怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧

きゅーびー

英雄も事件が無ければただの人26


 「……」
 無言のまま地面に正座するベルを見下ろしていると、罰の悪そうな顔を浮かべながらこちらを上目遣いで見てくる。
 アバターなので疲労は無いが、本体である俺の脳は回線が焼き切れそうな程に疲労している。ベルが本気では無かったとはいえ、格上相手に武器も持たずに応戦するには俺の技術も能力も何もかもが不足しているのは明らかだった。

「言いたい事はあるか?」

「はいマスター!」
 片手を真っすぐに上へと伸ばし意見を述べようとするベル、先程まで見せていた反省の色はもう残ってすらいない。
 思わずため息がでてしまう。
「はぁ……なんだ?ベル」
「テンションが上がり過ぎてしまいました!ごめんなさい!

 最上級の謝罪をジャパニーズスタイルで行うベル。
 俺が怒っていないのを良い事にふざけているのが丸分かりだ、けれどそれだけベルもテンションが上がっているという事の証左でもあるので俺も怒るに怒れない。
「もう良いよ……槍の訓練に付き合ってくれるんだろ?」
「勿論です!マスター!」
「じゃあとりあえず、動画を見てくれ。俺がアニメのキャラクターを模倣して動くから、ベルはそれを実践で使えるような動きにしながら俺に教えてくれ」
「はい!マスター!」
「まずは全身青タイツの方からだな」

 ベルと共に俺がネットで拾ってきた青タイツの男の戦闘シーンを見ていく。

「なるほど……このアニメーションは本当に良く出来ていますね!この青槍さんの動きを見る限り、ほとんどが実戦でも使える動きですよ!手捌き、槍捌き、足捌き、マスターの膂力があれば真似をするだけで一段上の実力になれそうです!特にこの突きからの薙ぎ払い、ここの足の動きは特に参考にした方が良いですね!体重を乗せた突きをしながらも突きが躱された後の薙ぎ払い時のこの体捌きと足捌きは凄いです!攻撃範囲の広い薙ぎ払いを相手に敢えて受けさせる事でこちらの主導権を維持したままスムーズに次の動作に移行する準備が可能になる動きですよ!良く考えられていますね!これが作り物という事に感動しました!この映像を作る為の努力と研究の成果がこの動きを見ただけで伝わってきます!」

 青タイツさんの動きを褒めちぎるベルの顔はとても輝いていて、子供のように純粋で、子供のような表情を浮かべていた。こんなにも感動してくれたのが俺も嬉しい。

「このアニメ見てみるか?」
「はい!マスター!是非見てみたいです!こっちのドレス姿で剣を使っている女の子も可愛いですし、この子の動きも凄いです!この子の動きなら無理なく再現出来そうなので、私も参考にしたいです!」

「じゃあ、今日の夜にでも一緒に見ようか。一気に見るのは流石にきついから、毎日何話ずつかに分けて見ような?」

「はい!マスター!」

 アニメ界でも屈指のバトルアニメのキャラクターの動きを無理なく再現出来ると言ってのけるベルにはどうやっても勝てそうに無いなと改めて思ってしまった。

「じゃあ次は……二槍使いの色男の方を見ようか」
「はい!マスター!」


 二槍使いの男の戦闘シーンを見る、こちらは先ほどの青タイツよりもベルの反応が悪い。現実的に二槍を扱うというのが難しいからかもしれない。

「どうだ?参考に出来そうか?」
 顎に手を当てながら眉間に皺を寄せながら映像を見ているベルに話を聞いてみた。

「うーん……私はこの人があまり好きじゃないですね!動き自体はとても良く出来ています、ただ現実に落とし込むには少し改良の余地はあると思います。それとこの人の持っている槍のように特殊な能力が無い場合、二槍を使うメリットがあまりにも少ないので私はあまりお勧め出来ませんね!取り回しも難しい上に片手で使う分威力も下がりますし、威力を乗せようとすれば体重移動がかなり無理矢理になってしまう可能性が高いです!それならば槍を二本使うよりも剣を二本使う方が威力の低さを手数でカバー出来る気がします!なので素直に二槍は諦めた方が無難です!」

「そっか……まぁ俺に二本の武器を十全に扱えるとも思えないしな、ベルの言う通りここは槍一本で練習しようかな」

 ベル的には二槍の利点というのが現実的にあまり見つからないという事なので俺も素直に諦める。

「それが良いと思います!でもこの色男が一本槍で戦うシーンはとても参考になると思います!特に、自分の槍よりもリーチの短い剣を相手に戦うシーンは凄いですよ!やはり槍の弱点は超至近距離での取り回しの悪さですからね、それを槍というよりも棒術や杖術のような動きで剣を相手に捌いているのはとても参考になりそうですから!」

「良し!じゃあ槍は一本で、基本の動きは青タイツ、超至近距離は色男の動きを参考に実践に取り入れていこう!まずは型というか動きを真似して、その後にベルに相手して貰って実践練習だな!」

「はい!マスター!」

 その後は英美里から連絡が来るまでベルと槍の練習を行った。
 初日にしては上々という感じで、俺の槍捌きも多少は改善出来たと思う。特に突きは威力が格段に上がった。今まではあまり体重移動が上手く出来ていなかったのか、ただ早さだけの突きだったのが早さと威力の両方を手に入れる事が出来た。だがデメリットもあって、突きに体重を乗せる事で威力が上がった分若干だが隙も増えるので、明日からは突きの後の次の動作に繋げる為の体重移動と足捌きを重点的に練習する予定だ。

































 英美里からの連絡を受けてベルと一緒に我が家へ帰る。
 お互いに並走しながらも会話をする余裕はある。

「俺には才能は無いって分かってたけど、やっぱり才能の差ってあるよな……今日から槍を使っているベルの方がアニメより凄い動きしてるんだもんなぁ」
「ソンナコトナイデスヨ?」
 怠惰ダンジョン最強はベル。
 はっきり分かんだね。




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