怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧
英雄も事件が無ければただの人22
昨夜は早くに床に着いたおかげでいつもよりも早い時間に起床する事が出来た。頭が覚醒するのを布団の上で二度寝しないように注意しながらぼんやりと待った。
今日は義理の父母との朝稽古と、DP次第ではあるが純の株分けダンジョンの攻略が出来るかもしれないのでそれなりに予定はある。
やらなければなら無い事さえこなせば後は自由、なんというホワイトな団体なのだろうか。ただし一部の方々と24時間ワンオペフルタイム除く。
「さて、準備だけして……居間に居れば皆集まってくるだろう……」
朝の支度の為にシャワーでも浴びようと風呂場へと向かう、台所の方からリズミカルに何かを刻む音がするので英美里が朝食の準備でもしているのだろう。恐らく誰よりも早い時間にこの家で活動しているのは英美里だろう。種族特性なのかなんなのか英美里はあまり睡眠を必要としない、今はお嫁ーずが我が家に住んでいるのでベルの居るコアルームで寝起きしているらしいが英美里が寝ている所を俺は未だに見たことが無い。
風呂場は俺よりも早くに誰かが使用したようで、浴室の床が水で濡れていた。だからと言って特に気にする事無くシャワーを浴びる。
シャワーも終え、身支度も整えた状態で居間へと向かった。
「おはよう」
居間に居た皆に挨拶しながら定位置に座る。
「おはようまこちゃん、今日は早いな」
「おはよ!」
「おはようございマスター!」
「おはようございます。ご主人様!」
「まぁ今日ぐらいはなぁ……おじさん達は何時ぐらいに来るって?」
「さっき家を出ると連絡があったからな、もうすぐ着くと思う。朝ごはんでも食べながら待ってれば良いさ」
いくら朝稽古しに来る為とはいえ、朝食も食べていない結婚間近の娘夫婦の家に来るというのは中々に業が深い問題では無かろうか。まぁ一馬おじさんにはそんな事関係ないんだろうな。
「りょーかい。ベル、株分けダンジョンは今日いけそうか?」
まだ誰も食べ始めていない状況下で一人黙々と運ばれてきている料理を食べているベルに話を振る。誰も何も言わないこの状況は冷静に考えればオカシイのだが、食いしん坊ベルがする事なので誰も何も突っ込まない。
「はいマスター!株分けダンジョンは昼以降に準備完了する予定です!準備が出来次第連絡しますね!」
それぞれの朝食も運ばれいつでも食べられる状態になったようで、英美里もベルの横に座った。
「りょーかい。それじゃあ……頂きます!」
「「「頂きます!」」」
「どうぞ、お召し上がりください!今日のご飯はエルフ渾身のお米らしいので、後でエルフルズに感想を伝えてあげてたいので食後に感想をお願いします!ベル様おかわりは要りますか?……持って参りますね!」
自分の分に手を付ける前にベルのお世話を甲斐甲斐しくこなす英美里は何処か嬉しそうなのでもはや何も言うまい。何だかんだで一番仲が良いのはこの二人な気がするしお世話されたい人とお世話したい人なので相性も良い、というか英美里が人に合わせるのが上手いだけなのかもしれない。
それにしてもエルフルズは本当に凄い。
レベルの上昇による恩恵もあるのだろうが生産性も大幅に向上して、更に俺達の口に合うように日々野菜や作物の改良まで行ってくれている。やはりエルフは最高だ、そんなエルフルズ渾身のお米と言うからには期待せずにはいられない。
艶々と光る一粒一粒が存在感を放っているお米を箸で摘んで持ち上げる。俺の好みは炊き方は固めで弾力があって、お米本来の甘味や風味がし過ぎず、あくまでも主役のお米よりもおかずという脇役にスポットを当てられるような、ベテラン俳優のように、主役だけど脇役の方が目立っているというお米だ。主食ではあるが単体では少し物足りないぐらいのお米が俺は好ましい、粘りもそこまで必要では無いので邪道といえば邪道なのかもしれない。お米を単体で食べるのであればお米の味がしっかりとした物の方が美味いと感じるとは思うが、俺はおかずありきのお米派なのだ。
「という事は今日のお米はエルフ米か……美味っ!」
お米単体でも確かに分かる美味さ。
噛めば噛むほどに風味と甘みが染み出てくる。
だが俺の好みからは少しだけ外れていると言わざるを得ないだろう。今日のエルフ米はお米単体としてはとても美味い。
このお米に合わせるおかずに選ぶとしたら香の物や梅干し、生卵、あたりだろうか。納豆も捨てがたいが、納豆ではお米自体の良さや味が主張負けしそうな気もする。納豆はお米に良く合うのは間違いないのだが、お米本来の美味さを味わうには主張が強すぎるというのが俺の持論である。
その後も焼き鮭、焼き鯖、海苔佃煮、卵焼き、目玉焼き、ウィンナー、チキンソテー、牛しぐれ煮、と沢山のおかずと食べ合わせてみた。
「なんだかんだで全部合うんだよなぁ……でも一番合うのは卵系かなぁ……時点で魚系って感じで、肉系はやっぱり少しだけ主張がバッティングしてる気もしなくも無い感じかな……やっぱり俺の好みとしてはもう少し主張の少ないお米で味の濃いおかずと一緒に食べたいかなぁ……まぁでも朝食には丁度良い感じだと思うよ」
お米はとても美味しく頂けたので感想を述べると、何処から取り出したのか英美里が可愛らしい猫のイラストが描かれている手帳に俺の感想を書き込んでいた。
「ありがとうございます!ご主人様!私も色々とお米の炊き方を工夫してみます!感想はリーダーに伝えておきますので、そのうちお米に反映されると思います!千尋と純はどうですか?」
千尋と純にも感想を求める英美里、相変わらず仕事熱心である。
「私はとても好きなお米だな。元からお米を単体で味わいたいというのもあるのかもしれないが、お漬物との相性が抜群に良かった!私は毎食このお米の方が嬉しいな!魚との相性も良いから、怠惰ダンジョンで魚介類が捕れる日が更に待ち遠しくなったよ!」
千尋は大絶賛、さっぱりとした物や魚介類が好きな人にはこのお米は余計に美味しく感じるのかもしれない。
「感想ありがとうございます!今後はご飯を別々で炊いてご用意しましょうか?」
「いや、そこまでしてもらうのは流石に忍びないから皆と一緒で良い。ただ、偶にで良いので朝食でこのお米を出して貰えると嬉しい」
「畏まりました!それと……もうそろそろお魚類のストックが底を尽きそうなのでまた買い物を頼んでも良いですか?」
「あぁ、了解した。朝食に魚が食ベられないというのは味気無いしな。また今日の鍛錬の後にでも純先輩と買い物に出掛けてくるよ。本当なら朝市で美味しい魚を仕入れたいんだが……如何せん朝は予定がな……まぁ怠惰ダンジョンで魚介エリアが出来るまでの辛抱だな!」
何気ない英美里と千尋の会話から衝撃の事実が明らかになった。千尋と純が俺の知らない所で買出しに行っていたとは思わなかった、お金はどうしているのだろうか。
「ちょっと聞いても良いか?買出しに行ってくれてたのはありがたいんだけど……支払いはどうしてたんだ?俺はお前達にお金は渡して無いよな?まさかとは思うが身銭を切ってるのか?だとしたら今後は俺の金を使ってくれ。通帳毎渡しておくから」
現状、俺が金を使う事はほぼ無い。細々とした月々の支払はあるが当分は賄える。生活費ぐらいは自分の金を使いたいという俺の小さな男の意地もある。
「それは構わないが……せめて冒険者協会からの収入が安定するまでは私達のお金は全て共同で良いんじゃ無いか?その方が管理もしやすいだろうし。そういう金勘定は純先輩が得意だから一任するって事でどうだろうか?」
「そうだね!私に管理させてくれるなら三人のお金を一括に纏めた方が管理は楽だね!だからある程度をそれぞれ残して新しい口座で管理する方が良いかな!収入が入ったらそこから各々の口座に分配すれば良い訳だし!」
「んー……本当にそれで良いのか?俺の金だけでも当分は生活には困らないと思うんだが……」
千尋や純が言ってる事の方が合理的だし正しいとは思うのだが、如何せん俺のゴミみたいな意地が素直に首を縦に振らせない。
「それだと管理する私が面倒だから!お願い!拓美君!千尋ちゃんと私の提案を受け入れて!」
祈るように懇願する純。あどけない未成年のような姿の純にこうも懇願されれば、俺に気を使っての言葉だとしても断る事は出来ない。
「……りょーかい……じゃあこれ……キャッシュカードは自分で持っておくから、通帳と印鑑渡しておくよ暗証番号は美奈の生まれた年だから」
渋々アイテムボックスから通帳と印鑑を取り出して純に手渡した。
「ありがとう拓美君!そういえばさ、美奈ちゃんって元気にしてるのかな?」
「あー……美奈は何とかやってると思う。連絡したら返事は返ってくるし、自分の力だけで解決出来ない事とかあれば俺を頼ってくるだろうから。俺とは違って優秀過ぎるからな!」
「ふふっ!相変わらずシスコンだね!まぁ確かに、美奈ちゃんに限っては何も心配要らないかもね!」
「そうだな、美奈はまこちゃんとは違って堅実だしな」
「俺の自慢の妹だからな!美奈は!」
妹を褒められて嬉しくない兄等もはや兄ではないというのが俺のモットーである。
「このタイミングで聞くのもどうかとは思うのですが……純のお米の感想を聞いても良いですか?」
今までお米の感想待ちをしていた英美里が痺れを切らして純に問いかけた。
まぁみんな大体の予想は付いてるんだが、念の為というか何というか一応体裁を保つためにも純に聞いたのだろう。
「そうだねぇ……美味しかった!また食べたい!」
コーヒーにはうるさい純だが、コーヒーに関係の無い食べ物にはあまり頓着しない。というか興味が極端に希薄なんだと思う、これが奇人変人と言われる由縁の一つなのかもしれない。
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