為に、俺が生きている間は怠惰ダンジョンの存在を何としても隠して、時間を稼ぎ、戦力を整えるつもりなのだ。
人間では無い者達を守る為に。
「……何があっても犠牲者が出ないように防衛には力を入れてくれ」
「はい!マスター!」
「了解です」
人間とダンジョン。
人間と人間では無い者達。
これらが共存出来る未来を作る事が俺の夢だ。
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