怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧

きゅーびー

英雄も事件が無ければただの人29


 世界を震撼させた仮称ワーウルフの発見から2日が過ぎた。

 この2日の間に俺達の準備も最終フェイズへと移行した。
 まずは冒険者協会が正式に設立され、事務所も用意された。事務所は地元で一番大きな駅の側にある20階建てのマンションの一階に作られた。元々は博信さんが別の事業で使用する予定だったものを急遽こちらに回してくれた形だ。2階から上は元々販売しておらず、作られたばかりで誰も住んでいない。本来は1階に大海グループのテナントを入れて上は従業員の寮にする予定の建物だったらしく、部屋は一人暮らし用で狭いが部屋数が多いので冒険者協会所属の独身者に貸し出す予定だ。
 冒険者協会所属のダンジョン攻略部隊の人はこれから先、色々な場所へ飛び回る事になるので家賃を支払い続けたり家の管理が大変になってくると予想されるのでこういうものはあった方が良い筈だ。目指すは独身者にも優しい企業。

 それから一馬さんの伝手で地元の名士や名家の方々と地元で権力を持っているお偉いさんや重鎮の方々との会合が開かれた。怠惰ダンジョンからの参加者は佐々木一家と大海一家の計6人で内訳は佐々木一家からは千尋と一馬さんと雅さんの3人、大海一家は純と博信さんと朋美さんの3人だ。
 会合自体はかなりの大人数で行われ、ダンジョンの攻略とダンジョンから得られる素材を使った新たな商売の説明、それから冒険者協会の設立に至るまでの経緯と目的、ダンジョン攻略部隊の創設と育成についての説明等々を冒険者協会代表である純が、重要な事を多少ぼかしながらもしたらしいのだが、会合が行われた場は喧々囂々でまるで収拾がつかない状態にまでなったらしい。
 まぁそれはそうなるよなとも思う。日本の政府やPCHですら知らない情報を発表していて、それをいくらあの大海博信の娘が説明しているとはいえ、情報の真偽が分からないままでは協力しようにも中々賛同するわけにもいかない立場に居る人達ばかりなのだから会場が纏まらないのも仕方ない。
 そんな中真っ先に賛同したのが純の腹違いの兄達5人で、俺の義理の兄に当たる人達だ。義理の兄達は怠惰ダンジョンの事も知らず、ダンジョンについての情報もその会合で初めて聞かされたというのにも関わらず、長兄である大海航太郎さんが「純ちゃんが協力して欲しいと言ったという事は、協力すればそれだけで勝ち馬に乗れるって事だから。協力した方が得だよ」と会合の場に居た人た達に言い放ったらしい。この発言によって大海グループの不動産を取り仕切る男が言うのならばと賛同する人も増えはしたが、それでもまだまだ賛同者は少なかったらしいが。
 そこで遂に今まで沈黙していたあの男が動いた。
 そう、我らが英雄。
 千尋様。では無く、その父である一馬さんだ。
 地元の上流階級界隈では知らない人が居ない程の有名人であり、義理人情に厚い、こんな時に最も頼れるお義父さんの一馬さんだ。そんな一馬さんの言葉はとても重い。


「うるせぇ!良いから協力しねぇか大馬鹿共が!若者がこうして皆の為に命張ってんのにお前らは何をしている!あぁでもないこうでもないと!いちいち説明しなきゃわからねぇのか!今!この日本は!いや!世界は!滅亡の危機に瀕している!それを憂いて立ち上がった未来ある若者に何故お前らは上から目線で口を出してやがるんだ!恥を知れ!こうして皆の未来の為に立ち上がるだけの勇気を持った気概のある若者に何故協力してやれないんだ!お前らにも立場があるのは分かる……今日説明した事が真実である保証も無い。それでもこの場に立ってお前らに協力を求める事がどれだけの事か分かるだろう?覚悟と信念が無ければこの場にすら立つ事が許されない事がお前らには分かるだろうが!それだけで信じるに値するだろうが!俺がこの場に参加している意味をお前らが分からない訳が無いだろうが!俺はなぁ!俺だってなぁ!自分の娘が死地に向かう事を許したくは無いんだぞ!それでも俺の娘が!大事な大事な千尋が!皆の為にダンジョン攻略をすると言ったんだ!その想いを覚悟を信念を踏みにじるつもりがあるという奴は今すぐここから出ていけ!そんな奴はこっちから願い下げだ!だが覚えとけよこの俺を敵に回すという事の意味を!以上だ!」


 純が撮影していた一馬さんの親馬鹿演説を見ながら思わず笑ってしまった。
「もうこれただの任侠映画じゃん」
 なんだかんだ言っているが要約すると、俺の娘がやるって言ってんだから協力しろ。これだけである。
 言ってる事は結構めちゃくちゃだけど、それでも一馬さんが言うからこの演説は重く、会合の場に居た人たちに刺さったんだと思う。会合の場に居た皆が佐々木一馬という人がどんな人でどんな事を成してきたかを知っているからこその言葉の重み。義理人情に厚く、争いが起きれば諫め、争いが起きないように人々を纏め、色々な人を育ててきた人だから、上流階級に属する人の中にもお世話になった人は多い。
 長年続く名家の当主というのは伊達では無い。

 そんな一馬さんの親馬鹿演説のおかげもあってか、会合に参加した人全員が協力する事になった。中にはまだ納得していない人も居るのは間違いないが、そういう人達はこれから純が懐柔するだろう。
 純という英雄足りうる傑物が。


 明日はいよいよ我らが英雄である千尋様が英美里を超えるだろう。今日の模擬戦を見学したが、英美里は防戦一方で何とか千尋の隙を突いて攻撃に転じても剣精が全ての攻撃を弾いていた。攻防の完全分業が千尋が剣精を操作する上で出した一つの答えだった。これにより元から強い千尋が攻める時間が増えたのだ。
 今日は英美里が一発貰いながらも千尋にカウンターを決めて何とか引き分けで終わったが、明日になれば千尋のレベルも更に上がるので恐らく明日、千尋が英美里を超える。

「それにしても流石は英美里って感じだよな……最近はレベル全く上げて無い状態でこれだからな」

 ちーちゃん最強計画が始動してからは英美里はレベリングを行っていない。にも関わらずレベリングしまくっている千尋と未だに互角の勝負しているのだから、流石としか言いようがない。
 千尋は千尋で剣精を絡めた戦闘で自分のスタイルをこの短時間で確立させて剣精の操作性も数日前とは段違いにあげているので、やはり凄いとしか言えない。

「それに比べて俺は……やっぱ才能ってあるよなぁ」

 最近はベルと槍術の稽古をしているが、あまり成長している気がしない。確かにアニメキャラの動きを取り入れた事で動きの幅は広がった、けれどそもそも戦闘に関する才能が無いのか実戦ではうまく動けていない。ベルを見ていると特にそう感じる。

「まぁ俺はゆっくりでも強くなれれば良いかな。さて……寝る前に千尋の演説だけ見てから寝ようかな」

 会合でほとんど喋る事の無かった千尋。
 協力者を増やす為の最後の一押しにも一役買ったという千尋の演説を布団の上で寝転びながら携帯で見る。





























「私はまだこの場で発言出来る程の実績も何も無い。だから意気込みを語ろうと思う」
 大きく息を吸い込む千尋。
「私の背中を見ていてくれ!それだけが私の望む全てだ!以上!」
 そう言って千尋が顔を真っ赤に染めながら自身のテーブルに戻っている所で動画は終わった。

「我が嫁ながら可愛いかよ!」






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